金の匂い

 そんなにおかしな神社なのだろうか?

 たまに既にご神体がその地を離れてしまっている神社などはあったりするが、大体の神社に神様は滞在なされているというのに。

 気分によっては多分お願いを聞いてもくれているよ。


「うぅ……」


 僕は頭を抱えている神薙さんの前でそんなことを考える。


「まぁ、良いわ……もう。蓮夜くんの話だものね。私が気にするようなことじゃない。えぇ、そうよ。蓮夜くんは変わらない」


「……もぐもぐ」


 ぶつぶつと話している神薙さんを前に僕は焼き肉を一心不乱に食べ進めていく。

 うめぇ……本当にここのお肉はうまい。

 流石は高そうな個室に仕切られている焼き肉店と言ったところだろうか。


「……んぐっ、ふぅー」

 

 ちょっとだけお腹いっぱいだけど、まだまだ僕は胃の中にお肉と白米を放り込んでいく。

 今日だけで三日間戦えて行けるだけのエネルギーを得ておきたい。

 草やベリーだけでは全然栄養が足りないのだ。人間はどれだけ頑張っても光合成では栄養素を得られないのだ。


「……ねぇ、蓮夜くんの神社って顔出し禁止とかある?」


「別にそんなことないよ?うちはWeb上でも必死に広告を打って知名度を高めようと頑張っていた時期もあるほどだもの……全然結びつかなかったけど」


 どれだけWebで広告を打っても参拝客は増えなかった。

 やっぱり金がないからと言って、掲示板で神社に来てというスレを建ててみたり、おすすめの観光地ある?とかのスレにオススメ地として見せてみたり、しょっぼい宣伝だけでは足りなかったのだろう。


「それじゃあ、さ。配信者とかって興味ある?私のような」


「ん?別に今はないかなぁ……僕が売れる自信ない」


 自分には視聴者を楽しませられるようなスキルはない。

 陰キャたる僕は喋る内容に窮して何も喋らなくなるだけだろう。


「そんなことないよっ!」


 だが、そんな僕の言葉を神薙さんが力強い声で否定してくる。


「蓮夜くんは見た目も可愛いし、声も綺麗っ!良いところしかないよ!話していて私は多幸感を得られる」


「……」


 最近、神薙さんが僕に向けてくる感情はちょっと普通じゃない時があるからなぁ。

 彼女の評価が信用における気もあまりしない。


「それだけじゃないっ!ちゃんと売れる根拠もあるよ!蓮夜くんって実は私の配信に初めて出てきたときからずっと世間で注目されて、今では色々と憶測が飛び交うくらいなのっ!そして、蓮夜くんの素性は世間のイメージよりもすごいっ!あの陰謀論を超えてくるような存在なんだよっ!蓮夜くんが個人で持っている強さも、そして!一緒にいる魔物たちの存在も大きいっ!テイマーなんて唯一無二の個性で絶対的っ!」


 僕への評価がどれだけ高いのだろうか……」


「……いやぁ。でも。それに機材とかも高いだろうし。僕の全財産一万円しかないよ?」


 機材とかは非常に高いらしい。

 僕は近くの安いスーパーにしか行ったことがないので詳しいことはわからないが。


「機材とかは全部私のを貸してあげるっ」


「そ、そこまでしてもらうのも悪いし……なおかつ、そこまで神薙さんにしてもらってうまくいかなかったら申し訳ないし」


「うぅ、そんなに嫌かなぁ?」


「まぁ」


 陰キャに配信者だよ?

 そんなの無理ゲーに決まっているじゃないか。


「たとえっ!うまく行かなくいとも配信してくれたら毎日三食私が蓮夜くんの食事を用意してあげるよっ!……というか、配信者にならずともこれからは毎日家でご飯を食べさせてあげるけどねっ!草だけの食事じゃ駄目だからっ!」


「そ、そんなに僕へ奢ってくれるだけのお金があるの?……ちなみに、神薙さんってどれくらい稼いでいるの?」


 毎日ご飯を……?そんなのどれだけお金がかかるのかわからない……月にどれくらい稼いでいるのだろうか?


「私の月収は一億だよ」


「……えっ?」


 月収一億。

 神薙さんの口から出てきたその天文学的な値段に僕は目を点にさせるのだった。

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