魔物

 僕が祈りを捧げながら行ったガチャ。


「おぉ……ちゃんとゲーム」


 それに対して、何か現実で起こるというわけではなく、ディスプレイ上でガチャ画面が表示されるだけであった。

 その様はまるで本当のゲームのよう。


「……っごく」


 僕はそんなガチャ画面を固唾を飲んで静かに見守る。

 そして、出てきた魔物のランクは───


「神よぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ───ユニーク。確実に大当たりだった。


「ふぃーっ!」


 良かったっ!良かったっ!

 これまでちゃんと真面目に神社の神主やっていてよかった!僕の真面目な行いを神様はちゃんと見ていたのだ。


「ふひひ、ユニーク……ユニークかぁ、強いと良いんだけど」


 正直に言って確実に強いであろうエンシェントの方がよかったのだが、それでも初回のガチャでユニークは物語の主人公みたいだし良しとしよう。

 僕はガチャ結果に満足しながらディスプレイを操作していく。


「えっと、召喚はこれで良いのね」


 僕はディスプレイでの作業をたどたどしい手付きながらも行い、ついさっきガチャで手にした魔物をこの場に召喚する。

 というか、この画面ではガチャで得た魔物の名前がそのまま『魔物』というとんでもない名前になっているのだが固有名詞はないのだろうか?せめて種族名。

 全部が全部、魔物だったりすると混乱するでしょ。


「きゅーいっ!」


「うぉ!?」

 

 そんなことを考えていた僕は急に自分の前へと降ってきた巨大な存在を前に僕は動揺の声を漏らす。


「……そ、そう出てくるのね」


 もっと何かあるのかと思っていた。

 まさか何の前触れもなしに現れるとは思っていなかった。前触れ無しでいきなり自分の少し上空から魔物が降ってくるのは心臓に悪い。


「きゅーい、きゅーい」


 そんなこんなで現れた魔物は僕の前に立ち、何かをするでもなくこちらへと視線を送り続けている……確か、こっちで命令を下さないと動かないんだっけか。


「えっと……それで、魔物への命令もこっちでっと」

 

 僕はディスプレイを操作して自分の目の前にいる魔物へと命令を下す。

 最初の命令は伐採の指示だ。


「きゅーいっ!」


 ディスプレイ越しで下された僕の命令に頷くかのように鳴き声を一つあげた魔物はとてとて歩きながら広場の周りに広がっている森の方に向かっていく。

 これで、魔物が勝手に木材やらを集めてくれるのだそう。


「……うーん」


 僕は自分の命令に従って木を伐採してくれている魔物を眺める。

 彼女……いや、彼女であろう。

 ガチャで手にした魔物は完全に二足歩行で歩く人型の魔物。

 その見た目は人では決していないが……それでも、どこか人間らしさを持ってる。


 白の肌に赤い瞳。まとめられた短髪に思われる灰色の髪。

 口元は毛と思われるものに覆いかぶされており、その頭には魔女の帽子のようなものを被っている。

 視線を顔の方から体の方に映しても人間とは決して言えない。

 毛なのか服なのかよくわからないもので全身を人のように隠しており、それらからは明らかに人のものではない。

 間違いなく人外である……人外ではあるのだが。


「……結構可愛いな」


 僕はポケ〇ンのマス〇-ニャなどでも全然興奮出来るタイプである。

 そんな僕にとって目の前で一生懸命木を殴っている魔物は実に魅力的に映った……それはそれとして結構気になるのだけど、あれで本当に伐採出来ているのだろうか?

 魔物は木を殴っているようにしか見えないのだけど。


「……交配」


 僕はちらりと視線に映った交配という……交配、とは文字通りのことだろうか。あの子が、何か別の魔物と体と体を合わせて子供を為すのであろう、か。

 そんな、エロ同人のようなことが僕の目の前で繰り広げられる……?


「……お、おぉ」


 僕は色々なことを妄想し、思わず思考を停止させてしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る