日常

 神薙さんと共に配信しながらダンジョンに潜った次の日。


「おっ?」


 ぐっすりとうっすい布団で僕が一夜を明かし、パジャマから装束へと着替えた僕は自宅の玄関を開けて外へと出る。


「あぁ……お腹空いたぁ」


 そして、いつものようにお腹を空かしながらのろのろと自宅を出て神社の社務室へと向かった僕は、珍しいことにそこへと届け物が届けられていることに気が付く。

 うちに届け物とは……僕が神主となって初だぞ?

 

「誰からだろう」


 明日は槍でも降るのかと思いながら、僕は届け物の包み紙を開けていく。

 中に入っていたのは一枚の書類と箱である。

 手紙の差出人は日本政府からだった。


「……自由を追い求めるとのことで、こちらから何かアクションを仕掛けることはありませんが……それでも、スマホがないのは不便だと思い、スマホを送らせてもらいます……だってぇ!?」


 スマホ。

 それは僕が最も追い求め、恋焦がれる現代機器の一つである。

 

「ありがてぇ」


 書類と共に入っていた箱の中にスマホを入れてくれているのだろう。


「……うぅ、何たることか」


 政府からの手紙にはスマホを送るだけではなく、何か要望があれば登録している連絡先に伝えるよう書いてまでくれている。

 何と優しいのだろうか。これは流石に感激せざるを得ない。


「……食料を、と言いたいところだけど流石に申し訳ないしなぁ。ひとまず、このもらったスマホをどうするか、だよね。どういう契約になっているんだろう?料金とか。充電は学校でやるから良いけど……まぁ、政府もそこらへんは考えてくれているよね?」

 

 僕は貰ったスマホを社務室の金庫の中に入れ、ひとまずいつもの業務に入る。

 いつもの業務とは清掃のことである。

 誰もこない神社をわざわざ綺麗にして何か意味はあるのかとも思うが、それでも数少ないチャンスを物にするためにも清掃はしっかりと行った方が良いだろう。


「あっ!蓮夜くん!おはよう!」


 掃除の最中。

 突然、長い長い階段を登って、神薙さんが神社の方にやってくる。


「あっ、お、おはよう」


「へへっ、来ちゃった」


 想定外の客人に面食らう中で、神薙さんは可愛らしい表情を浮かべながら口を開く。


「いや……いいけど、どうしたの?突然」


「寂しくなっちゃって。家には今、誰もいなくて」


「なぁーるほど。それで同じく一人の僕の元にやってきたというわけか」


「……えっ?親御さんとか、いないの?」


「いないよ。既に死んでいる」


「ご、ごめんねっ!?私、まさか……蓮夜くんのご両親が死んでいるとは思ってなくて……」


「別に僕は気にしていないから良いよ」


「……う、うん。ごめんね?」


「だからいいってば。ささっ、切り替えて何もない神社だけどくつろいでいってくれたら。あっ、巫女服とかあるけど、着てみる?」


 僕は神薙さんをもてなさそうとうちの神社にある数少ない引き出しを開けていく。


「巫女服!?いいね!私、着て見たかったの……ねぇ、その巫女服は何着ある感じかな?」

 

 そして、ありがたいことに神薙さんはその引き出しに食いついてくれた。


「三着くらいはいつでも出せるようにしてあるよ。そこら辺の整備だけは抜かりないから」

 

「なるほどね……ねぇ、蓮夜くんって、女の子みたいよね?」


「えっ……?」


 僕は自分の目の前でニヤニヤと笑みを浮かべる神薙さんに悪寒を感じながら、困惑の声を漏らすのだった。


 ■■■■■


 それからしばし。


「……うぅ、穢されたぁ」


 僕は巫女服へと身を包みながら、地面に倒れて項垂れていた。


「準備が良すぎるよぉ。もう狙っているじゃんかぁ」


 神薙さんのカバンからはメイク道具だけには飽き足らず、ウィッグまで出てきた。

 僕の身体は今、巫女服に包まれて、その顔も神薙さんの手によって女の子のようになってしまっている。


「ライバーとしての嗜みよ。コスプレしたりもするし」


 そんな僕の前で自分と同じく巫女服に身を包んでいる神薙さんが満足げな表情で口を開く。


「というか、女の子が男の子の服を剥ぎ取ろうとしないでよぉ」


 そんな神薙さんに向かって、僕は不満げな声を上げる。

 当初、僕は彼女の手によって女装させられそうになる中でもしっかりと抵抗していたのだ。

 それなのに神薙さんは僕を女装させようと最大限の努力でもって立ち向かってきたのだ。強引に服を脱がすという荒業をもってして。

 女の子に手を出すわけにもいかない。

 防戦一方となった僕は、自分がパンツ一丁になるまで服を剥ぎ取られた時点ですべてを諦めた。


「良いのよ。本物の女の子みたいなんだから!」


「理屈になってないよぉ。それに女の子同士でも強引に服を脱がしたら駄目だよぉ」


「そんなことはいいのよ!それよりも見て!」


 項垂れる僕を神薙さんは強引に持ち上げ、少し古びた姿見鏡の前に立たせる。


「すっごくかわいいでしょ!?ナチュラルメイクしかしていないのに、このレベル!生まれながらの逸材だわ!」


「……認めたくはないけどね」


 鏡に映る僕は自分とは思えないほどにしっかりと美少女している。

 自分の隣に立つ神薙さんも同様に美少女なため、巫女服で立っている僕たち二人は実に映えていると言えるだろう。


「いっぱい写真撮りましょ!後、名前は伏せるからSNSにも投稿していい!?一緒に褒めてもらいましょ?」


「……もう、好きにしてよ」


 既に神薙さんの圧に負けている僕はテンションを昂らせる彼女のされるがままにされるのだった。

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