謝礼金

 高畑近衛さんのお願い。

 

「……ふむ。自分へと頼みに来たということは何かあるのですか?」


 それを受け、僕はひとまず結論を出すよりも前に詳細を聞き出すべく口を開く。


「えぇ、実は今回引き起こされるであろうダンジョンパンデミックの規模はこれまででも最高であるとの試算が出ておりまして……有り体に言って人手不足になるであろうと考えられていまして。我が国の探索者人口も、我が国が視線しているパラオなどの東南アジアなどでも探索者人口は増えているのですが……如何せん、特権階級化してしまっている欧州ではあまり増えていなくてですね……」


「なるほど、それで自分の力が今回は必要だと」


「そういうことになります」


「恒久的に自分へと期待してもらったは困ります。自分の職務も、その本筋も、何処までいっても僕はこの神社にあります」


 どれだけうちの神社の稼ぎがなく、毎日飯も食えないような状態が続くとしても、それでも僕はこの神社から離れられない。


「それはもちろん。理解しております」


「ですが、今回だけというのなら力を貸しましょう。国難の時でしょうから」


「……ッ!ありがとうございます!」


 僕の言葉を受け、高畑近衛が勢いよく頭を下げる。


「それで?お聞きしたのですが、蓮夜様の戦力は現在如何ほどなのでしょうか?」


「……まぁ、大体千体くらいですかね?」


「せっ!?」


「ダンジョンパンデミックがいつ起きるかにもよりますけど、まだまだ増えていきますよ」


「そ、そ、そう、ですか……それは随分と頼もしいですね」


「自分たちの魔物はそこら辺のダンジョンの魔物より強いのでかなり戦力になると思いますよ」


「本当に助かります。細かな話に関しては後ほどでお願いします。我々の方でも魔物の強さを確認させていただきたく思うのですが、よろしいですか?」


「良いですよ。毎日百体ずつくらい送りつけますよ」


「え、えぇ。私たちが迎えにいきますので。その時にお願いします」


「はい……そ、それでですね。国のために、世界に暮らす人類の健やかな暮らしのために僕が力を貸すことに何の抵抗もございません。しかし、ここで自分が何も貰わないというのも問題だとは思いませんか?」


 この世界には毎日、炊き出しをしているお坊さんもいるという。

 人々の味方であり、彼らの為にある神主たる僕が世界のために持てる力を振るうことはごく自然で当たり前のことである……そ、それでもね?僕の懐事情としては毎日、炊き出しに出向きたいくらいなのだ。


「謝礼金はいくらほど貰えるのでしょうか?」

 

 当たり前のこと……当たり前のことなんだけど、それでもお金が欲しい。切実に。

 ほ、ほら。僕が貰わないと周りの探索者の雇用を奪ってしまう可能性があるからね。ここで僕がお金も貰うのも人々の為なんだよ。


「確かにまったくもってその通りですね。いくらほどをお求めでしょうか?


 僕の言葉に頷いた高畑近衛さんはいくらほしいか聞いて……聞いて、聞いてっ!?


「えっ?いくらくらい?」


 えっ……?聞いてくれるの?ここで僕が無茶苦茶な答えを出しても、叶えてくれる、ってこと!?


「それじゃあ、一万円とか……」


「……?あぁ、なるほど。ご配慮のほど感謝いたします」


「えっ、あっ、うん」


 配慮?感謝されるような配慮とは?


「わかりました。それでは後日、謝礼金として一万円を持っていきましょう」


「……ッ!お願いします!」


 馬鹿な……僕が諭吉さんを自分の手に出来るだとぉっ!?

 僕は内心で小躍りしながら、それでも表面上は冷静さを保つのだった。

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