自覚

 急に家へとやってきた蓮夜くんの一緒にダンジョンへと行こうという申し出。

 それに従って私は彼と共にダンジョンを思う存分堪能し、今日の稼ぎを折半した後に家へと帰ってきていた。


「……楽しかったな」


 蓮夜くんと笑いながら、配信のことなんて考えずにダンジョンへと潜るのは楽しかった。久しぶりに体も動かせて実にスッキリもした。


「ふへへ、可愛かった」


 家に帰ってきた私は自分の写真フォルダにいっぱい取ってしまった蓮夜くんの姿を見て表情を緩ませる。

 可愛らしい姿で、素手だけで魔物を倒していく蓮夜くんは圧巻だった。

 返り血を浴びてしまってしょぼくれている蓮夜くんの姿も、魔物と真剣に戦っているかっこいい蓮夜くんの姿も、無邪気な笑みを浮かべている可愛い蓮夜くんの姿も。

 そのどれもが私の心を慰め、安らかにしてくれる。


「……何、しているんだろう。私は」


 スマホの充電が切れるまで眺めていた私は、スマホの画面が暗く染まると共に部屋の天井を見上げる。

 蓮夜くんはこんなにも、私のために動いてくれている。

 それなのに私は何をしているのだろうか。私も……。


「配信、してみようかな」


 ふと、自分のするべきことについて思い至った私は立ち上がって、配信室へと向かっていく。

 配信を行うために整えた部屋にまでやってきた私は椅子へと腰を下ろし、PCの電源を入れる。

 私の家には雑談配信やたまにやるゲーム配信のための機材が置かれている。


「……」


 実に慣れた手付きで配信準備を進めていく私は、そのまま何の告知もなしに、昔作ったサムネイルだけを引っ張ってきて配信を始める。

 すると、軽い気持ちで始めた私の思惑とは別に、凄い速度で同説数が伸びていく。


コメント

・久しぶりー!ずっと待っていたよ!

・なんでこいつ、当たり前のように配信しているの?恥知らずにも程がある

・何の予告もなしに配信開始は流石に草すぎる

・アンチに負けず頑張ってほしいなぁ。

・劉淵に謝ってください

・死ね、今すぐ配信辞めろ

・こんレイナ―っ!いつものように楽しい配信を見せてっー!


 久しぶりに始めた配信。

 久しぶりの、自分からの発信。

 それなのに、コメント欄の反応を見る限り、好意的な意見もちらほら見える。


「……っ」


 配信は始まった。

 それでも、私の口からは何も出てこない。

 何かを言おうとして、それでも何かを言えばコメント欄に流れている肯定的なコメントすらもどこかに行っちゃいそうで。

 

 なんで私はそもそも急に配信をしようなんて……何を言えば良いのかも何も決まっていないのに。

 いや、違う。何となく行けると思ったのだ……でも、実際に配信を行うと……ッ!

 自分の息が詰まるような中で、私は何も言えずにただコメント欄を眺めることしか出来ない。

 


コメント

・劉淵のことなんて嘘に決まっているのになぁ。だって、神薙さんは蓮夜くんのことが好きに決まっているじゃないか!そのカプ以外ありえない!



 そんな中でも、爆速で動いているコメント欄の中。


「えっ……」


 その中の一つのコメントが私の目に飛び込んできたその瞬間、私の思考が硬直してしまう。


「……」

 

 私が……蓮夜、くんのことを?

 そんな───そんなの、あぁ……。

 でも、そうじゃん。


「よく考えてみれば私が委縮している理由はないんじゃないかな?って思って」


 これまで、何も告げられずにいた私の口から自然と言葉が出てくる。


「私は別にアイドル売りしているわけじゃないし、ガチ恋も辞めてね?って言っているのに男関係で燃やされても知らないとしか言えないよね。それに、本当に劉淵さんとの熱愛は嘘だしね。私、別にあの人に興味ないよ?」


 そっか……そっか、これが恋なんだ。

 知らなかった。

 だから、わからなかった。気づけなかった。

 あぁ……でも、もう、わかった。

 これが恋なんだ。

 

「そもそもとして、私には大好きな人いるから!ふふっ、私、あの子のことしか見れないの……いつか、あの子と付き合えたらいいなぁ」


 私は、蓮夜くんのことが異性としてずっと好きだったんだ。

 あぁ───もう、何も怖くない。

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