Re:生徒会長

 僕の生活はかなり変貌していた。

 自分の生活の中に新しく配信という項目が入ると共に……何よりも、自分の元に三食分の食事が届けられるようになったのだ。

 レパートリーとしてはかなり多く、高そうな冷食を始めとしておにぎりやパンなどの軽いものやお刺身なんかも届いていた。

 何か、僕としては申し訳なくなるほどの豪華なレパートリーであり、高畑近衛さんには感謝しかない。


「……うーん」


 そんなこんなで私生活について大きく変わったわけであるが……それよりも、僕の生活の中で変化が大きかったのは学校の方であった。


「人がおおぃ」


 クラスのアイドルでもあった神薙さんを助けてから始まった自分への注目。

 それは徐々に高まっていき、自分が配信を始めた段階で最高潮に達していた。

 凄まじいくらい自分に話しかけてくる人がいるのだ……色々な人と交流を持てることは嫌なことではないのだが。

 そんなにいっぱい色々な人と話すのは陰キャとしてかなりきついのだ。


「……こんなことになるとは思わっていなかった」

 

 以前までの神薙さんのような立ち位置になってしまった僕は頭を抱えながらクラスの方より逃げることになっていた。


「ふんふんふーん」


 というわけで、お昼の時間になると共に僕はクラスを飛び出して誰もいない旧校舎の方を歩いていた。

 旧校舎と新校舎。

 個人的には人が少なく、なおかつ木造建築であることから僕は新校舎よりも旧校舎の方が好きなんだよね。


「むにゅんっ!?」


 そんなわけだったのだが、突然僕の身体は誰かに掴まれてそのまま空き教室であったはずの教室に引きずり込まれてしまう。


「やぁ、久しぶり。蓮夜くん」


 突然自分の方に伸びて体を掴んできたその手はそのまま上の方に上がってきて自分の顔を掴み、強引に僕と己の顔を合わせに来る。

 僕の顔をその両手で包みこむように持ち、僕の前にいるのはこの学校の生徒会長だった。


「げぇっ!?生徒会長っ!」


 思わず。


「げぇ、とは何かね。げぇとは」


 自分が苦手だった生徒会長を前にして『げぇっ』と口にしてしまった僕に対して、その人は満面の笑みをと共に自分への言葉を告げる。


「え、えっと……その」


「あぁ、安心してほしい。私は別に君を非難したいわけじゃないから。むしろすまないね。こんな君を揶揄うようなことを告げてしまって」


「は、はぁ……」


 僕は目の前にいる生徒会長の言葉に曖昧な言葉で頷く。


「それではどこにでも腰掛けてくれたまえ。少し私とお話しようではないか。美味しい茶葉とお茶があるのだ」


「……えっ?ここってば空き教室だったよね?」


 生徒会長の言葉に対して、僕はちょっとだけズレた答えを出す。

 だが、それも仕方ないだろう。

 この空き教室であったはずのここの中がオシャレなカフェのような場所に変貌していたからだ。

 壁紙や床、天井も張り替えられて内装としては高そうな椅子や机が並んでいる。


「うむ。そうだな。私が少しだけ改造した」


「えぇ……」


 少しとは何だろうか。

 結構ガッツリしているように見えるのだが。


「まぁ、この教室についてはどうでも良いのだ。そんなことよりも私とのお話の方である。美味しい紅茶とクッキーを上げるので」


 生徒会長の無茶苦茶具合に対して引いていた僕に対して、彼女は食べ物で餌付けして自分を交渉の席につけようとしてくる。

 生憎と、ここ最近の僕は常にお腹の程が満たされている。

 そんな僕を今更餌付け出来ると思っているのか。


「ありがたく頂戴しましょう」


 出来てしまうんですね。

 無料で何かを食べられるという状況を前に何もしないというのは僕の中に長年染みこんだハイエナ根性が許さなかった。


「うむ。それでは座ってくれ」


「はーい。いただきます」


 僕は空き教室の中に用意された高そうな椅子へと腰掛け、クッキーの方に手を伸ばす。


「んっ、美味しい」


 その味はかなり美味であった。


「それならばよかった。ほら、紅茶も飲むと良い。特別に私が淹れてあげよう」


「ありがとうございますぅー」


 僕は生徒会長に淹れてもらった紅茶を口に含み、その味を堪能する。

 普通に美味しかった。


「それで?私が話してもいいか?」


「えっ?あぁ、はい。大丈夫だよ」


 僕は生徒会長の言葉に頷く。

 それに対して。


「うむ。それではまず担当直入に言おう。私は変に飾るのを嫌いなのでな。私と共に人生を歩いて欲しい」


 生徒会長が告げたのは『共に人生を歩いて欲しい』という、そんなプロポーズとも取れるような発言であった。


「何?それは?プロポーズか何かかな?」


「そうと捉えてもらえて貰っても別に構わない」


「……はぁ」


 僕はあまりにもいきなりすぎる生徒会長の言葉に困惑の感情を抱きながら紅茶をすするのだった。

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