配信事故

「それにしても、蓮夜くんもダンジョンに潜っていたんだな」


「えっ!?あ、うん……そ、そうだね」


「……でも、なんかごめんね?わざわざ私が地上に帰るところまでついてきてもらっちゃって」


「いや、そろそろ僕も帰ろうと思っていたところだったから、ちょうど良いよ。それに紳士として、つい先ほどまで命の危機に瀕していた女性をそのまま帰らせるわけにはいかないからね」


「ふふっ、ありがとう」


 サイクロプスを無事に討伐した僕はそのあと、地上の方へと帰還する神薙さんと共に地上の方に戻っている最中だった。


「……今日は、流石に疲れたな。あそこまで命の危機に瀕したのは流石に初めてかも。本当に、死んじゃったかと思った」


「……やっぱり、ダンジョンに潜ると命の危険に瀕することも多いのかな?」


「えぇ、そうね。私だってうまくいっている方だけど……それでも何回かはあるかな……そんなことを聞いてくるってことは、もしかして蓮夜くんって命の危機に瀕したことはなかったりするの?」


「まぁ、僕はこれまでとんとん拍子で進んでいるし」


 僕の場合はとんとん拍子なんているレベルじゃないだろう……だって今日始めてダンジョンに来ていてのだ。

 まさか、強いと言われている神薙さんより既に強いとは思わなかった。

 サイクロプスだって時間をかければ容易に討伐出来ていただろう。

 ダンジョンパワーって凄いね……自分の力ではこれっぽちもないから全然威張れるような気がしないけど。


「えぇー!すっご!?」


「いやいや、僕なんかは全然」


 本当に、僕は何も凄くないんですぅ。

 僕はゲーム感覚でR18な魔物育成して遊んでいただけなんですぅ、爛れた男の子でごめんなさい。


「そんなことないよ!蓮夜くんで全然なら私はもうミジンコになっちゃうよ!?」


「は、はは……」


 だから、気持ちはわかるけどそんなに褒めないでェ!


「やっぱ……才能って、大事なんだね」


「ず、ずいぶんと身も蓋もないことを言うんだね。まぁ、確かにそうかもしれないけど……私の圧倒的な美貌だって生まれながらの、天性のものだし」


「はぁ、随分な自信。まるで謙遜がない」


「謙遜は美徳かもしれないけど、過ぎたる謙遜はただの挑発よ。私は常にすっぴんで化粧水や乳液なんて一回もつけたことない。髪型だって美容室に行ったことない。普通に近所の1000円カットだもの。それなのに私は圧倒的な美人。これで才能じゃなくて努力なんて言ったら……私は世の中の女性に刺されちゃうわ」


「確かに、それは努力なんて一切介在してないね……」


 え?神薙さんってば何もせずにこの美貌なの?女優やアイドルでさえも超えるほどの美貌が正真正銘の天然原石。

 僕ですらお風呂上りにお手製の化粧水と乳液くらい塗るよ?僕以外の美的感覚……これでこの美人か。僕の言えたことじゃないけど、これが世界の残酷さなのか。


「そうでしょう?……だから、蓮夜くんもあまり謙遜は駄目よ?」


「そうかもね……それで、神薙さん」


 これ以上褒められても申し訳なくなるので、僕は無理やりにでも話を別の方向に展開させていく。


「そこに、カメラが浮かんでいるけど……動画の撮影かな?神薙さんって配信以外にも普通の動画を撮って編集とかもするんだね。案件とか?」


 僕が話の矛先をして向けたのはずっと、自分たちの後ろについてきていたカメラの存在だった。


「えっ……?」


 ここまで神薙さんが配信に触れてこなかったのだから、今は配信中じゃないはうず。僕の言葉に神薙さんが答えて、そこから順調に話が膨らんでいってくれるはず……そう思っての言葉だったのだが。


「あぁぁぁぁ!?わ、私配信中だったっ!?」


 僕の前にいる神薙さんは想像外の反応を見せる。


「……えっ?」


 目の前で驚愕の声を上げて固まる神薙さんを前に困惑の声を漏らす。


コメント

・悲報、やっぱり忘れられていた

・やっぱ力ある雄に雌は惹かれるのか…

・やっほー、見ているぅ?蓮夜くん!

・伝説の身バレ配信だな

・生命の危機、身バレ、配信切り忘れ、三倍役満配信事故ってところだな


 は、配信中だった?

 今、この時も……ここまでのことも全部。


「はわわっ!?」


 神薙さんは今更になってカメラを回収してそのまま自分の体にレンズを押し付けることで何も映らないようにする。

 明らかにもう遅いだろうけど。


「ど、ど、どうしようっ!?」


 涙目になりながら動揺を示す神薙さんに気を使っている暇もない。


「……待って?それじゃあ、僕の名前も素顔も全国公開されているの?ここまでの会話も全部?」


 僕は自分のことで頭がいっぱいであった。


「……全、世界。私のリスナーは外国人の人も多いから」


 そんな僕に対する神薙さんの答えは実に残酷の一言。


「おっふ」


 全世界に陰キャのご尊顔が晒された……何ということだろうか。


「ど、どうしよう……」


 それだけじゃない。

 僕が神薙さんにキスしたのもガッツリ放送されているわけで……なおかつ、其れをクラスメートたちも見ていただろう。

 完全に油断していた……ッ!だって、僕が思わず神薙さんって呼んじゃった後、配信中とも言わずに自然と受け入れて、配信にも一切触れていなかったから!

 いや、でも確かに死にかけたら配信なんて普通は頭から飛ぶよね!?我ながらなんと思慮の浅いことか……。

 一度は自分がキスしたことも有耶無耶で誤魔化せると思ったのにぃ。


「おぉ、神よ……ッ!」


 僕はここまであったことが次の日、何もなくなっていることを願いながら十字を切って神に祈りを捧げるのだった。

 って、僕はクリスチャンじゃないから十字に切っちゃ駄目やんけ。

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