陰キャ

「別に僕はそんなこと言っていないけど?」


 自分の方へと声をかけてきた山田に対して、僕は少しばかり眉を顰めながら口を開く。


「被害妄想にも程があるんじゃない?」


「……お前」


 まともに取り合うつもりはない僕の態度をしっかりと山田も感じ取ったのだろう。僕の言葉を聞く山田は見てわかるくらいピキらせていた。


「あまり、調子に乗るもいい加減にしろよ」


「どこがぁ?まるでわかりませんけどぉ?」


 こちらへと喧嘩口調で口を開いてくる山田に対して、僕も一切引くことなく喧嘩を売っていく。

 

「そうだよなぁ?まるで調子に乗るところなんてないよなぁ?」


「まったくだな、うん」


 そして、和人と秋斗の二人も僕に続いて援護の言葉を口にする。

 クラスのはみ出し者とまではいかないが、クラスの中でも目立たない部分に立っているのが僕たち三人であり……そして、山田もその一人だった。

 そんな中で山田が突如として陽キャの仲間入りするどころか、明らかにこちらを見下すような感情を隠す気もなく持っていた彼には僕たち三人一同、全員が反感を持っていた。

 こんなところでまで、実際に顔と顔を合わせてまで挑発の言葉を口にされて僕たちが引くなんていう選択肢はなかった。


「……少し、強くなったところで。どうせ!何かでズルをしているのだろう!」


「ズルぅー?何のことやら」


「おい!お前、今視線を逸らしただろう!図星じゃないか……どうせ!神薙さんを助けた一連の流れもどうせお前の仕込みだろう!お前、どんな汚い手を使ったのだ。まったく、本来であれば俺が……」


「えぇ?なにぃ?もしかして神薙さんと仲良くしている僕に対して嫉妬しているのぉ?それなら安心してよ、神薙さんが僕と付き合うなんて全然ないから」


 僕は山田の言葉を受け、無理やり話を軌道修正していく。

 あまりズルとか言われても負けちゃうからな。恋愛方面なら勝てる。だって、僕の方が顔面レベルは高いから!

 女装したときに思った、やっぱり僕の顔立ちはマジでいいって!男での僕だって顔を隠すほどの長い前髪さえなければイケている……はずである。


「……ッ!」


「山田の家って金なかったっけ?」


「さぁ?でも、まぁ……ないんじゃないか?だって、鏡を買う金すらないようだし」


「だよなぁ!あの顔であれはないわな。探索者としての実力もてんでだしな!」


 僕と山田のやり取りの傍らで、一切の遠慮なく和人と秋斗の二人が合いの手を入れていく。


「な、何にもないお前らが……俺は、もう。お前らとは、違う……違うんだ」


「はぁ?何を言っているのかわかりませんけどぉ?大きな声で言ってくれなぁい?僕は、実力故に日本政府から接触されているし、神薙さんと一緒に配信もしたけど……君と僕の何が違うって?」


「こ、この……ッ」


 どんどん僕と山田の口論がヒートアップしていく。

 そんな中で。


「おい!そこで口喧嘩するなよ!」


 クラスの陽キャが話に割り込んでくる。

 その陽キャの顔は本物のイケメン。運動部でエースの名を持つ本物の陽キャ。

 調子に乗ってごめんなさい、僕の顔は冴えないっす。


「……ひっ!?」


「「「あっ……」」」


 山田は今じゃ陽キャ面しているが、その本質が陰であることには変わらない。

 陽キャを前にすれば形無しである。

 それは僕たち三人の同様だけど。


「それに話を聞いていれば玲香も巻き込んでどうのこ……って、あっ、おいっ!」


 そんな僕たちの前で堂々と言葉を述べる陽キャ。

 その圧に負けてしまったのだろう……山田はいきなり走り出してそのままクラスから逃亡。

 何処かへと消え去ってしまった。


「……おい、ブスとブスの陰キャがクラスのマドンナとの恋愛について大きな声で語っているとか最低ではないか?」


「……終わったっすね。虐めルートっすね」


「……俺ら二人はまだ無罪だよな?致命的なのは山田で、それに巻き込まれるのも蓮夜までだよな?」


「……待って、僕を置いていかないで」


 突然の凶行に走った山田に対して、僕たちは気を払っている暇はない。自分たちの保身が大事である。


「ねぇ、赤城くん」


 こそこそと内々で言葉を回していた僕の名を、今度はイケメンの代わりにちょっとだけギャルっぽい可愛い子が呼んでくる。


「はひっ!?」


「玲香が地味に絶対に付き合うなんてありえないという言葉を受けて地味に傷ついているから慰めてあげて?」


「ちょっ!?」


「えぇ?」


 そして、そのまま続くギャルっぽい子の言葉に僕は困惑の声を漏らすのだった。


 ■■■■■


 訳もわからず、クラスを飛び出してきてしまった山田。


「なんで……なんで、なんでだよ!全部、全部うまくいって、昔の冴えない俺からはおさらばしたはずなのに、あいつが、あいつが悪いんだ、全部、全部あいつが!」

 

 彼はそのままぶつぶつと独り言を漏らしながら、クラスどころか高校からも飛びだして行く当てもなく街を彷徨い歩いていた。


「おやおや。随分と荒れていらっしゃるようで」


「……ぁ?」


 そんな山田の元に。

 とある一つの怪しげな影が近づいていくのだった。

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