救出
僕が調子乗ってどんどんと突き進んでやってきたダンジョンの階層。
そこを適当に探索していた僕の耳に入ってきたのは魔物の鳴き声……それに反応してやってきたところにいたのは魔物に追い詰められていた神薙さんの姿だった。
イキシアに神薙さんを追い詰めた魔物の対処を任せて、自分が駆け寄ったのは血まみれでへたり込んでいた今にも死んでしまいそうな神薙さんである。
「……っ」
そんな神薙さんを前にする僕が行ったのはキス。
しばらくの間、舌も入れるキスを交わしたの後にゆっくりと己の口を離した僕は頬を真っ赤にしながら呆けている神薙さんを前に冷や汗を垂らす。
「……ごめんね?」
そして、僕はする前にも告げた謝罪の言葉を再度口にする。
「ふぇっ!?えっ、あっ……えっ!?わ、私キスされたっ???」
そんな僕の言葉を受けて再起動した神薙さんは動揺のままに挙動不審になりながら、口を開く。
「と、とりあえず……神薙さん。怪我は大丈夫かな?」
そんな彼女を前にする僕はゆっくりと、出来るだけ優しい声色を心がけて話しかける。
「えっ……?怪我、あ、あれっ!?完治している?」
それの言葉をつけてようやく神薙さんは自分が負っていた傷がなくなっていたことに気付く。
何も僕だって何の意味もなく彼女にキスをしたわけじゃない。
キスをすることで神薙さんの傷が治るからしたのだ……僕のような陰キャとキスなんて神薙さんも嫌だろうけど、死ぬよりはマシだろうと思ってね?彼女も死にたくないって言っていたから……大丈夫、神薙さんだって寛大な陽キャ心で許してくれる。
ちなみにキスで回復できる原理は謎だ。
ただ、ダンジョンのレベルアップ能力でそういう能力を貰ったのだ。
「わ、私はどうしようもないほどに重症だったのに……ど、どうやって!?」
「まぁまぁ……」
僕は神薙さんの追及に対して、視線を逸らしながら下手な誤魔化し方で受け流そうとする。
「きゅーいっ!!!」
そんな僕の元へとサイクロプスを無事にフルボッコにしたイキシアが帰ってくる。
「あっ!お疲れ様」
僕はそんなイキシアの顎を優しく数回撫でた後、彼女をダンジョンの中へと戻していく。
「……まーて、待て待てっ!?今のも何!?魔物だよね!?な、何が、起こって?」
「神薙さん」
「な、何……?蓮夜くん」
そんな僕とイキシアの光景を前にして困惑する神薙に対して、僕は真面目くさった表情で彼女の名前を呼ぶ。
「僕は神主なんだ」
そして、そのまま彼女に一つの揺るぐことはない真実を教えてあげる。
「……は、はぁ」
だが、それを受けても彼女にはピンと来ていなかったようで困惑の表情を浮かべるばかりである。
「僕は神主なんだ」
そんな彼女に僕は念押すように再度一言。
「か、神主……?え、えっと……それは、神様に仕える職業?神社の人だったけ?」
「そうだよ。僕は神様に仕えているから加護がね?」
「……」
「ふっ」
困惑の表情のまま固まってしまった神薙さんへと僕は笑みで返す。
「そ、それは無理あるよっ!?」
そんな僕に対して、神薙さんは声を荒げながらツッコミを入れてくる。
「受けいれろっ!というか、受け入れてっ!あまり、人に言えないことってのもあるじゃん?」
他人にダンジョンマスターになりました!なんて言えるわけがないっ!食べ物を食べて居なさ過ぎて錯乱したのかと思われるのがオチである。
「そ、そうだね……ごめん。確かに、あまり人のことに踏みこんじゃ駄目だよね」
「あっ……」
そんなことで神薙さんへと告げた僕の言葉に対して、彼女は真摯に受け止めて本気で申し訳なさそう表情を浮かべてしまう。
そんな神薙さんを前にするクソ陰キャである僕は内心冷や汗ダラダラだ。
い、陰キャの僕が陽キャの方に申し訳なさそうな感情を浮かばせるなんて、決して許されることじゃ、な……というか、キスしただけで終わりじゃね?
「蓮夜くん!」
そんなことを考える僕の名を神薙さんが呼ぶ。
「は、はひっ!?」
まさに陽キャに名前を呼ばれた陰キャの如き、大慌て。
僕は何とも情けない返事の声をあげてしまう。
「ごめんね?言うのが遅くなっちゃって、まずはこれを言うべきだった」
だが、それをなかったことにするように彼女は言葉を続けてくれる。
「蓮夜くん!私のことを助けてくれてありがとう!助かったよ!」
「あっ、うん……どういたしまして」
真っ直ぐな笑顔で、純度百パーセントの感謝の言葉を告げてくる神薙さんを前にする僕は若干照れの混ざった笑みを浮かべながら返答の言葉を口にするのだった。
コメント
・俺ら、完全に忘れらてね?
・何あの陰キャ死ね
・本名呼び合っているwww
・おーい、お二人さーん、帰ってきてー
・神様って、本当にいたんだ…なら、なんで俺の推しに男なんかを
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