覚悟

「ささっ、どうぞ。こちらに」


「失礼します」


 一人でやってきた高畑近衛さんを僕は以前も座ってもらった場所に案内する。


「それで?此度は何の用でしょうか?」

 

僕は自分の対面の位置に座る高畑近衛さんへと疑問の声を投げかける。


「……本題に入る前に、少しばかりよろしいですか?」


「いいですよ、なんでしょう?」


「ここまで、蓮夜様はダンジョンに潜っておりませんでした。ですが、ここ最近になってダンジョンへと赴く機会が増えました。これからは、どういった風の吹き回しなのでしょうか?」


「あぁ、そんな大それた話じゃないですよ?ただ、覚悟が出来ただけです」


 高畑近衛さんが告げる疑問の声。

 それに僕は自然な口ぶりで答えていく。


「覚悟、ですか?」


「えぇ、そうです。以前にも話した通り僕の力は棚ぼた的に手に入れたものであり、自分の物であるという強い意識がありませんでした。これに関しては今も変わりませんが、ただ事情が変わりました。戦う理由が出来たのです。ゆえに、僕も命をかけてダンジョンに潜る覚悟が付きました」


「……戦う、理由を聞いても?」


 覚悟が出来た。

 そう話す僕に対して、高畑近衛さんは疑問の声を上げてくる。


「僕は自分の友だちを傷つける人間を許さない」


 これだ。

 どこまで行っても……僕は神薙さんを傷つけた人間を僕は許すつもりなどまるでなかった。


「ね、ネットでのひぼ」


「あぁ、別にそこに関しては何かするつもりもないですよ。人間が人間である以上仕方ないことですから」


 僕の言葉に対して、言い訳でも口にするかの如く口を開いた高畑近衛さんの言葉を遮って自分の考えを打ち明ける。


「人類に期待するなど愚かな考えですよ」


「……随分と、らしいですな」


「我が家はずっとこうですよ」


 うちの家は百年なんていう単位など目じゃないほどに、ずっと神社を守り続けている一族だ。

 長い歴史の中で培ってきた多くの人類の愚かさについての教訓がある。

 それらを教えられる僕たちの一族は過剰に人類のことを期待することはない、ただ我らは神様の代行者として見守るばかりである。


「ただ、悪意を持って神薙さんを追い詰めた者たちがいる。それならば、話は別でしょう?」


 これがただの炎上事件であれば僕は首を突っ込むつもりはなかった。

 人の前に立つというのは多くの人から期待と失望を集めることであるからだ。

 多くの人からの感情を受けて立ち上がるか、それとも潰れるかはその人次第であり、あまり僕が関わることではないだろう。

 もしも潰れてしまったのなら、僕は友達として彼女を支えられるように最大限努力するけどね。


「……彼らについては」


「ある程度目星はついているので、助言はそこまで欲していないですよ?それはあまり話すべき内容ではないでしょう。我が国は宗教の自由が保障されている健全な民主主義国家ですから。今はもう貴重になってしまった民主主義を破壊する必要はないですよ」


「……恐れ入ります」


「自分に関する事柄についてはここまででよろしいですか?」


「えぇ、大丈夫です。真摯に答えてくださりありがとうございます。それでは、本題に入らせていただきます」


「えぇ、わかりました」


 僕がダンジョンを潜り始めた理由について、軽く言葉を交えた後に本題の方へと入っていくのであった。

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