神社
2000年代後半。
僕がちょうど生まれたくらいの年にダンジョンなんて言うよくわからないものが誕生したらしい。
生まれたばかりだった僕が覚えているはずもないが、当時はかなりの混乱だったらしい。
ダンジョンには人を殺す魔物がいっぱいいて、そんな魔物がダンジョンの外に出てくる時もあるのだから当然と言えば当然の話だが。
それでも。
ダンジョンから貴重な資源が取れることやダンジョンに潜って生計を立てる探索者という職業が一般化するにつれて段々と人類はダンジョンに適応し始めていた。
そして、僕が既に高校生になる頃にはダンジョンというものが存在することが世界の常識として既に受け入れられていた。
「ふわぁ……ダンジョンなんて言うファンタジーっちくなものが出来たのだから少しくらいみんなも神様を信じて参拝くらいしていけや」
だというのに、僕が管理している神社には一行に人は増えていない。
ダンジョンなんて言う非科学的でラノベに出てくるような存在が現れたのだから、もう少し一般人も神様を信じて神社に参拝してきてほしいところだ。
爺ちゃんが腰をやってから僕が一人でせっせと管理しているそこそこ大きな神社……僕の日銭のためにももっと参拝者が増えて欲しい。
今日も今日とて僕のご飯は高校の昼休憩に食べたおにぎり二つである。
まぁ、山の上という中々来づらい立地にあるからあまり人が来ないのも仕方ないのかもしれないが。
「……僕が女装でもすれば少しくらい注目を浴びるだろうか」
小学生の頃から言われ続けている顔立ちが女の子みたいという言葉を思い出しながら思ってもない独り言を漏らしながら作業を続ける。
「よしっと」
そんなこんなで神社内の掃除を終えた僕は一息つく。
そして、神社からは少し離れたところに立っている自宅の方へと戻ってくる。
「んぅー」
自宅に戻ってくるなり自分が着ていた装束を脱いで私服へと着替えた僕は庭の方に出てくる。
僕の自宅には貴重な食料となるベリーを植えており、それのお世話しなければならないのだ。
「……ん?」
いつものようにベリーへとお水を上げてお世話をし終えた僕は視界の端で何かを捕らえる。
「何だこれ」
僕が見つけたのはとある一つの石碑。
自宅の庭に生えていた僕の知らない謎の石碑だ。
「……神様が寄越してくれたとか?どうせなら豚一匹とかが良かったな」
そんな石碑に対して、疑問に思いながら不謹慎なことを口走る僕は何とはなしに石碑の方へとて手を伸ばして触れる。
『生体認証を開始。認証中……』
「うおっ!?」
だが、それと共に突然、自分の頭の中に聞いたことのない女性の声が響いてきて慌てて僕は石碑の方から手を離す。
『認証中……認証中……認証中……認証完了いたしました』
「だ、だから……何なの?」
だが、その声は僕が石碑から手を離しても自分の中に響き続けていた。
『ようこそ、お待ちしておりました。マスター、こちら暁のダンジョンとなっております』
「……どういうこと?」
困惑しながらも、徐々に冷静に戻りつつある僕は知らない女性の声が告げたダンジョンという単語に反応し、慌てて何が起きてもいいように構え始める。
「……は?」
そんな僕の視界へと飛び込んできたもの。
それは一つの広場である。そこそこ広い何もない広場の周りには木々や岩などの自然あふれるものが広がっている。
何処からか、川のせせらぎまで聞こえてくる。
己の瞬きの間に自分の目の前に広がる景色が一変していた。
「はぁ?」
謎の石碑に触れたかと思いきや、急に自分の知らないところに飛ばされた僕はただただ困惑の声を上げる。
『ようこそ、お越しくださいました。マスター。それでは、チュートリアルを始めさせていただきます。まずは私。ご自身の前に浮かび上がっている宝玉の方にお触れください』
そんな僕の元に訪れるのは一つの玉。
僕の目の前にまでふよふよと浮かび上がってくる謎の玉である。
ついでに言うと今でもついて回ってきている謎の女性の声も一緒だ。
「……仕方ないか」
何もかもがわからない中。
チュートリアルをしてくれるという謎の声に従わないわけにもいかない。
僕は半ば諦めの感情も抱きながら静かに自分の前に浮かんでいる玉へと手を伸ばすのであった。
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