事情

「それでは、あの力が何なのかについて色々と尋ねさせてもらってもよろしいですか?」


 高畑近衛さんから聞かれたのは配信中に見せた僕の力についてであった。


「……その、自分も正直に言ってあまり把握していないのです」


 それに対して、僕の答えはどうしても曖昧になってしまった。

 だって、自分もイマイチ把握できていないのだから仕方ないというもの。


「それでも構いません。聞かせてもらえますか?」


「……少し、前の話です。自宅の庭の方に謎の石碑が出現致しました。それに触れると、僕は突如してダンジョンの中へと転移。そこで僕はどういう原理なのかはイマイチ把握していないのですが、ダンジョンの中で魔物を育てながらダンジョンの内部を豪華にしていくというゲームのシステムが出来るようになったのです。自分が召喚している魔物はそのダンジョンの中のもの。影から武器を出したり、回復したりはそのダンジョン内部で手に入れたものです」


 それでも、僕は自分の手の中にある情報は一切秘匿せず、丁寧に解説していく。


「……つまりは、一つのダンジョンを支配したということになるのでしょうか?」


「おそらくはそういうことになると思います。ですが、その理由はてんで。自分では皆目見当もつきません。なので、配信上で言っていた自分が神主だから、神様がご加護をくださったというのも自分の中ではあながち間違いでもないのですよ」


 僕はいつ、高畑近衛さんがこちらに攻撃してきてもダンジョンの中へと逃げられるようにしながら、正直に答えていく。

 僕は所詮、ただの高校生である。

 ここで変に誤魔化すよりは素直に事情を明かす方が良いだろう……どうせ、ここで黙っていたからと言って永遠に隠し事を出来るわけではないのだから。


「……なるほど。それでは、その石碑の元に案内してもらえますか?」


「いいですよ」


 立ちあがった僕は素直に高畑近衛さんの言葉に頷き、庭にある石碑の方へと向かっていく。


「こちらです」


「……なるほど。これか。触れてみても?」


 石碑の前に立つ高畑近衛さんは何を考えているのかわからないポーカーフェイスを維持したままこちらへと触れていいかどうかの確認をしてくる。


「どうぞどうぞ。いくらでもお調べください。何か、わかったことがあるのでしたらぜひ自分にも教えていただきたい」


「うむ……お願いできるか?」


 高畑近衛さんは僕の言葉に頷いた後、自身の後ろへと声を向ける。


「それでは私が失礼して」


 それを受け、三人組の中の一人であるイケメン君が前に出てきてゆっくりと石碑に触れる。


「……何も起こりませんね」


 だが、それでも石碑に何ら変化は見られなかった。


「ただの、石のようです」

 

 そして、そのまま触れた手で石碑を撫でても何も起きない」


「……あれぇ?僕が触れたときは普通に起動するんですけど」

 

 ダンジョンの中には少し念じるだけで移動できる。

 なので、最近は僕も石碑に触れる機会はあまりないのだが……それでも、無反応なんてことはないと思うのだけど。


「ちょっと失礼」


 僕はそんなことを考えながらイケメン君の前に割り込んで、石碑へと触れる。


「ありゃ」


 すると、たちまち石碑は燦々と光り輝くと共に己の瞬きの間に自分の目の前に広がる景色が一変する。


「……ダンジョンの中やな」


 そして、そこはもちろん既に自分が慣れ親しんだダンジョンが広がっている。

 今日も今日とて、一生懸命魔物は作業を頑張ってくれていた。


「戻るか」


 僕は魔物たちへと簡単な命令を下してから、心の中で軽く念じて再び現世の方に戻ってくる。


「「「うおっ!?」」」


 三人の視点ではいきなり消えて、いきなり再び現れたことになるのだろう。

 僕が現世に戻ってくると共に三人は、これまでポーカーフェイスを保っていた高畑近衛さんまでもが驚愕の声をあげる。


「と、いうわけなのです」


 そんな三人を前にダンジョンから戻ってきた僕は両手を広げて笑みを浮かべる。


「ど、どうなっているのだ……お前は、ダンジョンの」


 そんな僕を前にしてイケメン君は動揺のあまり勝手に言葉を漏らしてしまう。


「と、言われましても……正直に言って自分もイマイチわかりませんし?」


「ほ、本当にそうなのか?ダンジョンに、入れるなど聞いたことがない……本当は、人類の敵なんじゃ」


「あっ!?おい!」


 そして、首をかしげる僕を無視してイケメン君はそのまま勝手にこちらを敵認定してくる。


「それに己が人類の敵でしたら、もっと熱烈に歓迎しています……こんなふうにね?」


 そして、僕はここにきて大量の魔物を召喚させ、三人をぐるりと囲ってみせる。


「「「……ッ!?」」」


「すみません……自分は、日本国に対して喧嘩を売るつもりは流石にありませんが、それでも言いなりになるつもりはありませんので」


 そのまま僕はぺろりと舌を出しながら言葉を続ける。


「自分だって訳がわかりませんよ。それでも、僕は善良なる一市民として、日本に危害を加えないと誓いますし、おっさんとキスしろ!などという無茶な命令を除いては最大限協力すると誓いましょう。どうか、自分と仲良くしてほしいですね」


 僕は魔物をだしっぱにしたまま、静かに自分の手を差し出す。


「もちろんだとも。先ほどはうちの部下がすまなかったね」


 そんな僕に対して、すぐさま切り替えて柔和な笑みを浮かべる高畑近衛さんはこちらの手を取ってこちらと熱い握手を交わすのだった。

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