学校
お腹がぐぅー、ぐぅーと鳴り響く。
そんな朝に走って学校にやってきた僕は教室の扉を開ける。
それによって、一瞬だけクラスメートたちからの視線を集めるが、僕が開けた教室の扉を閉めている頃にはもう視線は散っていた。
それを気にもせず僕は教室の中を歩いて窓側にある自分の席に向かっていく。
「っはよぉー」
そして、僕は一足先に自分の席を占拠して駄弁っていた二人、自分の友人である和人と秋斗の二人へと声をかける。
「おはよー」
「おーっす」
「僕が座るから退いてやぁー」
「ったく、仕方ねぇな」
僕は二人と挨拶を交わしながらそのまま自分の席へと腰を下ろす。
「なぁ、聞いてくれよ。蓮夜。こいつがさぁー」
「あっ!?ちょっと待って!?」
「えっ?何、何?面白い話?」
そして、秋斗が僕へと話を振ると共にそれからくだらない雑談へと花を咲かせていく。
「おっはよーっ!」
そんな中で、勢いよく教室の扉が開けられると共に元気な挨拶の言葉が教室中に響き渡ってくる。
それを受けて僕たち三人を含め、クラスメートたちの視線が集まっていく。
だが、僕の時とは違ってクラスメートたちが向けた視線は直ぐに散るのではなくそのまま向けられたままである。
「おはよーっ!玲香!」
「うん、おはよー」
それもそのはず。
今、教室に入ってきたのは僕のような陰キャではなく本物の陽キャである神薙玲香なのだから。
神薙玲香、誰にでも優しい学年一の美少女。
常に我らがクラスの中心人物に立っている御仁である。
「今日の配信も見ていたぞ!」
「えー、ありがとう!」
しかも、彼女はそれだけじゃない。
学生でありながら命の危険があるダンジョンに潜って多くの利益を得る探索者の一人なのである。
その中でも、神薙さんはその様子を配信すダンジョンライバーの一人。
しかも、圧倒的な人気を誇る、だ。
クラスの中にいる大人気インフルエンサーな美少女、これで目立たないわけがないだろう。
「……可愛いよなぁ、神薙さん」
神薙玲香。
クラスのマドンナである少女の登場を前にしたらこの僕たち三人の陰キャグループでさえその話題が彼女の方に寄って行ってしまう。
「しかもダンジョンライバー!本当に凄いよなぁ」
「マジでそれなぁぁ、俺とかダンジョンに潜るとか怖くて無理だわ」
「……ダンジョン、ねぇ?」
前までであればこれっぽちも気にかけたダンジョンについての話。
だが、何の因果かダンジョンのマスターなどという立場になった今となっては別である。
昨日、僕は武器庫という新しい力を手に入れたばかり……ダンジョンに潜るという彼女とその力には興味が出ていた。
「おはよーっ」
そんな風に僕がダンジョンについて頭を回していた頃、クラスの中へと更に一人の男子が入ってくる。
入ってきたのは決して高くない身長に整っていない顔。
ニキビも多く、悪目立ちする顔のパーツが一つあるだけの彼は決してモテると周りに見られることはないだろう。
そう……彼の立ち位置としてはこちら側。
陰キャ側の人間の見た目である。
「おぉー!山田ーっ!おはよー、来るのおせぇじゃん!」
だが、そんな彼に対してクラスメートたちが見せる反応は僕の時と違う。
陰キャ側の人間に陽キャ側の人間が明るく声をかけていく。
「すまん、すまん……ちょっと、昨日の遅くまでダンジョンに行ってて」
そして、その声をかけられた側の彼も気安く言葉を返しながら陽キャグループの方に向かって歩き始める。
「……ハッ」
ちなみに、彼は僕たちの隣を通るときにはこちらのことを鼻で笑って行った。
「……あいつも、変わったよな」
山田輝明。
元は僕たち三人と仲良くしていた陰キャであった。
「確かによぉー、探索者になったのは凄いがぁ」
それなのにも関わらず陽キャの仲間入りしているのは輝明がダンジョンに潜る探索者だからである。
うちのクラスには探索者でライバー。実力も人気も高水準な圧倒的美少女、輝明の上位互換とも言える神薙さんが存在している。
だが、それでも命の危険もあるダンジョン潜るどころか、そのまま潜り続けて順調に成果を伸ばしている彼は周りから尊敬を集めるに値する。
探索者を目指して、ダンジョンに入る人間はたくさんいても続かない場合がほとんどなのだがら。
輝明は探索者という肩書きでもって陽キャグループの仲間入りし、神薙さんが告げるダンジョンについての話についていけるだけの経験と知識でもってそのまま定着しているのだ。
「だからと言ってよぉ、当てつけかのように俺たちを鼻で笑うこと必要はないよなぁ?」
「だよなぁ?調子乗っているというか……少し前まで仲良くしていたのに、あれだけ見下す必要はないよな。流石にムカつく。お前もそう思うよなぁ?蓮夜」
陽キャと陰キャ、陽キャは特に何も思っていなくとも陰キャ側は勝手に被害妄想を拗らせて恨み妬みを積み重ねてスクールカーストなんてものを本気で信じてしまうのである。
正直に言って……僕は明日の飯こそが最重要であり、スクールカーストなんてどうでもいいが。
「……うん、そーっ、だねぇ!」
それでも、僕はこちらを見下してくする輝明に対してだけは心の中でムカムカとしたものを抱えながら彼ら二人の言葉に頷くのだった。
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