決着

 天野と名乗った少女。

 その少女を睨みつけながら疑問の声を投げかける僕に対して、彼女は笑みを絶やすことはなく声をかけてくる。


「ただの挨拶ですよ」


「それにしては随分なご挨拶だったなぁ?」


 僕は皮肉気味に、天野へと非難を口にする。

 挨拶にしては神薙さんを殺す気だったよな?と。


「私はあくまで蓮夜様に挨拶をしに来ただけですから」


 それに対して、天野は神薙さんのことなど知ったことではないので、唯の挨拶であるなどとホザく。


「僕の腕が消し飛んだがな」


 しかしだ、向こうはしっかりと僕に挨拶をかましてしまっている。

 そもそもの理論事態が非常に腹立たしいが、その理論に従っても向こうは完全に失敗している。


「それはこちらにとっても予想外でしたが……そこまでの痛手ではないでしょう?」


「……」


 僕は天野の言葉に沈黙で返す。

 確かに、そこまでの問題というわけではない。

 魔力がなくとも使える治癒能力は既に神薙さんに使ってしまっているうえ、あの能力はあくまで即時効果。

 今日負った傷は治してくれるが、過去の傷はその限りではない。

 なおかつ、僕は魔力を用いた治癒がどうも苦手であり、これまた自分の右腕を取り戻すには至らないだろう。


 だが、それでも大した問題ではない。

 自分のダンジョンのレシピには義手が存在する。

 それを使えば特に困ることはないだろう。ダンジョン産の義手は非常に高性能で機能面的には普通の腕と変わらないからね。


「ご安心ください。私どもはあくまで挨拶をしに来ただけであり、こちらから再度手を出すことはありませんので。蓮夜様を傷つけてもしまいましたし」


「……なら、さっさと帰ってくれ」


「えぇ、承知しております……ですが、その前にそちらの方で転がっている劉淵の方を回収させてもらっても?」


「断る」


 僕は天野の言葉を即答で断る。


「天野はともかくとして、この劉淵であればしっかりと起訴して犯罪者と出来るであろう?ならば、この身柄を引き渡すことはありえないな」


「そうですか」


 僕の言葉を受け、天野は素直に頷く。


「それでは彼の処遇に関しては蓮夜様にお任せ致します……では、ごきげんよう。また今度、お迎えにあがります」


「来なくていいよ」


 天野の言葉に吐き捨てる僕に対して、丁寧な例を返してきた彼女はそのまま忽然とその姿を消す。


「はぁー」


 天野の姿が消えると共に僕は深々とため息を吐く。


「想像以上に面倒臭そー」


 これはきな臭い。

 迷宮進歩教、僕の想像以上の組織だったようだ。底の知れないところだらけである。


「れ、蓮夜くぅんっ!?」


 そんなことを僕が考えていた中、自分の元に慌てた玲香が駆け寄ってくる。


「だ、大丈夫なのっ!?」


「ん?あぁ、大丈夫だから安心して」


 信じられないような慌てぶりを見せる玲香に対して、僕は落ち着くように声をかけるのだった。




 あとがき

 愛され作家NO.1決定戦特別企画

 期間中毎日特別ショートストーリ公開、九日目!

 本日は『病んだ玲香の性なる夜』です!

 内容としては、とあるクリスマスの日におけるメンタルが回復する前の玲香における蓮夜への依存心を描いたものとなっております。

 興味があればぜひ、ギフトを頂けると嬉しいです。

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