下層

 中層辺りを問題なく潜れているくらいであれば、もう十分に探索者としてはかなりの上澄みである。

 そんな中で中層よりも更に下。

 下層に入っていけるような人材ともなれば本物の怪物である。

 そんな下層において。


「イキシアっ!魔物がそっちに行ったよっ!」


「問題ニャ。別に私は近距離戦も出来るタイプの猫ニャ」


 僕はイキシアと共に下層で魔物と激しく戦闘を繰り広げていた。

 自分の前にいるのは巨大な蟻の群れである。

 数えるのも馬鹿らしくなるくらいの数がいる。


「硬っ」

 

 僕は自分の前にいる蟻の魔物に対して自身の手にある斧を全力で叩きつける。

 だが、それでも相手の頭を半分陥没させるので精いっぱい。

 何とかその命を終わらせることは出来たけど……問題なのは斧が抜けないことである。


「きっつぅー」


 僕は斧を手放してゆっくりと地面に倒れていく蟻の魔物から離れていく。

 

「これだけの数がいて、サクサクとやれないのは結構きついな」


 僕は再び武器庫より斧を取り出して全力の振り下ろし。

 これで一体。

 しっかりと相手を倒すことが出来た。

 

「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」


「……多すぎるって」


 だが、こんな悠長に僕が蟻の魔物と戦っている間にこちらとの距離を詰めている蟻の数はとんでもない。

 一発叩き込むだけで一瞬だけ動きを止めることになり、次の攻撃のために武器庫から再度武器を取り出す時間まであることを考えると、自分の強さではこの蟻の大群による進軍を止めることは出来なかった。


「退くニャーっ!」


「はーい」


 僕がもたもたと蟻の魔物と戦い、苦戦している間に魔法の発動の為を終えたイキシアが圧倒的な魔法の力で敵を洗い流していく。


「……今、思ったけど僕がこれ前線貼る必要ある?」


 そんな中で、僕はふと思った疑問を口にする。

 今の形としては自分が全然として前を張り、イキシアが後衛として立ちふさがる形になっているのだが、近距離戦でもイキシアが蟻の魔物を問題なく倒せるような中に置いて僕が前を張る理由があるように思えなかった。


「ないニャ」


 そんな思いで口にした言葉をイキシアはあっさりと同意する。


「……すぅ、だよねぇ」


 僕はイキシアの言葉に頷く。

 言われるまでもなくそんな気はしていた。


「それじゃあ、ちょっと僕が適当にもっと前の方で暴れてくるわっ!そっちの方が多分早いよね?」


「そうニャっ!」


「それじゃあ、行ってくるわっ!」


 僕はイキシアの前に陣取っていた己の位置を変え、もっと前の……蟻の軍勢のど真ん中へと突っ込んでいくのだった。

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