掃除
特に何もなく二人でお風呂から上がって体を拭いた後。
「どうですか?お嬢様。ちゃんと乾かせてます?」
僕は神薙さんの髪にドライヤーをかけている最中であった。
「うん、大丈夫……ありがとう」
そんなドライヤーをかける僕の手は少しばかり震えている。
ダンジョンでの身体強化は美容面でも効果があって髪や肌が傷みにくくなるという凄まじい恩恵がある。
これのおかげで、ある程度雑なドライヤーでも大丈夫だとは思うけど……髪は女性の命という。
神薙さんの髪にドライヤーをかける、これに緊張しないわけがなかった。
「あぁぁぁぁぁぁ」
そんなことを思いながらドライヤーをかけている僕に対して、神薙さんは一応、気持ちよさそうな声を上げてはくれている。
「うん、もう……大丈夫かな?」
触った感じはもう乾いている感じがある。
「うん、ありがとう……もう大丈夫かな。ありがとう」
そんな僕に対して、神薙さんも満足そうに頷いてくれる。
「ふぅー」
良かった。何とか無事に終わらせることが出来た……それにしても長かった。
世の中の女性ってあれだけ毎日苦労して髪を乾かしているんだね。
普通に尊敬するわ。
「じゃあつ」
「寝ようか」
僕は神薙さんの言葉を遮って、口を開く。
「……えっ?」
「まともに寝れていないでしょ。くまが凄いよ。良いから寝な。神薙さんは既に限界だと思うよ」
「……寝なきゃ、ダメかな?」
「駄目だよ。今すぐに寝ないと」
僕は強引に神薙さんを寝室の方に押して向かわせる。
「ま、待って……嫌なの。私、一人は」
「大丈夫。僕は帰らないから」
「……本当?本当に帰らない?」
「帰らない。帰らない」
寝室の方にまでやってきた僕は不安そうに揺れる瞳を浮かべる神薙さんをベッドの上に転がす。
一応、寝室だけはまだ綺麗だった。
「ほら、おやすみ」
ベッドの上に転がった神薙さんへと僕はおやすみの挨拶を一つ。
「ずっと、私が寝ている間……ずっとここにいてくれる?
「いやぁ?それはちょっと……」
「むぅ……わかった。我儘は言わない。だから、寝るまでは……後。私の家で一人にしないで」
「それくらいなら全然」
僕はベッドに転がりながら布団にくるまってミノムシ状態になっている神薙さんの手を取る。
「……ふふっ、温かい」
「なら良かった。それじゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
真っ暗な寝室の中で。
僕に手を握られている神薙さんはゆっくりと目を瞑るのだった。
■■■■■
神薙さんが寝たのはベッドに入ってから本当にすぐのことであった。
完全に彼女が眠ったことを確認した僕は寝室の方からリビングの方に移動してきていた。
「さて、掃除しますか」
リビングで
正直に言おう。
今にも吐きそうなくらい臭かった。マジでありえんくらい臭かった。
「換気―、換気ー」
僕は窓を全開きにしてから、大きなゴミ袋を手に取る。
ちなみにしっかりと市から指定されたゴミ袋は床に大量に転がっていた。
「もうこれわざとでしょ」
僕がゴミ袋を持って、まず真っ先に向かうのが常に警報音が鳴りっぱなしの冷蔵庫である。
その冷蔵庫は野菜室も、冷凍質も、そのすべての扉は開かれており、中の冷気はすべて逃げて行ってしまっている。
「全部だめだな」
中に入っていたお肉やお魚、野菜などは全滅だろう。
「……お茶は、いけそうかな?いや、捨てとこ。こんなところでチャレンジする理由はないか」
飲み物なども全部捨てる……腐った牛乳をお皿にぶちまけたなぁ。
洗う時絶対地獄だ。
後で洗い物すればいいか。窓も開けているし、匂いだってマシになってくれるでしょ。多分、きっと、おそらく。
希望的観測によれば。
「……服はあまり触れない方が良いよねぇ。うーん。どこまで勝手に掃除するか悩むなぁ。でも、ここで過ごしたくもないし、あの状態の神薙さんに掃除を任せるくらいなら僕がやった方が良いよねぇ」
神薙さんの家の中で、僕は色々と戸惑い、躊躇いながら掃除を進めていくのだった。
あとがき
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期間中毎日特別ショートストーリ公開、二日目!
本日は『少年と少女のお風呂』です!
前話の四行でぎゅっとまとめたお風呂回を余すことなく書いた(R18ではない)ショートストーリーになっています。
興味があればぜひ、ギフトを頂けると嬉しいです。
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