本当の魔

 自分の目の前にいる醜悪な化け物。


「ふぅー」


 それを前にして僕は武器庫の方から一つの剣を取り出して構える。


「わ、私も戦えるから!」


 そんな自分の横に、神薙さんも剣を構えて立つ。


「メインは僕が戦うから、神薙さんはサポートをお願い」


「わ、わかったわ!」


 自分の言葉に神薙さんが頷いたのを確認した僕は地面を蹴り、魔物との距離を詰めていく。


「よっと」


 急接近する僕に対して、魔物は自分の身体に生えている幾つもの触手でもって対応しようとし───その触手は僕の剣によってその悉くを切断された。


「はぁっ!」


 そして、そんな僕と入れ替わるように魔物との距離を詰めた神薙さんが容赦なく魔物の片目へと剣を突き刺す。


「剣を手放して下がって、神薙さん」


「はいっ!」


 神薙さんが僕の言葉を受けて、後方へと下がるの同時に貫かれた魔物の瞳から紫色の煙が溢れ出す。


「あげる」


 それを横目に僕は手ぶらとなってしまっていた神薙さんへと武器庫から剣を取り出して渡す。

 それと共に僕はもう次の攻撃のために動きだしていた。

 魔物の身体の上に立った僕はそのままその皮膚へと剣を突き刺し、巨大な魔物の上を疾走。

 勢いよく魔物の皮膚に傷を広げていく。


『鬨セ讒ォ?ク蜻サ?シ讓」?讒ォ?ク蜻サ?シ讓」?讒ォ?ク蜻サ?シ讓」?讒ォ?ク蜻サ?シ讓」?讒ォ?ク蜻サ?シ』


 それを受けて悲鳴のような鳴き声を上げる魔物はそんな中でも再生させた触手を自分の方に伸ばしてくる。


「蓮夜くんに触れるな」


 だが、その触手の数々は神薙さんの剣によって断たれていく。


「……存在感は上々。だけど、その動きが悪いな」

 

 目の前にいる魔物の格はかなり高そうではあるのだが……何かしらの制限でも受けているのか、その力のほとんどを振るえずに悶えながら触手を再生しづけていた。

 

「な、何をしているのだっ!?」


 何も出来ずに僕と神薙さんの猛攻を受けて苦しんでいる魔物を見ながら動揺の声を上げる。


「く、クソっ!?全然使えないではないかっ!」

 

 そして、そんな不甲斐なさに憤怒する劉淵が拳を握って戦意を見せ始める。


「御免っ!神薙さんっ!その魔物の対処は任せるっ!」


「は、はいっ!?」


 それを受けて僕は魔物の対処を神薙さんに任せ、自分の敵意を劉淵の方へとぶつける。


「ここで、殺させてもらいますよっ!蓮夜様っ!」


「それだけの殺意を向けておきながら、わざわざ敬語を保つ必要はないでしょ!」


 僕は自分の方へと迫り、その握られた拳を振るわんとする劉淵に対して、武器庫から盾を取り出して受け止める。

 絶妙なタイミングで僕が盾を取り出したことに対処できなかった劉淵はただ愚直に盾を殴るだけで終わるばかりか。


「よっと」


 強引に盾を横に投げすてた僕によって、そのまま盾と共に遠くへと吹き飛ばれていく。


「ぐぬっ!?」


「ふっ」


 そして、次なる僕の手は弓だ。

 

「……ッ!?」


 盾から弓へと獲物を持ち換えた僕は次々と矢を放っていく。

 僕の投げた盾と共に吹き飛ばされていった劉淵は次々と自分に向かって放たれる弓矢から逃げるように走り出す。


「くっそ、ガァ!?」


 近づこうとする劉淵を防ぐように弓矢を飛ばし、すべてを避けようとする劉淵をあざ笑うかのように僕の放つ弓矢がどんどん彼の体を掠めていく。


「……」


 淡々と弓矢を飛ばし続ける僕と、一生懸命逃げている劉淵。

 先に限界を迎えるのは当然の如く劉淵の方であった。


「あぁっ!?」


 とうとう回避しきれなくなった劉淵の足を僕の弓矢が完全に貫く。


「……ふっ」


 足に弓矢を受けて転ぶ劉淵。

 そんな彼との距離を一気に詰めた僕はそのまま劉淵の腹へと強烈な蹴りを一つ。


「ごふっ!?」


 幾つものあばらを折り、内臓にも傷をつける僕の蹴りを受けた劉淵の口から大量の血が溢れ出しながら地面に倒れる。


「ふっ」


 そんな彼を追い打ちを僕はかけていく。

 弓矢を受けてない方の足へと僕はかかとを落とし、そのまま劉淵の骨を粉砕。

 続くは未だ無事である両腕。

 そこにも僕は蹴りを入れて完全に両腕を使い物にならなくさせてやる。


「ふんっ」


 そして、最期は腰の骨だ。

 僕が勢い良く踏み下ろした僕の足は確実に劉淵の骨を打ち砕いた。


「ぐっ、あぁぁ」


「さて、と」


 劉淵の無力化は成功。

 とりあえずはこの劉淵からあの魔物についての詳細を問いただすべく僕が口を開こうとする。


「きゃっぁ!?」


「……ッ!?」


 そんな、タイミングで僕の耳へと神薙さんの悲鳴が聞こえてくるのだった。

 

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