宗教団体
「大丈夫?玲香」
僕は自分の能力で傷を治してあげた玲香へと優しく声をかける。
「れ、蓮夜ぁぁァァァァァァアアアアアアアアアアアアッ!?」
それに対して、玲香は僕の想像を超える強い反応を見せた。
彼女はその瞳に涙すらも浮かべながら、僕へと力強く抱き着いてくる。
「あうっ」
「怖かったよぉぉぉぉぉぉ!蓮夜ぐんに、せっがくだずげでもらったいのぢを……こんなところでぇっ!」
「よしよし」
その瞳から涙を流しながら自分を力強く抱きしめてくる玲香の背中を僕は優しくさすってやる。
この間、玲香をここまで追い詰めていた劉淵とかいう男は一切動かずである。
「さて、落ち着いたかな?」
しばらく抱き着いて泣いていた後、ようやく落ち着いてきた玲香へと僕は告げる。
「う、うん……大丈夫……だ、大丈夫だよぉ?うん」
そんな僕の言葉を聞いた玲香はそっと僕から離れ、唇を手で押さえながら俯き始める。
「ねぇ、玲香」
そんな彼女へと僕は声をかける。
「はひっ!?」
「この、配信を止めておいてくれない?あまり、人前に出たいわけでもないから」
「あっ!?そ、そうだね!ごめん。今、止める」
僕の言葉へと素直に頷いてくれた玲香は慌てて取り出してスマホを操作して配信を終了させる……これで、外部の目は断ったな。
好きに動ける。
「……それで?証拠としての撮影はそのドローンで可能かな?」
「それは間違いなく!今も全部撮影済みだよ」
「それなら良かった」
僕は玲香の言葉に頷いた後、ここまで静観していた劉淵の方へと視線を送って口を開く。
「さて?君は何だい?」
「何、と言われま」
「ダンジョンパンデミック。起こしたのは君たちだろう?」
僕は劉淵の返答を聞きもせず、言葉を続ける。
「あまりにもタイミングが良すぎる。目的は僕の孤立化だね。イキシアたちを僕から離すための行動だ。そして、その撒きえは今日の為に準備してきた神薙さんだ。あの炎上騒動は僕と神薙さんの仲を深めるためにお前が仕組んだものだな?僕が神薙さんを助けることを見越して」
ダンジョンライバーとしての劉淵を支援していた組織すらもグルだろう。
ただ、既にもうその組織は痕跡すらも残さず姿をくらませている頃だろうから、何の罪にも問えないが。
責任者に、広報担当者……何人の死体が出てくることやら。
「神の、運命力というのを始めて目の当たりにしましたよ」
「おや?君たちが信奉するのは唯一神ではなかった?迷宮進歩教。僕が信じる神は君たちとは別だよ?」
これだから宗教団体は怖いのだ。
簡単に人を殉教として死へと追い立てることができるのだから。
「……」
「十年以上前から活動し、黎明期には僕のおじいちゃんにも接触した集団。これまでは特に気にも留めていなかったけど、随分と大きくなったものだね?」
「……邪魔、ですか?」
「神主である僕からは何とも。うちの神は八百万といるのでね。唯一神がここに加わろうとも特に気にすることはない」
「矛盾しているように思えますが?」
「矛盾こそが人類の本質であろう。本能とは矛盾した、理性によって繁栄を享受した人間が神の矛盾如きを気にするではない」
僕はテンポよく劉淵と会話を交わしていく。
「迷宮進歩教。それはダンジョンを神からの贈り物として崇め奉り、魔物を天使とする宗教団体。確か、ダンジョンとは神が送りたもうた人類の最終解決策なんだか?人類を適正な数へと戻すと共に、枯渇しつつある地球の恵みの追加分。人類のための用意された地球は新たなる段階を迎えた、だったか」
迷宮進歩教。
それはダンジョンと魔物を崇め奉り、この二つを人類に齎した存在こそが神であるとする宗教団体である。
信者数の少ない弱小団体であり、魔物の手によって家族を奪われた被害者団体との軋轢も絶えず、更に世間からの風当たりまでも強い。
そんな弱小の宗教団体である。
だが、その小さな存在の奥深くには、得体のしれないものを隠している……国ですら、おいそれとは手を出せない何かを。
「まぁ、そんな教義を広めることには興味ないだろうが。お前らの目的は創造主を迎え入れると共に、自分たちを認めてもらうこと……あっているだろう?」
「素晴らしいですね。流石は蓮夜様とでもいうべきでしょうか?」
「いらない。お前から褒められても別に嬉しくない」
「……ふふっ。釣れないですね」
僕に対して、気持ち悪い敬語を使っている劉淵はこちらへと柔らかい笑みを迎えてくる。
「それで?劉淵。お前の幹部レベルは幾つだ?」
「……ッ」
「4以下であればここで押し問答を繰り返す価値もなくなるのだが」
「私の幹部レベルは3ですよ、蓮夜様。最高幹部の一人です。教祖様だけを幹部レベル4とし、創造主を幹部レベル5とする我が教会では」
「その程度だな。僕の家には過去、幹部レベル4を持つ二人組が来たぞ」
「……何をでまかせを?」
「ったく。あそこも何がしたのかわからないな。我が家の存在をどう考えているのか、こんなところで僕と敵対して何を……、それにどうやってダンジョンパンデミックを起こしたかも謎だ。が、ここじゃどうしようもないな」
僕はため息を吐きながら、困惑しながらも僅かな怒りを見せている劉淵の方に視線を送る。
「これ、もしかしてだけど……何処かのカメラで撮られている?」
そして、僕は小さく独り言を呟きながら天を見上げるのだった。
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