帰り路

 山田が勝手にクラスを飛び出してそのまま帰ってくることはなかった日の帰り。

 僕は神薙さんに誘われる形で帰路へと着いていた。


「もぉー、私はさ。みんな仲良くすればいいって思うんだよ!世間一般は陽キャだとか、陰キャだとか、クラスカースト!なんて言うけど、私は全然気にしなくていいと思うんだよ!この広い世界でたまたま同じクラスになれた運命の相手なんだから!」


「あ、あぁ……そうだね」


 ごめんなさい。陽キャ、陰キャ、クラスカーストを気にする惨めなはみ出し者でごめんなさい。

 僕は自分の隣に立つ神薙さんの何処までも明るく優しい言葉に傷つけられながらも彼女の言葉に何とか頷いていく。

 

「……あの、なんか、ごめんね?勝手に僕と山田の言い合いに神薙さんを巻き込んじゃって」


「別に良いよ?よくあることだもん」


 僕の謝罪に対して、神薙さんはあっけらかんと答える。


「……ふふ。昔から男女の色恋に巻き込まれ、勝手に嫉妬されたり、色々あったからね」


「……あー、うん。大変だったね」


 神薙さんの表情を見て大体は察した。


「それじゃあ、僕が山田に対して神薙さんとの仲に嫉妬しているだとか、色々言っちゃうのは余計だったかな?これから、僕のせいでギスギスもしちゃいそうだし」


「いや……山田くんはちょっと、前からなんかキモかったし。これで少し距離が出来るならうれしいかも」


「あっ……そうなんだ」


 運命の相手ではなかったのか。山田の思い人からのキモい発言。

 これは流石に同情してしまう……南無。祈ることくらいはしてやろう。


「それで、さ。蓮夜くん!私と付き合うなんてぜぇーったいにあり得ない!って断言するって酷くない!私のこと嫌いなのぉ?」


「えぇ?でも、別に神薙さんは僕のことが好きじゃないでしょ?なら、付き合うなんてならなくない?」


「もぉー!そういうことじゃないんだよぉ!男の子ってこう、なんか女の子と仲良くなって果てに色恋の関係に!って考えるものじゃん!そう断言されると私とそこまで仲良くなりたくないのかな?とか、結構モテてきた私としては女のプライドが刺激されちゃったりするんだよ!それに、未来がどうなるかはわからないでしょ?もしかしたら、私が蓮夜くんのことを好きになっちゃうかもしれないじゃん!」


「でも、山田のはキモいんでしょ?」


「……うん」


「我儘やな」


「山田くんと蓮夜くんは違うのぉー!」


「わぁ……」


 これは山田が可哀想なのか。それとも僕に対する神薙さんの好感度が思ったよりも高いのか。

 山田の名誉のためにも後者だと思ってあげよう。


「それで?なんで私と付き合うのは絶対になしなの?」


「……あー、それは」


 僕が神薙さんと付き合うのはなしな理由。

 というより、女の子と付き合うのがなしな理由は簡単だ。

 ダンジョンでの交尾のことがあるからだ。

 僕としては今もあくまでダンジョンでの行いとこちらの世界での行いは別。

 ダンジョンは現実ではない。高性能なVRゲームであり、そこで行われている交尾もあくまで空想。相手のいない自慰行為と同じ。

 僕は今でも童貞であるという自負を持っている。


 だが、だからと言って相手にも同じ感覚を求めるわけにもいかないだろう。

 僕はたとえ、どう思っていようともダンジョン内で可愛い人外娘と交尾しているのは完全にアウト。

 明らかに浮気だ。

 自分だって、相手の女の子がダンジョン内で男の魔物と交尾しまくっているけど、これはあくまでゲームだから浮気じゃない!なんて言われてもぶち切れる自信しかない。絶対に受け入れられないだろう。


 ちなみに辞めるという選択肢はない。

 理由はわかるだろう。男の子として、自分を求めてくれる可愛い人外娘を拒絶できるわけがない。

 ぶっちゃけ、僕はまだダンジョンへと真剣に潜る覚悟が決まっていない。今でもダンジョンに行く予定はないし、そこで活躍する予定もない。

 なので、別に僕がダンジョンを育成する理由も特にないのだが……そこに僕を待っている可愛い人外娘がいる。

 これだけで同じ男は理解してくれるだろう。


「まだ……恋とかがよくわかっていないから、かな?」


 恋愛がなしな理由は僕がダンジョンで可愛い人外娘と交尾をしているから。

 実に単純でわかりやすい理由だが、これを直接神薙さんに伝えるわけにもいかないだろう。

 結果として、僕は神薙さんの疑問の声に曖昧な言葉を返すにとどまった。


「あー!私も一緒!あんまり、恋とかわからないよね!」


 そんな僕の言葉に神薙さんは笑顔で同意してくれる。

 その表情には一片の曇りもない。


「は、はは。仲間だね」

 

 僕はそんな神薙さんに罪悪感を感じながらも話を合わせ、彼女と共に帰り路を進んでいくのだった。





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