第五章 極貧配信者爆誕
久しぶり
結局のところ、どれだけ神薙さんが高校に登校していなかったとしても、うちのクラスの話題の中心は彼女にあるのである。
劉淵が神薙さんに襲い掛かっていた様子が配信されたことで完全に鎮静化したと言える彼女の炎上騒動。
あの日を迎えてからの初めての登校日。
「ねぇっ!あの後、結局どうなったのっ!?」
「玲香は無事だったのっ!?」
「そ、そ、その手……何かあったのかっ!?」
僕は大量のクラスメートたちに囲まれて質問攻めになっていた。
そして、何もこの場にいるのはクラスメートたちだけではない。
学園中の生徒たちが集まっており、
「ふぅむ……この義手、どうなっているんだ?かなりの力を感じるか」
その中には何時ぞやにおいて、あり得ないほどのセクハラ発言で僕を困惑させた生徒会長もこの場にいた。
「何をしているんですか?生徒会長」
そんな彼女は今、僕の義手にご執心であり、ベタベタと触れて色々と弄っている。
「ちょっと見て見たくてだな」
「そうですか」
まぁ、生徒会長は変わっている人だ。
あまり深くは聞かないでおこう。
また変な発言されても反応に困ってしまうし。
「そんなことより玲香はっ!?」
生徒会長から視線を外せば、僕の前にやってきているのは神薙さんについて聞きたくてしょうがない人たちである。
「……僕の義手はそんなこと扱いなの?」
クラスメートだけでなく、学園中の生徒が集まって疑問が向けられる。
これで思い出すのは初めて、僕が神薙さんと深く関わることになった自分にとっての始まりの日であろう。
あの日との違いと言えば、あの時はこちらを見ているだけであった人たちが自分の元にやってきた直接訪ねていることだろう。
何だかんだで陰キャである僕もちょっとずつクラスに溶け込んできていた。
「それで、神薙さんに関してだけどあの人はちゃんと無事だよ。怪我とかも特にしていないから。問題はメンタル面だけど、普通に配信出来るレベルにまで回復しているから、もうそこまでの問題でもないんじゃないかな?僕と話すときとかもいつも元気だよ」
僕はみんなの前で、しっかりと聞こえるように神薙さんについて自分の知っていることを喋っていく。
「じゃ、じゃあ、玲香は何時頃になったら学校に来てくれるようになるかな?」
「さ、さぁ……?それはちょっとわからないかなぁ?何か、学校で嫌なことでもあったとか、なのかな?そこらへんに関しては僕もわからない。そもそも、あまりあの炎上事件について僕は聞いていないし」
僕は一人の男子生徒からの言葉に対して首をかしげながら答える。
そもそもとして、なんで急に高校へと来なくなったのかもわからない僕としては何時になったら神薙さんが学校に来るのかと聞かれても困惑するしかない。
「そ、そっかぁ……まぁ、でも!神薙さんはひとまず無事なんだよな!それだけでもホッとで」
僕の言葉に対して落胆したような表情を隠せなかった男子生徒は、それでも神薙さんが元気であるということを聞いてホッと一息を漏らす。
そんな瞬間に。
「……えっ?」
廊下であがっていたざわめきと共に、クラスへと入るための扉が開けられる。
「玲香っ!?」
扉を開けて中に入ってきた人物。
それは神薙さんであった。
「玲香っ!?久しぶりっ!」
「も、もう大丈夫だったのっ!?」
「おはようっ!久しぶりだね!」
それを受け、これまで僕に集まっていたすべての人たちが吸い寄せられるように神薙さんの元にやってくる。
「うん、おはよう」
それに対して、神薙さんは短い挨拶だけを済ませると、何事もなかったのように自分の周りにいるクラスメートたちの包囲網を抜けて、こちらへとやってくる。
「おっはよぉー、蓮夜くん」
そして、そのまま自分の前に立った神薙さんは僕に向かって満面の笑みと共に挨拶の言葉を告げるのであった。
あとがき
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