孵化

 魔物に色々なことを頼みながら順調にダンジョンのレベルを上げていき、今ではもうレベル4。 

 徐々に自分の拠点が豪華になっていく中で、卵孵化装置に入れていた卵の負荷が完了する。


「……開けて良いのかな?」


 孵化が完了したと点滅を続ける卵孵化装置に僕は困惑しながらもゆっくりとその手を伸ばして卵孵化装置を開ける。


『卵が孵化致しました。産まれたて赤ん坊は魔物保存所に転送致しました」


 すると、中に入っていた卵が消滅すると共に頭の方に再び女性の声が響いてくる。


「……なるほど」


 僕はその言葉を聞いてディスプレイを操作して魔物保存所を確認する。


「おぉ。ちゃんと魔物の数が増えている。ハイランクのシンティーラ……って、名前あるのかよ」


 今回、産まれた魔物にはしっかりと名前があった。

 

「えぇ?それじゃあ、あの子もただの魔物じゃ可哀想でしょ……って、これあれか!自分でつけられるのか!」


 疑問に思いながらディスプレイを操作していると、魔物に名前をつけられる機能が存在していた。ユニークランクだから名前をつけられるのかな?


「……よし」


 それならしっかりと名前をつけてあげよう。

 出来るだけ彼女に似合うような、そんな名前を……僕は別のところで作業をしてくれていた魔物を呼びつけて自分の前に立たせながら彼女の名前を考える。


「よし、決めた。お前の名前はイキシアだ」


 魔物を前にする僕は彼女の名前を決める。


「イキシアはね、僕が両親から貰ったこともある大切で大好きな名前なんだよ。それを君に授ける」


「……イキシア」


 僕が彼女に名前を名付けると共に魔物ことイキシアが自分の名前を反復させる。


「イキシア。イキシアイキシアイキシアイキシアイキシア」


 何度も、何度も。

 どうやら気に入ってくれたみたいだ。


「それじゃあ……産まれた魔物をこの場に出すか」


 僕は魔物保存所に待機した状態になっているシンティーラをこの場に出現させる。


「おぉ……可愛いな」


 今回、産まれた子は火種の種子を貰ったことで火属性なのか、赤の目立つ子だ。

 その見た目として、背丈はかなり小さく小学生くらい。それで明らかに人ではない姿をしているが、それでも基本的な体の構造は人と同じで中々に可愛い見た目をしている。


「ティー!ティー!」


「おぉー、可愛いなぁ」


 僕は自分の前で口を開いて鳴き声を上げているシンティーラを優しく撫でながら声を漏らす。


「それで……また卵を得るには交配が必要だよな。イキシアとシンティーラの二人で交配出来るのかな?」


 シンティーラを撫でて堪能した僕は次に、これからどう増やしていけばいいのかを考えて


「「……ッ!?」」


「って、あれ……出来ない」


 僕は交配の画面を弄るのだが」


「交尾っ!」


 そんな風に僕が困惑している中、シンティーラが僕の下半身へとしがみついて大きな声で『交尾』と口にする。


「え、えぇっ!?」


 そんなシンティーラに対して僕は困惑の声を上げる。


「い、いや……さ、流石にシンティーラとするわけには」


 そして、続く言葉として僕の口から出てくるのは拒絶である。

 一応、なのかな?

 構造としてどうなっているのかはイマイチ把握できていないけど、一応シンティーラは僕とイキシアの子供ということになるのだ。

 そんな中で、シンティーラとするなど明らかに近親相姦であり、流石に躊躇うに決まっている。


「……ひくっ」


 だが、そんな僕の言葉を聞いたシンティーラは瞳に涙を浮かべ始める。


「きゅーいっ!!きゅーいっ!!!」


 そして、イキシアは信じられないと言わんばかりの表情で僕へと糾弾する鳴き声を上げていた。


「うぐっ!?」


 完全にアウェーな雰囲気。

 魔物二人に人間が一人のこの場において、近親相姦を忌避しようとする僕はどうやら異端らしい。


「……よし、しようか。交尾」


 ここはゲームの世界である。ゲームっぽい現実……いや、違う!もうここはゲームそのものなのだ!

 現実世界の倫理観とか考えないようにしよう……だって、そもそもとして相手は魔物なのだ。こちらの文化で考えることこそ無作法というもの。

 郷に入っては郷に従えだ。

 

「交尾!交尾!交尾!」


「交尾!交尾!交尾!」


「……交尾は生々しいからせめて交配とっ」


「……交尾ッ!交尾!交尾!」


「交尾!交尾!交尾!」


「は、はは」


 僕は諦観の意を浮かべながら、交尾を連呼しながら自分のことを引っ張っていく魔物二人に引きずられて拠点のベッドに向かうのだった。

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