来訪者

 唐突に現れて、嵐のように去っていた高畑近衛さんたちご一行。

 熱い握手を交わした後、軽く言葉を数度交わしてからはもうお開き。今回、聞いた報告を持ち帰るとして彼らは去っていた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ミスったかなぁ?」


 そんなこんなで一人、自宅の中に残された僕はベッドの上で頭を抱えていた。


「最後の余計、だったかなぁ?いや、でもなぁ……」


 その理由は己の行動の是非。

 最後の最期で魔物を使って脅したことの是非だ。


「……むぅ、でもあのまま何もしないのもなぁ?」


 相手に舐められるだけ舐められ、言われるがままに国の敵認定されても困る。

 こいつに手を出したらヤバいかもしれないと思わせ、それと共に友好的に接する意思があるのと利用価値を示すために行った僕の行い。

 これは間違いじゃないよね?

 う、うーぬ。だ、大丈夫だよねぇ?

 この世界は既に弱肉強食、めちゃくちゃ強い人も日本にはいるしぃ、その中の枠組みに僕が追加されても大丈夫だよね?

 

 というか、……そもそもとして僕は普通に強いのだろうか?

 イマイチ自分の力が把握できていない。上の人間がどれだけ強いのかがさっぱりわからない。


「どーしよう。これで国から敵認定されちゃったら、まともな生活を送れな……ん?でも、僕ってば金がなさ過ぎて国から得られる恩恵などほぼないようなものなので、実はあまり問題ない?むしろ、開き直って犯罪行為に走れる分、僕の生活は豊かに、なったり……いやいや、何を考えているのだ。僕は。普通に僕をフルボッコに出来る戦力があるだろうし、何より、倫理的に不味いでしょ。お天道様に怒られる」


 僕は自分の中に浮かんできた悪い考えを頭を振って追い出す。


「はぁー」


 ここで、どれだけ僕が悩んでいたとしても何かを出来ることはない。

 一応、高畑近衛さんは今のところ何も気にすることはない。自由に日本国の法律に従って生活してくれれば良いと言われている。

 一先ずはそれを信じて日常生活を送るしかないだろう。


「……今、僕の話はどれくらい大事になっているんだろう?」


 だが、それでも心配なものは心配。少しでも情報が欲しいところではあるのだが、残念なことに僕は生粋の貧乏である。

 僕の手元にはスマホもなければテレビもない。神薙さんの配信で見せた僕が今、どれだけ話題になっているのかを知る術もなかった。

 どれだけ心配でも僕が出来ることは何もない。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、世界よ。俺を助けて。金〇恩。助けて」

 

 ダンジョン騒動の対抗策として。

 自国内にあるダンジョンへの侵入を一般人並びに軍人へと全面的に禁止し、自分の一族だけ入れるようにして魔力がもたらす強さを独占して完全なる独裁を確立した金〇恩へと助けを求めながら、僕は呻き声を上げる。


 ちなみに、金〇恩が世界に向けて行った核廃絶宣言。

 その中で金〇恩が告げた『アイ・アム・アトミック』は今でも伝説である。淫夢に並ぶMADの素材……らしい、和人が満面の笑みで話していた。


「……とりあえず飯だな」


 色々と悩みも、不安ごともある。

 だが、それよりも前にとりあえずは飯だろう。僕のお腹は常に空腹の虫を鳴らしている。


「ふんふんふーん」


 僕は高畑近衛さんから貰った食料をダンジョンの中から取り出す。

 貰った箱の中には味付け用と思われるたれと冷凍された四つの大きなハンバーグが入っている。


「じゅる……高そうなお肉。とりあえず今日のところは贅沢に八分の一くらいを使ってしまおうか」


 僕がまるで宝物を扱うかのような手付きで冷凍されているハンバーグを一つ、手にとったところ。


「ん?」


 普段は鳴ることのない玄関の扉がノックされる。


「……政府関係者?」


 僕はイキシアを召喚して家の中に潜めさせ、自分もいつでも戦えるように構えながら玄関の方に向かっていく。


「はーい」


 そして、僕は出来るだけいつも通りの口調になるよう注意を払いながら口を開いて玄関の扉を開ける。


「……えっ?」

 

 僕の開けた玄関の先にいた人物。

 それは高畑近衛さんたちでも。

 まだ見ぬ黒スーツたちもでなく。


「来ちゃった」


 笑顔を浮かべている神薙さんであった。

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