初配信

 今なお話題の尽きぬ学校。

 戻らぬ陰キャとしての生活。

 そのような中でも、こそこそと神薙さんと話し合って決めた僕と彼女のコラボ配信当日。


「はーい、どうもみんな。こんにちは!女子高校生ダンジョンライバーのレイナだよぉー!」


 土曜日で学校もないこの日に人気ひとけのない。

 上層、中層、下層と大雑把に分けられている中で、中層へとやっていた神薙さんはふよふよと宙に浮かんでいるカメラの前で元気よく挨拶する。


コメント

・復帰おめでた!

・こんレイナ―!

・こんレイナ!

・傷の方は大丈夫なのかな?

・こんレイナ―!

・あの後、色々とどうなったのだろうか?ここまで何の音沙汰もなかった


 そして、カメラの隣にはスマホが浮いており、そこには視聴者たちのコメントが流れていた。


「いやぁー、ごめんね?あの後から何の連絡も出来なくて、ちょっと色々あったんだよ。それでも、何とかカメラの前に戻ってこれたよ!」


 そんなコメント欄に素早く目を通しながら神薙さんは明るくしゃべり続ける。


「そしてそして!なんと!今日はコラボ相手もいるコラボ配信何だよ!ふふふ……みんなが最も求めているであろう人を連れてきたよ!ということで自己紹介お願い!蓮夜くん!」


 神薙さんは堂々と僕の本名を呼びながらカメラを操作し、そのレンズの矛先を変える。


「刮目せよ!」


 そんなレンズに映るのは黒装束に身を包み、仮面をかぶった一人の少年───この僕だ!


「我が名はまおーっ!魔を支配し、間を狩る者なり……」

 

 既に失ったはずの厨二心。

 それをこの黒装束で取り戻した僕はカメラの前でポーズを取りながらノリノリで自己紹介の言葉を口にする。


コメント

・蓮夜、くん…???

・蓮夜くん、何しているの?

・クッソ厨二で草

・???

・蓮夜くんがグレた

・さすがにこれは予想外


 そんな僕の自己紹介に対して、コメント欄は困惑しながらもこちらの本名を連発してくる。


「待って?僕の本名を連呼しないで?」


コメント

・いや、それよりもまずは服のチョイスよ

・なんだ、その恰好。

・ありえない恰好してて草

・同志だったのか…

・なんでその服をチョイスしたのか聞きたいわw


「いや、衣装としてレイナさんから貰ったのがこれだったんだよ」


 自分が今、着ている服装は神薙さんから貰ったものだ。

 クソ安い私服、配信映えするような服を持っていなくてどうしようか困っていた僕を見かねて彼女がくれたのだ。


「黒装束に仮面……これは、カッコつけざるにはいられないでしょ」


 そのあまりにも厨二心満載のチョイスには少しばかり動揺したが、実際に来てみると一度、卒業したとはいえ、心の中に厨二を飼っていた僕は流石に上がってしまう。


「ということでみんな!今日のコラボ相手は蓮夜くんこと、まおーくん!服装に関してはあまりごちゃごちゃ言わないで?みんなもあるでしょ?なんか、無性にこういうのへの意識関心が高まる時期が……そのころに、私が買っていたもので、男っぽい顔を隠せる服がこれしかなかったんだよ」


 一度はカメラの画角から外れていた神薙さんが僕の隣へと移動し、再びカメラの前にやってきた彼女が口を開く。


「同志だったか……」


 美少女でも厨二病に罹るのか。


「ん?今、何か言った?」


「いや、何も」


 僕が内心、厨二病を拗らせていたという神薙さんに驚いている間にも、コメント欄は爆速で動き続けている。


「……にしても、僕への質問が飛びぬけて多いな」


 爆速で流れるコメント欄。

 そこに書かれているほとんどが僕への質問である。

 力のことだったり、正体のことだったり、神薙さんとの関係だったり、その質問は非常に多岐にわたっている。

 好きなチョウチンアンコウの種類なんていうネタに溢れた質問まである。


「そうだね。それにしても、コメントの数も視聴者の数も凄いな。流石は今、世界で最も注目を集める男の子!」


 ……そんなに僕の注目度が高いの?

 なんか、ちょっと怖くなってくるんだけど。小市民の僕としては中々にきついものがある。


「それでも、みんなは色々と聞きたいことがあるだろうし……でも、全部は拾えないから。そうだね!私が一つだけ勝手にピックアップしてずばりと聞いてしまおう!

ということで、ずばり!まおーくんの目的は何?求めているものは何かな?」


 そんな中で、神薙さんは一つの質問をチョイスしてこちらに投げかけてくる。


「んー、そうだなぁ。それを聞かれると難しいけど。自由、かなぁ?強さや能力を理由に何かとつけて拘束されたり、特別扱いされるのは嫌かも。僕は普通に何事もなく平穏に暮らしていたい、かなぁ?」

 

 それに対して、僕は素直な気持ちを告げる。

 僕はつい最近までどこにでもいる陰キャ高校生をやっていたのだ。

 正直に言って、自分の元に政府のお偉いさんが来るまでに存在になったという実感が今になっても湧かない。

 突然湧いて出て、特に意識もなく高めていった己の戦力を前に、今の僕は持て余していると言っていいだろう。


「……なる、ほど。自由か」


「うん、そうかも。だから、みんなでこぞって僕を探したりはしないでね?」

 

 だからこそ、今はちょっとそっとしておいてほしい。

 この力を利用すれば僕の極貧生活からは脱せられるのかもしれないし、多くの物を手に出来るのかもしれない。

 それでも、今のところ僕は何か特別なことをするつもりはなかった……なんか、急に湧いて出て来過ぎて怖いし。

 

 まさか、適当にダンジョンでレベルアップしているだけでそんな強くなっているとは思わなかったのだ。

 僕はちょっとだけリアルで、R18なゲームを楽しんでいただけなのに。


「うん、それくらいかな?」

 

 僕が何をしたいのか、それはおいおい考えていけばいいだろう。

 それくらいの軽さで物事を考えている僕はその心のまま、カメラへと言葉を話すのだった。

 

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