神の

 悲鳴を上げた神薙さん。

 そちらの方に僕が視線を向けて見れば。


「なぁ……っ!?」

  

 神薙さんが魔物の触手に囚われているような最中であった。

 彼女は今、再生の速度に攻撃の手が追いつけなくなった結果、触手による魔物の手から逃れることが出来なかったのだろう。


「ふっ」


 僕はそれを確認すると共に弓を弾き、大量の弓矢を飛ばしていく。

 一回で弓矢を五本。二度目も五本放てば、それだけで十本の弓矢である。


「きゃっ!?」


 自分の放った弓矢によって魔物の触手の全てが断たれ、それによって神薙さんが解放された。

 触手から解放された地面の方に落ちていく神薙さんはしっかりと転ぶことなく地面に着地している。


「……うーん」


 そんな神薙さんと自分の横に倒れている劉淵を見ながら僕は首をかしげる。

 どちらを優先するべきか……。

 劉淵はひとまず気絶しているし、回復にもいくら魔力があろうとも時間がかかるだろう。

 一旦、魔物の対処に戻ってしまっても大丈夫だろう。


「ふんっ」


 僕は一応、念のために劉淵の首をしなない程度の力で蹴り飛ばしてから魔物の方へと足を進める。


「大丈夫?神薙さん」


「う、うん……!大丈夫。ごめんね?情けない姿を見せちゃって」


「いやいや、全然大丈夫だよ。十分すぎるほどの時間は稼いでくれたよ。おかげで劉淵をメタメタにすることが出来たからね。ありがとう」


「……っ!ほんとだ、あの劉淵を。蓮夜くんは流石だね」


「いやぁ、それほどでも」


 僕は素直に神薙さんの褒め言葉を受け入れて頷く。


「さぁ、それじゃあ本格的にあの魔物をしばいていくことにしようか」


「うん、そうだね!」


 劉淵という不安分子を叩きのめした後、僕と神薙さんは再び向きあって


『髫エ魃会スス?・驍オ?コ??ョ髯晢スセ??ォ髯槭q?ス?ウ驕ッ?カ??ヲ驕ッ?カ??ヲ髫エ魃会スス?・驍オ?コ??ョ髯晢スセ??ォ髯槭q?ス?ウ驍オ?コ闕オ譎「?シ?』


 目の前でうねうねしている魔物。

 こいつは今、急速にその力を上げているような最中であった。


「待って……触手の、数がっ!?」


「……これは」


 力が上がると共に増えていく触手の数に、斬られてからの再生速度。


「こ、こんなに強くなっているのねっ!?」


 僕は魔物の触手と切り結びながら悲鳴を上げる。

 思ったよりも魔物が力をつけていく速度が速い……!


「これは、かなり早くを倒さないとマズいかもっ!?」


「そ、そうだね……い、イキシアちゃんとかにお願い出来ないかな?!」


「ちょっと厳しいっ!」


 僕の魔物は現在、フル稼働中である。今から配置転換など絶望的である。


「……って、うん?」


 どうするか。

 そんなことを悩みながら僕と神薙さんの二人で魔物の触手の波を抑えていた中。

 僕はとあることに気付く。



「……なんだ。貴方は堕ちた──」



 力が跳ね上がると共に、その真なる力を開示し始めていた魔物を目の前にする僕はようやくになってその魔物の本質へと気づく。


「流石に予想できないって」


 僕は想定外の答えに肩をすくめる。


「こんなところにあんなものを出せば動きも悪かろうて」


 そして、劉淵の行ったことの愚かさに苦笑する。


「ごめんっ!神薙さんっ!少し任せたっ!」


「えぇぇっ!?」


 僕はいきなり動きを止め、刀も手から離す。


「ちょっ!?」


 僕という戦力が抜けたことで一気にスカスカになってしまった前線。

 それを前にして魔物勢いは爆発的にあがり、神薙さんを押し始める。


「う、嘘でしょ!?」


 当然の如く、一気に神薙さんが押されていく。


「あっ!?」


 そして、そのまま神薙さんが触手を前に耐え切れた時間は三分もなかった……だが、それだけあれば十分である。


「きゃぁぁぁぁああああああああああああああああ?!」


 再度、触手に捕まった神薙さんが宙へと持ち上げられていく中。


「祓いたまえ清めたまえ」


 僕は片手を魔物の前へと突き出してただ小さく一言。


『髫エ?髫エ蟶カ?コ?驍オ?イ遶丞」コ蜃ー髣包スウ??サ驍オ?コ??ョ髫ー??ケ謨厄スー』


 それと共に、魔物の身体が一気に淡い光に包まれると共にその体が徐々にほどけて光となって消えていく。


「ふぅー」


 あそこまで苦戦させられていた魔物も、その姿を一瞬で消していった。

 しっかりと天の方に帰ってくれただろう。


「な、何をしたの……?」


 再度、魔物の触手から解放されて地上の方に降りてきた神薙さんは、事態をうまく呑み込めていないのか不思議そうに首をかしげながら疑問の声を口にする。


「ん?神主として、ケガレを祓っただけだよ。お祈りは僕たちの神主の専売特許さ」


 そんな神薙さんを前に、僕は軽い口調でただ、自分の職務を果たしただけであると回答するのだった。




 あとがき

 愛され作家NO.1決定戦特別企画

 期間中毎日特別ショートストーリ公開に関して、天皇陛下の誕生日で世間が休んでいるので僕も休みます。

 決してネタ切れで何も思いつかなかったとかではないです。決してっ!

 ……あの、何か見たい話とかあったら教えてほしいです。もうそろネタ切れ。

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