影響
赤城蓮夜。
その存在が与える影響は、あまりにも大きすぎた。
「……最悪だ」
それを諸に受けたのは神薙玲香の父、神薙裕也である。
世界規模に展開する日本有数のダンジョン関連企業に勤める彼は自分の娘が接触した蓮夜に関する情報を求める己が企業の社長並びに、それに伴った日本国総理直々からの圧力までもを受けることになってしまっていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ」
裕也はあの心優しい自分の娘に対して、赤城蓮夜の情報を集めるように命じたことへの罪悪感を覚えながら深々と声を漏らす。
自分の娘に人を騙し、その情報を奪うために友達になれ、などと親である自分が言ってしまったのだ。
罪悪感を覚えるのも当然だろう。
「……友達になりたかったからちょうどいい……か、娘に気を遣われるとはまだまだだな」
自分の娘から、裕也は常に蓮夜の情報を貰っている。
その情報は実に真へと迫るものばかりであり、普通であれば他人に伝えていい情報ではない。
玲香は本人から教えてもらったことを、親に情報を教えていいかまでしっかりと許可を取ったと話しているが、そんなわけないだろう。
それにしてはあまりにも情報の重要度が高いのだ。
うまく言葉巧みに吐かせたか、それとも己の手で調べたか。そのどれかは不明。
だが、確実に、許可など貰っているはずもなく。己の娘に友達を騙すという汚いことをやらせていることだけは間違いないだろう。
「朝子、俺は……ちゃんと、親をやれていたのだろうか」
玲香の母にして、裕也の妻は既に亡くなっている。
幼くして母を失った玲香をたった一人で育て上げてきた裕也は。常に肌身離さず身に着けているロケットペンダントの中に入っている己の妻の写真を見ながらひとり。
どうしようもない言葉を漏らす。
「そんなことをしている暇ではないか」
少しばかり眺めていた後、ロケットペンダントを閉じた裕也は上着を羽織って花弁を手に取る。
「……すまない。我が娘よ」
急遽、上の命令で裕也は海外へと飛び立つことになってしまった。
裕也は玲香をただ一人残していくことに謝罪の言葉を口にしながら、置き手紙を残してこの家を出ていくのだった。
■■■■■
玲香の父が頭を抱え、多くのダンジョン関連企業が動いている中で。
日本政府も実に迅速な対応を見せていた。
「一先ず、海外の動きは何とか止められただろう……欧州における一部の貴族共は勝手に動くかもしれないが、抱き込みまではしないはずだ」
世界各国への根回しに情報統制。経済的な圧力。
日本政府は完璧な対応でに近づく組織を止めることに成功していた。
「アメリカやアジアの企業群を止められただけで上出来です。ダンジョンに関する事柄に関しては我が国がかなりリードしておりますから」
「国内はどうか?」
「ダンジョン関連企業は勝手に動いていますよ。うちの国は民間が強いですから」
日本国内にあるダンジョン関連企業が他国に比べても大きな力を持つようになったその理由はダンジョンが出来たばかりの混乱期にある。
今も地方軍閥との内乱が続く中国やロシア、当初は暴動が深刻化したせいで対応が遅れたアメリカ、貴族性が復古した欧州。
多くの国に混乱が波及したダンジョン騒動の中で。
日本は民間がしっかりとした秩序をもって活躍し、その騒動を鎮めたのだ。
日本はダンジョンが出来てからというもの、勝手に民衆が暴走して勝手に制度を整えて勝手に探索者制度が作り上げたのだ。
これによって被害事態は最小限に食い止められたのだが、民間の動きがあまりにも迅速過ぎて政府が出遅れた形になってしまったのだ。
それが故に今も民間のダンジョン関連企業が時として日本政府を超えるほどに日本では大きな力を持っているのだ。
「それでも、深刻的な問題に発展するような真似はしないでしょう。そもそも彼らは政府を蔑ろにはしませんし」
だからといって民間のダンジョン関連企業が国の益に背くようなことはしないので、そこまで大きな問題になっているわけではないが。
政府と多くの企業の仲は良好である。
「そうもそうだな。目下としてはまず……彼が、何を考えているのか、だろうな」
問題は政府が赤城蓮夜個人と良好な仲を持てるかどうかだ。
「ですね」
日本の総理にその秘書官。
執務室で頭を抱えている二人はテレビの方に視線を移す。
「これが、あの山の神主であるのが問題だ」
「あそこ、ダンジョン前からヤバい神社として語り継がれていますからね」
「……高畑は、その人格面に問題ないとの評価を下した。過去の記録を見ても普通の良い子だ。手は、出しにくいが我が国の敵となりはしないと思いたいが」
「あの裕也さんの娘さんである玲香さんが、どこまで話を問い詰めてくれるか、ですね」
「……そうだな」
日本の総理と秘書官。
その二人は執務室にあるテレビに映されている蓮夜と玲香配信を注視するのだった。
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