確認
自分の配信サボり。
それの罰として、次の全体配信の場で女装するように言われてしまった僕。
それへと反論の声をあげるよりも前に、ちょっと外に出かけていた垣根と琴葉が事務所へと帰ってきてしまったせいで、僕は口を閉ざすしかなかった。
「よし、それでは今度の配信のための会議と行こうか」
なぜなら、二人が帰って来ると共に全然違う話題へと移ってしまったからである。
僕の配信サボりから、今度全員でやる配信の話へ。
女装の件は僕が何かを言うより前に流れていった。
「そうね」
「ふぅー」
「よし!」
「……」
もう僕は何も言うことことが出来ない。
「それで、だ。まず話し合うべきは互いの戦力確認であろうな」
僕が何とも言えない感情を抱きながら黙っている間にも、生徒会長がこの場を取り仕切って話し合いを進めていく。
「まぁ、私たちの話はいいだろう。わかりやすいし、既にわかっているだろう?」
ダンジョンに潜るもの。
彼らが能力として与えられているのは身体強化、武具の強化、自然治癒力向上などといった効果を与えてくれる魔力である。派手な魔法とかスキルなどはない。
そんな中で、神薙さんの戦闘方法としては剣を使った王道タイプ。魔力で自身の力を強化し、切れ味を上げた剣で斬り掛かる。
生徒会長は魔力による強化は当たり前として、刀を用いる技量も重視した戦い方である。
垣根が盾を使ったタンク、琴葉が弓を使った後衛である。
ちまみに弓などは魔力を用いて使えるのだが、拳銃などは何故か使えない。その理由は未だ研究中である。
「そんな中で最も重視する必要があるのは蓮夜であろう」
「まぁ、そうだね」
僕の戦闘は色々と個性的である。
まず第一として、僕は多種多様な能力を持つ。武器庫、回復、盾。ダンジョン産の武器だからこそ持つ特異能力。他にも最近手に入った封印術など僕個人の能力のレパートリーはかなり多い。
ここに加えてさらに多種多様な魔物たちも追加されるのである。
本当に個性的な戦い方をするのが僕である。
「正直全部把握するのは無理だろう」
「うん、無理だね」
魔物の能力なんかは僕でも完全に把握しきれていない。
「良く使う能力だけを覚えていればいいだろう」
「うん。まぁ、そうだと思う」
基本的に僕もそんないっぱいの力は使いこなせないから大体固定化しているしね、自分が使う力は。
「まぁ、そんな中で。私が君の持つ能力の中でやはり画期的かつ革命的なのは魔力無しでの完全回復能力であるように思う」
「はい」
「それで聞きたいのだが、粘膜接触における裏技でもないだろうか?例えば、君の唾液を予め採取しておき、私たちが携帯するなど」
「えっ……?どうだろう、考えたこともなかった」
僕は生徒会長の言葉に疑問で返す。
そんな考え、想像は一切していなかった。
「そうなのか?真っ先に考えることだと思うが、キスしなくて済むのだぞ?この時短はかなり大きいだろう」
「そんな共闘することもないので、魔物は気絶しても治るし」
「そ、そうなのか……あの魔物たちは本当に……いや、良いか。とりあえずとして、これからは共に戦うのだ。能力把握の実験をしておきたいのだがいいか?」
「別に良いよ」
僕は生徒会長の言葉に頷き、その提案を安請け合いする。
「なるほど、それなら良かった。それじゃあ……」
生徒会長はキッキンの方に向かい、そして一つのコップを持ってくる。
「これにお前の唾液を入れてくれ。出来るだけたっぷりと、これを私たちで回し飲みするのでな」
「……」
「ッ!?」
「まわし……っ!?」
「はぁー、犯罪臭だよ」
ドストレートな生徒会長の言葉に僕は思わず呆れながらもコップを手に取る。
「……いいけどぉ」
もうちょっとオブラートに包んだ言い方とかはできないのだろうか?
初めて会話を交わした時から思っていたけど。
「んっ……」
僕はぶさくさと文句を心のうちで思いながら、己の口より唾液を垂らしていく。
「「……っ」」
「……」
「……うわぁ」
視線。視線だ。
僕がコップに唾液を垂らしている様子に四人全員が視線を送り、静かに見守ってくる。
「なんか、絶妙に恥ずかしいのだけど……」
僕はみんなからの視線、特に神薙さんと琴葉からの強い視線を感じて何処か居心地の悪いものを感じながらも、コップの中へと自分の唾液を垂らしていくのだった。
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