神
日本国の総理と一つの省庁のトップが共に膝をつき、嘔吐を床へとぶちまける。
こんな事態を引き起こしたのはたった一人の老爺であった。
「……ちと、待ってくれぃ」
杖を持った老爺は深く、深く深呼吸を幾度もしていく。
「……こんなものでいいかのぅ?」
その果てで、徐々に老爺が纏っていた神としての雰囲気が和らいでいく。
「顔を上げて大丈夫なはずじゃ」
神とは高貴で清らかな存在であるため、俗世に生きる人間が見てしまえば汚れてしまうと言い伝えられている。
だが、これは否である。
神が人如きの影響を受けることはない。
むしろ逆。
人という低位の種が神という上位の存在を直視することに耐えられぬのである。
上記の言い伝えはただの教訓。
先人たちが未来の人間のために残した神様と触れ合うためのガイドラインだ。
「「……」」
神を直視した二人は本来であれば一瞬で廃人になっても何らおかしくない。
だが、目の前の老爺が本来ある神としての雰囲気を抑えていたからこそ、ただ吐くだけ済んだ。
「し、失礼します」
そして、
「わ、私は日本国の総理大臣を務めている岸柁文男と申します……恐れながら、貴方様の名を聞いてよろしいでしょうか?」
「構わぬよ。わしの名前は藤原道真じゃ」
藤原道真。
正真正銘の神、人から神へと至った者が今、二人の前に立っているのである。
「ふぉふぉふぉ、生前のわしは当時の政府に憎しみをもっておったが、今はもうそれも薄れた。それに、汝はしかと総理の任をこなしている様子……わしが何かするはずもなし」
「あ、ありがたき幸せにございます」
「そう固くならんでもよい。わしは今はこの場におらぬ蓮夜の坊主が代わりじゃ」
「……っ、一つ。ご教授お願いしたいのですが、現在の彼がどうなっているかおわかりでしょうか」
「さぁ?わしとてわからぬが、少なくとも命を落とすことはないじゃろう。いずれは帰ってくる故、安心するのじゃ」
「ご教授ありがとうございます」
「それじゃあ、しばしの間休息していかれるとよい。二人も疲れたじゃろう。彼の家の方にお招きしよう」
「「……」」
藤原道真の言葉を前に、二人は思わず目を合わせてしまうが。
「それにしても、あの大神の気まぐれに巻き込まれるとは蓮夜の坊主も運がない……いや、されとてあの溺愛ぶりを見るにただの気まぐれではない可能性も。いや、新参たるわしの考えることでもないかのぅ。ふぉふぉふぉ」
それでも、彼らは歩き出した藤原道真を追って歩き出すのだった。
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