襲来!

「お邪魔しま~す」


 神薙さんへと事務所についての話をした僕はその後、彼女と共にその件の場所に行くことに決まった。

 というのも、神薙さんが遊びにいきたいと言って聞かなかったのだ。

 

「あら?そちらの女性は?」


 ということでやってきた事務所の中には生徒会長に加えて、垣根と琴葉に三人勢揃いしていた。


「僕の友人である神薙さんだよ」


 そんな三人を前に僕は神薙さんを紹介する。


「お二人は初めまして。生徒会長につきましてはお久しぶりです」


「あぁ、久しぶりだな」


「あの神薙さんですね。よろしくお願いしますね」


「よろしくお願いしますぅ」


 四人とも僕とは違い、コミュ強。

 彼女たちは簡単な自己紹介を終えればすぐに流れるような会話を交わし、楽しそうにしている……僕にもあれだけのコミュニケーション能力がほしかった。

 自分を一気に仲良しへと引き込み、呼び捨てで呼び合う中にしてくれた垣根と琴葉の二人は本当にすごかった。

 僕は昔を懐かしんでいる間にも四人は止まることなく会話を続けていた。


「それにしても良かったです。信頼における事務所で……最初は騙そうとしているのではないかと疑っていたのですが」


「いやいや、そんな騙す気などないし、怖くて出来ぬ」


「利用とかは考えるでしょう?私も過去、迂闊に色々と聞いたりしてしまいましたし……」


「いや、私は政府とも僅かながらに関係がある人間としてはっきりと断言するが、日本政府が蓮夜を利用することは絶対にない。日照神社に深々と頭を下げ、助けを焦がれることはあれど、己の意思での利用など……恐ろしくて誰も出来ぬ」

 

「……?」


 僕の神社ってばそんなに恐れられているの?

 別にうちが日本を傷つけたりなんて一回もしてなくない?歴史を見ても。


「別に頼まれたらなんでもするけどね?」


「……その態度だから蓮夜くんは心配なの」


 僕の言葉に神薙さんは膨れながら答える。


「ほいほいと人の為にと行動しすぎだよ」


「それが神主だもの。僕としては当然の行動だよ」


「それは毎日草を食べているような人がやるべきことじゃないよ」


「いや、でも僕はまだお金あるから」


「電気水道ガスがない人が言っちゃ駄目だよ」


 ……水道ガスは別になくても生活出来るし節約のために払っていないのよな。電気はそもそも工事からだ。

 やっぱり水道とガスくらいは最低限払うべきかな。やっぱり。


「にしても、ずいぶんと執着しているのだな。これでうちの事務所が怪しいところだったらどうするのだ?」


 僕の髪に触れて遊んでいる琴葉を横目で睨みつけている垣根が疑問の声を上げる。


「えぇ?それならばもちろん辞めさせました上で事務所の崩壊にまで追い込みますよ。蓮夜くんを傷つけようと動いた組織には鉄槌が必要ですよ」


 それに対する神薙さんの答えは想像以上にバイオレンスだった。


「そこまでしなくていいよ?」


 こちらを傷つけようとしてくる人に痛みを返しても果てなき憎しみの連鎖が続くだけである。

 理屈で断つのは簡単なれども感情の上ではなかなかに断てないこの連鎖を止める危害が自分に回ってきたのだとしたら喜んで僕は止めるだろう。


「本当に過保護なんだね。そこまで大事なのか?」


「それは当然。今の私があるのは間違いなく蓮夜くんのおかげなので。蓮夜くんの幸せこそが私のすべてですから……そう、それだけあれば私にもう十分なのです」


「「「「……っ!?」」」」


 人が進むべき道から外れし者。

 その者が浮かべる特有の己度外視の退廃的な笑みを前に僕は思わず息をつまらせるのだった。


「あっ、それで私のことも事務所に入れてもらえたりは出来ますか?移籍したいのですけど」

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