覚悟
僕はただ自分の職務を果たしただけである。
「……迷宮進歩教。想像よりも厄介なところなのかもしれないな」
祓ったことは何も誇ることではない……ただ、堕ちているとはいえだ。あの御方を引っ張ってこれるだけの力を持った迷宮進歩教はしっかりとした敵であると認知する必要があるだろう。
「……うぅん、まぁ、蓮夜くんだし!そんなことより劉淵だよねっ!」
僕が悩み込んでいる間に、神薙さんは怒り心頭という態度で劉淵の方に自分から離れて近づいていく。
彼があそこまで神薙さんを追い詰めた元凶なのだ。
フルボッコにしてやりたり気持ちがあるのも当然だろう……だが、もうすでに劉淵が実は目覚めている可能性もある。
「かん」
神薙さんへと警戒しながら、進むように。
そう告げようとした僕の視界の端で、きらりと光るものが一つ。
「きゃっ!?」
それに素早く反応した僕は慌てて地を蹴って、神薙さんの方へと自分の腕を伸ばし、そして。
一つの光がダンジョンの中を走っていた。
「……ッ」
「……えっ?」
ギリギリ間に合ったが、少しだけ足りなかった。
僕の腕が神薙さんの身体を押すことで何とか彼女の身は守れることだけは出来た。
だが、その代わりとして自分の右腕がダンジョンを走った光によって切断されてしまった……わずかに、自分の腕を引き戻せるだけの時間が足りなかった。
「っとと」
切断された僕の右腕が宙を舞い、残った肩から大量の血が溢れ出す中、僕は迷うことなく炎を纏った特殊な剣を武器庫から取り出して自分の腕に押し付ける。
今、この場で忌避しなければならないのは僕の出血多量である。
「れん、や……くん?」
無事に止血を終えた僕は神薙さんのことは一旦、放置して自分の視線をとある一方に向ける。
「流石は、蓮夜様と申し上げるべきでしょうか?」
神薙さんを狙った一筋の光。
それを放った人物がゆっくりと僕たちの前に姿を現す。
肩の長さに揃えられた白い髪に青の瞳、浮世離れした肌の白さは何処かの異質さをこちらへと植え付けてくる。
「……ほんの、僅かだけど近いな」
僕は急に現れた少女と思われる人物を前に警戒心を解かず、いつでも動けるように構える。
「お初目にかかります。蓮夜様。私は天野。迷宮進歩教の幹部となります」
「……天野、ねぇ?」
聞いたことがあるな、その名は。
以前に僕の神社へとやってきた迷宮進歩教の幹部たちが、一度だけその名を出していた。
幹部レベルは恐らく4であろうな。
「えぇ、天野と申します。ぜひ、知っていただけると幸いです」
「……うん、忘れないよ」
友達を、傷つけようとした存在のことなど僕が忘れるわけがない。
「それにしても、凄いですね。何の躊躇もなく断たれた自分の腕を燃やすことで止血するとは……凄まじい行動力ですね。痛くはないのですか?」
「最初から覚悟していただけのことだ。別にちょっと痛いだけだ」
神薙さんの為に、ダンジョンへと潜ることを決意したあの日、僕は文字通り命を懸けることも決めたのだ。
自分の片腕が吹き飛んだことくらい何も痛くはない。
「そんなことより、お前のことの方が大事だよ……何の用?」
僕は早々と自分の右腕からは意識を外し、目の前にいる天野へと疑問の声を投げかけるのだった。
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