無双

 僕と神薙さんはカメラによって自分たちの様子を世界に公開しながらダンジョンの中を進んでいた。

 自分たちがいるのは中層と呼ばれるダンジョンの階層。

 ダンジョンはざっくり上層、中層、下層、最下層と分けられている。

 基本的に最下層は人類未踏の地、下層は世界トップクラスのみが辿り着ける地。

 

 そして、中層はダンジョンに潜ることを専業する大人、プロとしてダンジョンに潜る一部の選ばれた探索者たちが最大限の準備をしてもなお、命の危険がどこまでも付きまとう危険地帯だ。

 そんな、場所にいる魔物はどれも強力なであるはずなのだが─── 


「よっと」


 僕は自分の手にある刀を振るい、自分の方に飛び掛かってきた魔物を両断。

 また、別に飛び込んでくる魔物も刀で両断、更にどんどんとやってくる魔物に対しても刀を振るってその悉くを斬り捨てていく。


「……あまり、苦戦はしないな」


 ───僕の敵ではなかった。


「まおーくん、刀使うの美味いんだね。凄い、太刀筋が綺麗」

 

 余裕をもって魔物を倒す僕に対して、神薙さんが声をかけてくる。


「まぁ、うちの家系での教育方針で、一通りの武器は使えるようにしているから」


「えっ……?まおーくんの家ってどこかの武芸の家、だったけ?じ、神社だったよね?」


「舞で必要だからなんだってね、祖父から」


「なるほど」


 僕の言葉に神薙さんが納得が言ったように頷く……納得言ってもらっている中で悪いけど、普通は舞だからとか言って刀も槍も薙刀も弓も銃も何でかんでも武器を使えるように教育していたうちの祖父は気狂いだと思う。


「私も、負けないように頑張らないと!」


 そんなことを考える僕の傍らで神薙さんも気合を入れて魔物たちへとその力を振るう。

 魔力によってその身体を強化され、その手にある武器までもを強化する神薙さんが振るう剣は文字通り魔物を吹き飛ばしていく。

 その力は圧巻であり、圧倒的だった。


「これでラスト」


 圧倒的な力を振るう僕と神薙さんの手によって自分たちへと襲い掛かってきていた数十体の魔物が全滅するまでにそこまでの時間は要らなかった。


「……にしても、さ。ずっと気になっていたのだけど、まおーくんが倒した魔物は何の素材も残さないよね」


「うぐっ」


 魔物は倒されるとその体を光の粒子に変えて消えていくのだが、その最後に魔石や牙、爪などと言った様々ものに使える素材だけは残していくのだ。

 だが、僕の倒した魔物たちは何も残さない。ただ光となって消えていくばかりで、様々なものを落としている神薙さんが倒した魔物の数々とは対照的だ。


「これは、何でなの?」

 

 それについて神薙さんは当然のように、疑問の声を上げる。


「……あまり、深くは聞かないで。ふふふ……ぐすん」


 ダンジョンに潜って一攫千金。

 それはまず真っ先に考えたことであるが……残念ながら、僕の目論見が叶うことはなかった。

 強制的に魔物が落とす素材も、ダンジョンで採れる様々な資源も、僕が入手すれば強制的に自分のダンジョンへと移送。

 採取して地上に持ち帰ることが出来ないのだ。

 そのせいで、僕は今でも極貧生活だ。


「……なんか、ごめん」


「別に良いよ。それで?もう結構魔物と戦っているけど、何時頃配信は終わらせるの?何か、今回の配信のゴールとかは決めているの?」


「いや、実はもう私が決めていた目的は達しているから……もう、終わってもいいと言えば終わって良いのだけど」


「えっ……?」


「……いや、あのね?私としてはまおーくんが優しい良い人でみんなが警戒するような人じゃないよ!っていうことを伝えたかったの。それで、その目論見はこうして私と穏やかに話しながらダンジョンを潜っているだけで十分かなって?」


「なるほど?」


「……ごめん、私が勝手に、迷惑だったかな?それに、他にも……」


「いや?別にそれは良いよ。僕を思っての行動だろうし……ふへ、陰キャに陽キャへの拒否権はないからね。ただ、ガチ恋勢って言われている人たちが怖そうだなぁ。とは思うけど、そこは大丈夫なの?」


「あっ!ガチ恋勢に関しては平気。私は別にアイドル売りをしているわけじゃないし……何よりも、まおーくんが凄すぎて私との関係にはあまり触れられないんだよね。ちょっと、規格外な相手過ぎて」


「それは良かった」


 僕の名が何か、とんでもなく大きなことになっていそうで怖いけど。


「それじゃあ、もうそろそろ配信は終わり、ってことかな?」


「そう、だね。もう結構いい時間配信しているし、そろそろ終わりにしようか。ちょうど、私たちの方に第二陣の魔物が近づいてきているし、あそこの一団を倒したところで終わりにしようか」


 僕の言葉を受けて、神薙さんも頷く。


「よぉーし、最期だと言うならちょっとファンサービスしちゃおうかな!」


 僕は自分たちの方に近づいてきている数十体の魔物を見ながら声を上げる。


「お願い、イキシア」


「きゅーいっ!」


 そして、そのまま僕はこの場にイキシアを召喚する。

 彼女には昨日のうちから、人前では鳴き声以外を上げないように厳命してある。ここで召喚しても交尾などと口走って配信を壊すことはないだろう。


「あっ、あの時にもいた……」


「さぁ、行くよ。イキシア。魔法発射準備」


「きゅーいっ!」


 僕の言葉を受け、イキシアは魔法を発動。

 彼女の身体から蒼い炎が溢れ出し、それが一つの龍となってダンジョンを走る。


「薙ぎ払えぇーっ!」


「きゅーいっ!!!」


 そして、その蒼き龍が狙うは大量の魔物たち。

 魔物たちはその魔法に触れるだけでその身を燃やして焦がし、骨すらも残さず完全に消滅させる。

 圧巻の威力である。


「わ、わぁ……」


 硬いダンジョンの壁を一部を溶かすまでの圧倒的な威力に神薙さんも驚愕の声を漏らすのだった。

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