後悔
私の炎上騒動は完全に鎮静化した。
配信上において劉淵が私を攻撃していたこともバッチリと映っていたし、彼が捕まったこともニュースに流れた。
これによって、私をバッシングするような風潮はほとんどなくなるどころか、悲劇のヒロインとして人気を博しつつある。
まぁ、でもそんなものはもうどうだっていいのだ。
「……すぅ」
重要なのは、これからである。
私は今、蓮夜くんの神社へと訪れているのだ。
蓮夜くんと、どう話すか……私の、好きな人と何を話すか、それによって……色々と変わってくるようなところがぁ。
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああっ!?」
そこまで考えた私は変な声をあげながら蹲る。
自分でもわかる……自分の頬がこれ以上ないほど真っ赤になっているって。本当にずっと熱い。
「人を好きになったなんて初めてだからぁ」
私は蓮夜君が好きだ。大好きだ。
でも、だからこそ……色々と困っていた。自分の感情をうまく押さえつけることが出来なくて。
今にも、蓮夜君への愛が飛び出してしまいそうで。
「……うぅ」
あの一件の後、蓮夜くんはやらなきゃいけないことがあるから、と警察の方に私と劉淵の身柄を引き渡してからすぐに何処かへと行ってしまった。
そして、次の日。
既にもう神社の方に戻っているであろう蓮夜君を尋ねるために私はやってきたのだけどぉ、な、何を言えば良いのだろうか?
……か、カッコよかったぁ。私を助けてくれた蓮夜くん。
颯爽と現れてくれた時も……そ、それにき、き、き、キスだってぇ……。
「あっ、やっぱり神薙さんだ。どうしたの?こんなところで?」
「ひゃいっ!?」
うじうじと神社に入るための階段の途中で蹲っていた私はいきなり声をかけられて変な声を上げる。
私へと声をかけたのは蓮夜くんだった。
「……ッ!」
私は訳もわからずに飛び出して階段を駆け上り、蓮夜くんの前に立つ。
「お、おはよう!蓮夜くん、昨日はありがとうね!」
そして、私は訳もわからぬまま言わなければならないことを話していく。
「あぁ、うん。気にしなくて良いよ」
「そ、それで、そのっ!……ぁ」
最初は色々とパニックになっていて気づかなかった。
それでも、少し落ち着いて蓮夜くんのことを見れるようになった今ならわかる。
「その、右手は?」
昨日、攻撃を受けて失われてしまった蓮夜くんの右手には、今。
メタリックな義手が伸びていた。
「あぁ?これ、義手だよ?新しい僕の腕」
「……回復するんじゃ?」
「ん?回復は無理だよ?」
私の言葉に対して、蓮夜くんは実にあっけらかんとした態度で答える。
「そ、そうなんだ……」
私は
「どぉー?カッコいいでしょ!」
ショックを受ける私に対して、蓮夜くんはどこまでも気にしていないという態度どころか、逆に嬉しそうな様子で義手を掲げている。
「そ、そう……なんだ」
蓮夜くんがショックを受けているわけじゃない。
なら、私が蓮夜くんの義手について特に何かを言う必要も、それを否定するような理由もない。
だけど。
私の瞳からは涙が溢れ出してしまう。
何故だが、私は現実を受け入れることが出来ない。
「……?大丈夫?」
そんな私に対して、蓮夜くんは心配そうな表情を浮かべながら、瞳から流れる涙を拭うためにその右手を伸ばしてくれる。
でも、その手は。
「冷たい」
私の口から言葉が漏れる。
自分の瞳からこらえきれずに流れていく私の涙を拭ってくれる蓮夜くんの手は、ビックリするほどに冷たかった。
「まぁ、あくまで義手だからね」
「……つめ、たい」
あぁ、そうか。
私の涙を拭ってくれた、あの温かい蓮夜くんの右手は……私のせいで失われてしまったのか。
「でも、カッコいいでしょ?」
私のせいだ。
私が、不用意に、勝手に、一人で動いたから……そんな私を庇って蓮夜くんはその右腕を犠牲にしたのだ。
すべてが悪い。
そんな私に対して、蓮夜くんはどこまでも明るい笑顔を見せてくれる。
「……っ」
嫌だ……嫌だ、嫌だ。
あの、温かさが、もう……ないなんて。
「はっ、はは」
蓮夜くんは何時も、私のことを助けてくれた。
私のせいで自分の腕が断たれても、蓮夜くんは優しい笑みを向けてくれる。
「あぁ……」
それなのに、私は勝手に蓮夜くんの右腕が失われていることに酷く悲しんでいる。蓮夜くんは全然気にした様子はないのに、勝手に私だけが。
そして、その理由は自分の拠り所がなくなってしまったから、という個人的な理由だった。
全部、助けてもらっているのにぃ。
その癖に、何処までも……私はぁ、自分本位なのか。
「あぁぁぁぁぁぁぁ」
嫌だ。自分が。
どこまでも、どこまでも、どこまでも、自分で自分が嫌だった。
「大丈夫」
「……ッ!?」
それなのに。
自分に対して絶望しながら立ち尽くす私を。
蓮夜くんはこんな私を優しく抱きしめてくれる。
「泣かないで。神薙さんは泣いているより笑っている姿の方が可愛いから」
蓮夜君の身体はどこまでも温かかった。
「……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
それに対して、私はどこまで冷たいのだろうか。
私はぐちゃぐちゃになりながら、蓮夜くんへと縋りつくのだった。
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