不登校
時間が経っても中々鎮火せず。
果てにはそもそもとして自分の命も懸けることになるダンジョンで危険な配信行為を行い、その死に様まで娯楽とするのは如何なものだろうか?というダンジョンライバー黎明期でも起こった議論が再び再発するまでに広がった今回の騒動の中で。
その中心人物であり、騒動の中で最も評価を落としたといえる神薙さんことレイナからは何の情報発信も未だにされていなかった。
配信も停止でSNSの更新も完全に止まっている。
「玲香……どうしちゃったんだろう」
「……そう、だよな」
「元気にしていると良いんだけど……」
そんな中で、とうとう神薙さんは高校にも来ないようになってしまった。
クラスの中にいる男子も、女子も、何なら教師も含めたうちの高校に通っているすべての人が彼女のことを心配している。
「なぁ、お前ってば最近。ずっとスマホを触っているよな?」
「……誰から来た連絡に返信を返しているの?」
「えっ……?」
そんなクラスの中で、スマホを取り出してチャットを送り合っている僕を前にする秋斗と和人が小さな声で自分へと疑問の声を投げかけてくる。
「……いや、その」
僕がチャットしている相手はもちろん神薙さんである。
でも、これを正直に言う訳にもいかない。
鈍感とも、他人の感情を察するのが苦手だよね、って言われることが結構多い僕でも、流石にわかる。
神薙さんが学校に来なくなるどころか、連絡すらも取れなくなって慌てているクラスの中で、僕が実は神薙さんと連絡を取り合っています!なんてことを言えば大変なことになるくらい。
「……まぁ、何でもいいでしょ」
僕は視線を二人から逸らして、スマホへと戻る。
「「……」」
下手な誤魔化し方だとはわかっているが、それでも仕方ない打オル。
だって、神薙さんってば学校のあるなしに関わらず、毎日のように大量のメッセージを送ってくるし。
なおかつ、僕がすぐに返信しないと、神薙さんから返信を催促するメッセージを大量に送ってくるんだよね。
正直に言って、ちょっと……いや、だいぶ面倒になってきている。
「……それに、ちょっとチャット機能にも飽きてきているんだよな」
チャット。
人生で初めて触れた現代機器による叡智たるチャットを前に興奮しきりで使いたくてしょうがなかった僕の熱も既に冷めている。
もうチャットは別に良いかな?って感じだった。
「……」
でも、今の神薙さんは大変な時期だろう。
そんな状態の彼女が今でも僕にチャットを送り続けてくれているのだ。
これまで仲良くしてくれて、色々な手助けもしてくれた相手で、なおかつ僕の熱が最高潮の時も毎回チャットに付き合ってくれた相手。
そんな人が苦しんでいる中で送ってきてくれているチャットを無視するなど、人間として外道過ぎるだろう。
「……」
僕は少しでも神薙さんの支えになればと思い、彼女のチャットに延々と付き合っていた。
これが、彼女の心を慰めてくれると思って。
「いつ、高校に来れるようになるのかなぁ?」
窓際の席に座る僕は神薙さんの家がある方へと視線を向けながら、独り言を呟くのだった。
「……おい、あいつってばやっぱり」
「……辞めておこう。流石に今のクラスにこいつは劇薬が過ぎる」
■■■■■
金曜日。
やはり、人生で一番テンションが上がる夜というのは確実にこの曜日だと思う。
明日から土日が来ると言う高揚感たるや。
僕はウキウキとした気分を抱えながら敷いたうっすい布団の中へと入る。
「うげぇ、明日ってば台風来るのか」
寝る前にエルを使って天気を確認した僕は眉を顰める。
台風なんて最悪の極み、クソオブクソである。
「はぁー」
一気に上がっていたテンションを落とした僕はため息を漏らす。
「……嫌だなぁ」
最後に、神薙さんへとチャットを送った僕はスマホの電源を落として眠りにつくのだった。
『明日、台風だって。危険だから部屋から出ちゃ駄目だよ?命大事にね』
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