本物

 自分の目の前にいた男性。


「もう完全に呑み込まれているな」


 それはすでにその身にある神の力に呑まれてしまっていた。

 

「おぉぉぉぉぉおおおおおおお」


 人であった、その体はもはや人のものではなくなってしまっている。

 その体のほとんどが溶け、内部より大量の触手があふれ出していた。


「……」


 僕は何も言わずにただただ静かに男だったものへと視線を送り続ける。

 動き出すのを待っていた。

 それによって、自分の動きを大きく変えるから。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああっ!」


 かつて、僕が祓った。

 堕ちた神とは違う。

 今目の前にいるのは……ほぼほぼ堕ちかけ、暴走状態ではあるものそれでもれっきとした神の力を持つもの。

 以前のように祓って終わりというわけではない。

 神を、殺す必要があるのだ。


「ァぁァぁアァァ」


 警戒する僕に対して、一柱の不完全な神が一直線に自分の方へと迫ってくる。



「控えおろう」



 自分の元に近づく不完全な神。

 それに対して僕は己の神力を高ぶらせ、そのまま相手へとたたきつける。


「ぁぁぁぁぁっ?!」


 それを受けて神の体が沈む。


「……思ったよりも深刻じゃなかったな」


 そんな相手を前にして僕は独り言をつぶやく。

 思ったよりも力の出力が弱い……素の量が僕ほどでは言わぬまでも、一般的な僕の一族の人くらいはあると思っていた。

 だが、かなり量が低い。

 ここに関しては自分の想定を下回ったと言っていい。


「ァぁぁぁぁぁぁぁぁアあああアアアっ!」


 地べたを這う男性。

 その体を突き破って更なる触手の数々が姿を現し、そのまま僕へと近づいてくる。


「燃え尽きろ」


 それに対して僕は腕を一振り。

 それだけでこの場に顕現した熱き炎によって触手は完全にその形を失って地面へとその焼きくずが堕ちていく。


「ぁぁぁぁぁぁぁァぁァぁぁああああアあああああアアああああああアアアあああ」


 だが、それでも次々と触手は男性の体から這い出て僕の方へと迫ってくる。


「……」


 いつになったら、これが尽きるのか。

 僕はまたもや腕の一振りで炎を顕現させ、そのまま触手を焼き切ってみせながら、己の視線をしっかりとその視線を下の方に下げたままとしてくれている神薙さんの方に送る。


「ふっ。君に、本物の神様ってやつを教えてあげるよ」


 僕は神薙さんにも聞こえるよう、堂々たる態度で啖呵を切って見せる。


「……ふー、これなら。周りに被害を出すこともなく倒せそうだ」


 そして、その次に僕は冷や汗を垂らしながら小さな声でつぶやくのだった。

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