貧乏

 僕がダンジョンの方から戻ってくると、普段は誰もいない神社の中に誰かが。


「……あれ?神薙さん?」


 その人物、それは神薙さんだった。

 わざわざ神社の方にまで来てくれたんだ。


「……あっ!蓮夜くん!待っていたよ」


「あっ、そう?ごめんね。僕としても色々と忙しくね……神社にも色々あって。ちなみにだけど、うちの境内から離れて山の方には入らないでね?その身の安全を保障出来ないから」


「わかったっ」

 

 僕の言葉に神薙さんは素直に頷く。

 うちの神社から一歩外れて山の中、そこでは何が起きているかわからないからね。絶対に立ち入ってはならない秘境である。


「それで?今日は何の用で?」


 神薙さんが自分の言葉に頷いたのを確認して僕は彼女へと疑問の声を投げかける。


「えっ?ただ、蓮夜君に会いたくなっちゃったから来ただけ。迷惑だった?」


「いや?そんなことないよ。とりあえずこちらへどうぞ」


「はーいっ。お邪魔します」


 僕は神薙さんを自分の家に招き入れていく。


「何もないところだけどくつろいで行って」


「うんっ!」


 神薙さんは僕の言葉に頷き、薄っすくなってしまった座布団の上へと腰掛ける。


「神薙さんってばもう夜ご飯は食べてきた?」


 時刻としては既に夕方近く。

 晩飯も近くなってくる時間帯である。


「うん、来る前に食べて来ちゃった」


「それなら良かった」


 僕は神薙さんの言葉を聞いた安堵の声を漏らす。

 ここで食べてないと言われても何も出せないからね……秘蔵の一万円で出前を取るという禁断の手法へと手を染めることを本気で考慮し始める必要はなさそうだ。


「それじゃあ、僕は自分の夜ご飯を食べるから待ってて」


「うん、わかった」


 神薙さんが僕の言葉に頷いてくれたのを確認した後、


「ふんふんふーん」


「……?」


 まず僕が向かうのは家の庭の方である。

 僕は庭から草を数本入手し、たまたま手に入った種を元に育てているベリーを一つだけ採取する。

 そして、ペリーは何もせずに口へと放り投げ、草の方は幾度も思いっきり振ることでそこについていた土をはたき落としていく。


「よし、おっけ」


 僕がベリーを一つ食べ終える頃にはもう草は完璧な状態だった。

 土のなくなった草をもった僕は神薙さんの対面の席へと腰を下ろす。


「いただきまぁーす」


「……?」


 手を合わせて食前の挨拶を済ませた僕はそのまま草を口元に運んでかみちぎる。


「な、何をしているのっ!?」


 そんな僕を見て。

 神薙さんがいきなり力強くテーブルを叩きながら立ち上がる……そのテーブルってば年季が入っていることもあってそこまで丈夫じゃないからあまり乱暴な扱いはしないでほしい。


「なんていうものを食べているのっ!?」


「草」

 

 僕はむしゃむしゃ草を食べながら神薙さんの言葉に答える。

 そんなもの見たらわかるだろう。僕が草以外の何を口に含んでいるというのだ。


「も、もしかしてだけど……?」


 そんなことを考えている僕に対して、神薙さんは震える声でこちらに疑問の声をぶつけてくる。


「そ、それが蓮夜くんの夜ご飯なの?何か、別の物を食べたりとかはしないの?」


「これが僕の食材だよ。生憎とご飯を買うためのお金がなくてね……もう以前もらったハンバーグも食べきってしまったし。一応、一万円はあるけどいざの時の為に取っておいてあるし」


 僕は信じられないとばかりに固まっている神薙さんの前でむしゃむしゃと草を貪り続ける。


「ちょっ、ちょっと吐きなさいっ!ぺって、ぺっ!」


 そんな僕の元へと慌てて駆け寄ってきた神薙さんがこちらへと草を吐くように強制してくる。


「ちょっ、待って!?いきなり何をするのっ?僕にとって大事な食糧なのだからそんな吐かせるように強制しないでっ!」


 それに対して、僕は慌てて抵抗していたのだが。


「そんな草なんて捨てて、私と一緒に何かを食べにいきましょうっ!」


「えっ?本当に良いの?」


 次なる神薙さんの言葉にピタリとその動きを止めるのだった。


 

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