準備
結局のところ、僕の唾液は実に効果的だった。
彼女たちが自分の唾液を口に含むと共に僕が回復能力を発動させると他者を回復させることができた。
「……まさか、人数までごまかせるとは思わなかったけど」
基本的にこれまでの僕の能力は一人しかできなかったわけだが、実験の結果。
僕が能力を発動させたその瞬間、自分の唾液と己の粘膜を含んでいるものたち全員に効果があることがわかった。
これなら、女だけではなく男相手にも回復能力を発揮することができるだろう。
その代わり、結構な量の唾液を口にしなければ効力が発揮しないこともわかったけども。
僕の唾液生産能力的にはそこまで多くの人に行きわたらすことは難しいと思うけどね。
「まったくだ。だが、これでいいこともわかった。回復能力を温存できれば、夜の段階でありとあるゆる疲労も回復し、魔力すらも回復できることがわかったのだ。これはあまりにも大きいだろう」
「……毎日はそんなに唾液でないと思うよ?」
「別にその他の汁でもいいわけだろう?」
「「……っ!?」」
「唾液以外はなかなかに厳しいと思うけど?まぁ、実際に配信する日までにためておくよ」
「あぁ、そうしてくれると助かる」
僕の言葉に生徒会長がうなづく。
「能力の確認に関してはもういいだろうか?武器や盾のほうに関しては新しく検査するような内容もないだろうし、彼の武器が持つ効力はみんなある程度把握しているだろう?」
「そうだね。今は全力ですべての効力を覚えようとしているところで……メジャーどころは完ぺきに」
「私も配信に出てきているところまでなら」
「私も、毎回配信を何回もリピートしているからね。さすがに覚えちゃった」
「配信に出てきている武器を覚えてくれればもう十分だと思うよ。正直に言ってその他はそこまで大切なものでもないし」
「ということで能力把握は以上!」
僕の言葉を聞いた生徒会長が自信満々に終わりを宣言する。
「それじゃあ、次の段階に話を移していこう。各々に探索時の荷物を配っていくぞ。私が一応一式のセットは用意しておいた。各自、プラスして必要なものがあれば要求してくれ」
結構ずっしりとした重みのあるリュックが生徒会長のほうより渡される。
「……これが、本気でダンジョンを攻略するときの荷物か」
基本的にプロの冒険者は日帰りで中層に出向いて仕事をして帰るのが常である。
下層に行くことはあまりなく、行くとしても多くの日にちを跨いで。
日帰りで帰ってくるのなんてダンジョンの中を四足歩行で爆走して移動時間を大幅に短縮できる魔物を召喚できる僕くらいなものである。
「いまいちわからんな」
今回は配信事務所での攻略であるため、魔物の召喚は原則として禁止の縛りプレイである。
これまでダンジョン探索を魔物による力で結構ズルしてきた僕はいまいち持っていくべき荷物がわかっていなかった。
水と食料が入っているし、何か細々としたものが入っている。
もうこれだけあれば十分だよね?
うん、十分でしょ。
「私のほうには罠解除に使える道具を用意してもらえるかな?この簡素なものじゃなくてしっかりとしたものを。私は罠解除のほうには自信があるので」
「了解だ」
神薙さんを初めとする人たちが各々の荷物の中に追加してほしいものを金持ちである生徒会長へと告げている中、僕は手持無沙汰でぼーっとし続ける。
「……んなぁー。ぽぇ」
女装。
結局のところ僕は女装させられるのだろうか?
「喉乾いたな」
そんなことを考えた僕は、自分の考えを追い出すために立ち上がってキッチンのほうへと向かっていくのだった。
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