翻訳

 翻訳。

 突如として発生したこのスキルによって僕は魔物たちと会話を交わすことが容易となっていた。


「わわっ!?」


「きゅーいっ!」


 そして。

 いつも通りなイキシアとの会話が繰り広げられた後。

 僕の元には大量の魔物たちが押し寄せていた。


「おぉぉぉぉおおおおおおおお!主様へと声が届けられるっ!何たる光栄っ!なんたる栄誉たるか!」


「マジですかぁい!あらるかぁい!」


「あ、あわあわあわ。いきなり主様と話せるなどと言われてましても何を話せばぁ」


「ぼっ」


「ふんすっ!ふんすっ!ふんすっ!お言葉を、お言葉を交わせる」


「主様ァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


「待ちなさいっ!主様における初めての娘である私が先に一時間の面談を行うべきじゃないかしら?」


「我らのことをどう思っておられるか、訪ねてもよろしいのだろうか?」


「ど、どうだろう。それでどうする?私たちのような魔物は気色悪いなんて言われたら一生立ち直れないぞ?」


「た、確かに……でも、一応恩寵は頂けているわけだし、胸を張っていいのではないだろうか?」


「会話?会話、出来るの?ふへへへへへへ」


「主様と……主様とぉ……」


 そして、それに伴った僕の魔物たちが一斉に自分の方へと集まってきて大量に言葉を濁流のように叩きつけてくる。

 

「待って?待って?僕は聖徳太子じゃないからそんなにいっぱい話しかけられても追いつけない……っ!」


 我や、よいの、よいや。

 僕はそんな魔物たちの言葉を前に困惑の声を漏らす。

 一気に話しかけて来過ぎである。

 僕を一体、何だと思っているのであろうか?ただの人間なのだが。


「「「……っ」」」


 そんな僕の言葉を受け、一気にシーンと静まり返ってきまづい雰囲気が流れ始める。


「「「……っ」」」


 魔物たちは次なる僕の言葉を待っているように静かにこちらの方へと見つめられている。

 聞く力のある聖徳太子ではないとは言ったけど、だからと言って話す力があるわけではないよ?何なら陰キャであるので話す力の方が余裕でない。


「みんなは僕と話せるからと言ってテンションを上げ過ぎないようにっ!どうせみんなと話す機会はあるのだからっ!」


 そんな中で、僕は魔物たちに向けてびしっと今後の方針を決定する。


「って!?そろそろ帰らなきゃいけない時間だわっ!まだ掃除の方が終わっていないんだよねっ!ちょっと僕は戻るねっ!」


 そして、そのまま僕はダンジョンの方から逃げるようにして神社の方へと戻るのだった。

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