羞恥
体を清めた夕方から時を大きくベッドで過ごした朝。
台風も既に過ぎ去ったような中で。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ」
玲香は真っ赤に染まった表情を手で押さえながら、台風のようにベッドの上で悶え、のたうち回っていた。
「はわわ」
落ち着いて振り返って見れば。
自殺しようとしているのを見つけられ、わんわんと泣き喚き、一緒にお風呂に入ろうと誘うばかりかそのまま洗って頼み、止めには寝るまでは手握ってとまで懇願して見せたのだ。
これに羞恥を抱かずして何に抱くというのか。
「うぅぅぅぅぅ」
安らかな暖かさと共に、久しぶりの熟睡を思う存分堪能し───
「でも、蓮夜くんは……私が、裏切っても私を、助けてくれたな。えへへ」
───なおかつ、大きな依存先が出来た玲香はそのメンタルをかなり回復させていた。
「もぉぉぉぉぉぉおおおおおお!なぁんで、私はあんなことしちゃったのぉ!」
メンタルが回復した。
ゆえにこそ、昨日自分がしたことについて深く思い返し、存分に悶え苦しむことになっていた。
「うぅ……これこそがまさしく本当の熱愛報道だよぉ。私なんて、初恋すらまだなのにぃ」
いつまでも思い返されるのは自分の行い。
そして、蓮夜に全身を洗われた感触と彼の大きなものである……膨張率、二倍。
「……は、入るのかなぁ……な、何を考えているのっ!?私はっ!」
玲香は自分の頭をぶんぶんと降りながら自分の中からピンク色の妄想を振り払おうと努力する。
「……バレて、ないよね?」
存分に昨日の己の行いを悔いた後、今度は自分の寝室の状態を前に頬を真っ赤に染め上げながら声を震わせる。
そして、すぐさま蓮夜とのチャット画面が表示されたスマホの隣に置かれているピンク色の小さな物体を回収してベッドの下へと収納する。
「ハッ!?と、というか私の家っ!?」
そして、ここに来てようやく思い返す。
自分の家の現状を。
決して、自分以外の誰かを呼んではいけないことになっていた自分の家の現状を。
「蓮夜くんっ!」
慌ててリビングの方に向かった玲香の視線に映るのは随分と綺麗になった自分のリビングに、椅子に座って優雅にコーヒーを飲んでいる蓮夜の姿であった。
「あっ、おはよう」
「へ、部屋……綺麗に、なっている」
自分が好き放題荒してしまった部屋がこれ以上ないほど綺麗になっていた……これをやってくれた人間なんて一人しかいないだろう。
「あぁ、うん……ちょっと、あのままというのはきつかったから掃除させてもらった」
「……臭かった?」
あれだけゴミが散乱していたのだ。
部屋の匂いは最悪だっただろう。
「まぁ」
「……私の服」
玲香の視界には自分が脱ぎ散らした服がソファの上に乗せられているのが見える。
「あぁ、それに関してはごめんだけど、全部ソファの上に乗せちゃった。畳もうかとも思ったけど、女の子が着ていた洗ってもない服を男の僕がそんなに触れちゃいけないかと思って、そのままにしてある。しわになっちゃったりしたらごめんね?」
「……に、に、にお……いや、なんでも、ない」
私の服も臭かったかどうか、それも合わせて聞こうとした玲香の口は閉じられる。
ここで臭かったなどと言われてしまえばもう立ち直ることはできないだろうと思ったからだ。
「う、うなぁぁぁぁ」
掃除してもらったというのはありがたい。
むしろ、ここで怒れるはずがない。
だけど、一人の女として最悪の失態をしてしまったことに対して、玲香は崩れ落ちることしか出来なかった。
「ごめん。掃除、しない方がよかった?」
「ううん!そんなことは!そんなことはないの!ただ、こんな家の惨状を見せたことがぁ……」
「それに関しては仕方ないよ。色々と大変だったんだもの」
「うぅ……ありがとぉ!」
蓮夜の優しさがこれ以上ないほどに染みわたるほどに玲香の羞恥心は上がっていた。
そんな状態であっても、服は片付けなければと立ち上がうとした。
まさにその瞬間。
「ハッ……!」
とある一つのことに思い至る。
そういえば自分、下着とかをつけたまま……じ、じ、……い……行為を?
既にこれ以上ないほど赤く染まっている玲香の顔が更に赤く染まり、目が動揺と困惑、羞恥で回り始める。
「……ちょっと、今日のところは帰ってもらっていいかな?もう、自殺とか考えないから……ちょっと、ね?ふ、服の片づけは見られたくはないからぁ」
そして、玲香は震える声で一旦帰ってと懇願することしか出来なかった。
お礼とか、色々しなきゃいけなことはわかっている。でも、自分の服の現状を細かく蓮夜に知られるわけにはいかなかった。
「むぎゅっ!?」
そんなことを思いながら告げた玲香の言葉に対して、いつの間にかすぐ近くに寄ってきていた蓮夜は言葉に答える代わりに自分の顔を両手でつかまれてそのまま強引に視線を合わされる。
「……ッ!?」
キスしてもおかしくないほどの顔の近さの中で。
蓮夜の、何処までも深い瞳にジッと見つめられる玲香は思わず動揺すると共に、魅入られる。
目を、離さなきゃいけない。見てはならないと自分のどこか警報を鳴らし、それでも目を逸らすことなど出来なかった。
「うん、大丈夫そうだね」
自分の中に走る何処か不思議な感覚に玲香が困惑していた間に、いつもの慈愛に満ちた視線に戻っていた蓮夜は彼女に向かって笑顔を向ける。
「しっかりとご飯を食べてお風呂にも入り、ちゃんと寝ることっ!良いね!」
「は、はいっ!?」
……あっ、蓮夜くんの口の匂いだ。
ちょっとばかり、変態のような思考回路をしながらも昂奮してしまった玲香は後ろめたさでいっぱいになりながらも彼の優しい言葉に頷く。
「それじゃあ、僕は帰るね」
その後、蓮夜はするりと自分の顔を掴んでいた両手を離して立ち上がる。
「へあっ!?」
「神社の掃除をしなきゃだし、コーヒーご馳走様。さようなら!また来るねっ!」
「あっ……」
そして、蓮夜成分取り過ぎてかなり思考が鈍化してしまっている玲香が何か反応を示すよりも前に、蓮夜は家を出て神社の方に帰ってしまった。
「……ちょっと」
部屋の中に一人となった玲香は、服を片付けなければいけない……そうは強く思いながら……思いながらも。
それでも、玲香は再びベッドの方に戻っていくのだった。
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