日照神社
──時は今より戻ること過去───
高畑近衛。
彼が蓮夜との交渉をまとめて戻ってきた後に走り出した車の中で、高畑は瞳を閉じながら彼の護衛である美少女が運転している車の振動に身を任せていた。
「それにしても、謝礼金がたった一万というのは正気ですか?」
そんな中で、運転していない方の護衛であるイケメンの方が疑問の声を上げる。
彼が告げたのは謝礼金についての疑問である。
ダンジョンパンデミックの影響を抑えるために力を貸してもらえないかという懇願しに行った今回の話題の中で、高畑が謝礼金として蓮夜に払ったお金が一万であることにイケメンは危機感を抱いていたのだ。
「あれは彼の配慮だろう。自分は金など要らないからその他の民衆に回してくれ、というな。一万円を要求したのは政府が冒険者に対してお金をしっかりお金を払ったという事実を作るためのだろう。基本的に我らは謝礼金の代金を公表していないからな。払ったという事実が他の探索者にはいるのだ」
それに対して、高畑は冷静な態度で言葉を返す。
「……ですが、あの子は貧困なのではないのですか?せめて、持ってきた前金の百億くらいあげても。そもそもとして、本当にあの子は問題ない生活を出来ているのですか?かなりの貧困状態らしいが」
高畑の答えだけでは納得できなかったイケメンは更に言葉を続ける。
「逆に聞くが、人間が一年に数千円の収益で生活出来るとでも思っているのかね?」
それに対して、高畑は
「い、いえ、思いません……ですから」
「だからこそだろう。何かしらの生活手段があるのであろうな、彼には。あの子は特別だ」
「……特別、ですか?」
「日照神社」
特別。
その単語に疑問を抱いたイケメンに対して、高畑はたった一つの言葉を返す。
その言葉は蓮夜が運営している神社の名前であった。
「その起源を遡ることは難しい。だが、我らが天皇陛下の一族よりも遥かに長いことは確実だろう。ずっといたのだ」
そして、それに続く形で高畑が続けた言葉はにわかには信じがたいようなものであった。
「はっ!?そんなことはありえるのですか!?」
「……ッ!?」
「信じがたいであろう?だが、あり得るのだよ。日照神社は……いや、あれはそもそも神社なのかも謎だ。ただ、あの宗教施設は悠久の時よりずっと存在し、各時代の天皇陛下も支配者も手を出さなかった。GHQであっても手を出せなかったあの場は」
そんな驚愕の言葉に続く説明も、更に信じがたいような内容であった。
下手な陰謀論の方がまだリアリティがある……そんな内容だ。
それを日本の省庁のトップである高畑近衛が告げているという事実にイケメンは唖然としたものを隠せない。
それは、運転をしている美少女の方も同じである。
「……にわかには信じ難いです。何故?そこまでの特別処置を?」
「あの山には実際に神が住んでおられるのだ」
にわかには信じられない。
どういうことなのか、それに対する答えは更にぶっ飛んでいた。
「……はぁ?」
「何だ?そんな不思議そうな顔をしてダンジョンなんてものがあるのだ。神様がいても何も不思議ではない」
「いや、ですが……」
ダンジョンがある。
だから、神がいてもおかしくはない。
確かにそうかもしれないが、だからと言って簡単にそうですかと頷けるような内容ではない。
「この世界には実際に神様が存在しておられる。そして、あの神社は今となっては世界でも数少ない神様が住み着いておられる土地なのだ。それだけではない。普通のところであれば一柱、多くとも三柱であるところ、あそこでは数えるのも馬鹿らしくなるほどに住み着いておられるのだ。本当に八百万の神々が住み着いておられる」
「……はぁ」
続く怒涛の説明にもはやイケメンは生返事を返すことしか出来ない。
「テオドシウス1世によって追放されたローマ神話の神々。なおも続くキリスト教の拡大に伴って土地より追い出された神々。それら多くの神々があの神社にたどり着いたこともあって、もはやあそこの山はこの地球上の何よりも悍ましくも尊き地となっている。舗装された神社の道から抜けて山の道に入れば、我ら一般人であればたちまち祟られ、殺されるだろうよ」
「にわかには信じがたいのですが……」
「ならば、本部へと戻った後に調べてみるとよい。一般公開されていない日本国の歴史をな。お前らであれば知っておいたほうが良い……今後とも、あの神社に踏み入ることがあるかもしれないのだからな」
「……承知、致しました」
そして、最終的には今は高畑の言葉に頷くしか出来なかった。
「我らの在り方は変わらん。臭い物に蓋をするだ。何も求められる限り、何かを渡すことはない……今回は、本当に異例のことなのだ。今後、日本国が日照神社並びに蓮夜くんとどう関わっていくことになるのか。それはすべて彼の御心次第だ」
そんなイケメンの隣で。
高畑は日本政府全体は持っている蓮夜に対する態度を明確に示すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます