第47話 シュゼットのお誘い
放課後、俺はいつもの通りスノウのお茶会へと向かっていた。
「アレ、どこ行くの? ゴット」
それを呼び止めたのは、シュゼットだ。俺は「あ、ああ」とちょっと動揺しつつ、「えっと」と説明する。
「いつもスノウのお茶会に行くことになってるんだよ、放課後。それでってとこだ」
「ふーん……? あのポンコツ姫の、ねぇ」
「どうせみんな集まるしね。用事があるならそっちを優先するけど、ないならとりあえず行く、みたいな感じ」
俺の話を聞いて、シュゼットは人差し指を口元に当てて、何かを考えている様子だ。それから「ねーゴット」とシュゼットはにひ、と笑う。
「良かったら、今日一緒に隠し工房、行かない? お勧めのところあるんだよね」
隠し工房。いわゆるミニダンジョンだ。伝説のルーン。伝説の武器。そういったものが眠っている。
俺の返答はもちろんこうだ。
「行く」
「あははっ、即決だ! 予想してたけど、本当にそう言うのに目がないんだ!」
シュゼットは俺に近寄ってきて「ゴットの弱点、見つけちゃったなぁ~」と顔を寄せてくる。目を細めて、何とも意地悪な表情だ。
だが、完全に攻略の姿勢に入っている俺に、そんなものは通じない。
「で、どこ行くんだ? レベルと装備的に割と遠出できると思うけど。移動方法は? 俺まだ馬しか使えないんだけど、転送の古代魔法陣ってシュゼット使えるようになってる?」
「待って待って待って。え? ゴットってそんな感じだったっけ? ちょっと抱き着いただけで動けなくなる童貞くんじゃなかったっけ?」
「言いたいことは分かるけど、今はルーンと武器の方が重要だから」
「あ、そう言う感じなんだ……。ま、まぁいいよ。うん。戦闘中に童貞ムーブして怪我されても困るしね、うん……」
言いつつも、シュゼットはテンションが落ち気味だ。何故だろうか。武器とルーン集めほど楽しいものはなかろうに。
シュゼットは「こほん」と咳払いしてから、「じゃあ今アタシが狙ってる隠し工房なんだけど」と指を立てる。
「獣の勇者の隠し工房って、どう?」
「シュゼット! お前は分かってる!」
「えっ!? あ、ありがとう!」
俺が強い語調でシュゼットの手を両手で握ってブンブン振ると、シュゼットは目を白黒させながら答えた。俺はしみじみ頷く。
「いやぁ、いいよね。脳筋二本持ちのジャンプ叩きつけ。特大サイズの武器なのに、ジャンプ攻撃なら振りが遅くなくて、しかも一発で火力が意味分からんほど出る奴……。対人ってよりはボス攻略だけど、一人いると安定感がすごいんだよ。タゲも取れるし」
「……やっぱりゴットって、アタシよりよっぽどこの世界の事理解してるよね。あの巨大武器を、二本持ち? 出来るの? そんなこと」
「シュゼット、やっぱお前分かってないよ」
「手の平返し! ひどいよゴット!」
だって分かってないものは分かってないんだもん。
俺はため息を吐いて、「いいか?」とシュゼットに語り掛ける。
「同じ隙を晒すなら、威力が高い方が良いだろう? 特に特大武器なんか振り終わりから盾に構え直す時間で、一発食らってしまうほど振りが遅い。なら盾なんか捨てて二本持ちがいい」
「盾なんか捨てて……」
「そうだ。それに特大武器はちょっと属性乗せてやれば、あとはブンブン振ってるだけでボスを溶かせるスペックを持ってるんだ。じゃあブンブンするしかない」
「ぶ、ブンブン……」
「そう。ブンブンだよ」
「数十キロありそうな武器を、二本持ちで……?」
「ああ」
「……」
しばらくシュゼットは考え込み、そして尋ねてきた。
「それ、装備重量やばくない? 下手したら一歩歩くのもままならなさそうだけど」
装備重量。ブレイドルーンのシステムの一つだ。装備全体の重量と持久力ステの兼ね合いで、動きが軽くなったり鈍重になったりする。
で、俺が今語った特大武器、と言うのは大概えげつないほど重量がある。一本持って鎧を着込めばもうこれ以上は何も持てない、というくらいにはなるほどだ。
そんな特大武器を二つも持てば、無論のこと他の装備なんてまともに装備できない。防具を着たければ持久力を死ぬほど上げる羽目になる。
で、俺の回答は、というと。
「大丈夫大丈夫。全裸になれば持てる持てる」
「全裸になるの!?」
「なるけど?」
全裸はブレイドルーンの華だ。様々な有名防具があるブレイドルーンではあるが、その内一番使用率が高く人気なのは全裸である。
それもそのはず。全裸は強さの証。回避や攻撃威力の最適化を考えた末にたどり着く結論。防具による防御力など、かなぐり捨てて戦える者のみが至る答え。
ブレイドルーンで全裸のプレイヤーが侵入してきたときは、警戒度一気にマックスになるもんな。70%の確率で強者なのだ。頭だけ何か被ってるお洒落さんも多いが。
ちなみに30%は戯れたいだけの変態である。こちらから攻撃しないと奇行を披露し始め、一通り遊ぶと満足して帰っていく。
そんな思い出に浸っていると、シュゼットは重ねて聞いてきた。
「ってことはゴット、それで二本持ちが出来るようになったら、全裸で戦うの?」
「うん」
「なんて迷いない断言。これが数百周した者の覚悟だってこと……?」
よく分からんがシュゼットは戦慄している。
そんな俺の当然という声色に、シュゼットはしばらく沈黙した。それから、両手の人差し指をツンツン合わせながら、「その」と目をそらしながら言う。
「あ、アタシ、流石に全裸は抵抗あるから、今回の隠し工房の武器は、上げるね……? 二本持ちがいいなら、前の周で確保した奴も、ついでに……」
「マジで!? シュゼット、ありがとう!」
「わぁ純粋な笑み。何か、ゴットってアタシが思う何倍かヤバい人なのかもしれないと思い始めてきたよ……」
僅かに赤面気味に言うシュゼットに、俺は首を傾げる。
「俺が? 俺はまともだよ。ちょっと悪いことはするけど」
「悪いことって、……世界を塗り替える大魔法のこと?」
「悪いことだろう?」
ニッと笑いかけると、「何か価値観おかしくな~い?」とからかわれる。
そこで俺は「あ、それでちょっと確認なんだが」と一つ重要事項を思い出す。
「勇者系の隠し工房の攻略って、確か『勇者の末裔』派閥から敵対されなかったか?」
「え、されるよ?」
シュゼットは目をパチパチさせながら言う。
勇者の末裔。学院や周辺地域の自治を行う、かつての勇者の末裔たち。少し前にも会った、風紀委員的な立場の派閥連中だ。
……『やったことなかったらとりあえずやる』という標準的なプレイヤー思考を有するシュゼットに、俺は聞く。
「……もしかして裏の目的がそれ、とかあったりするか?」
「えー、いやぁ? ゴットに嫌われるのが一番嫌だし、ちょっと攻めたことやるならちゃんと言うよ。だから何て言うか、このことを言い忘れたのはハメてやろうとかじゃなくって」
シュゼットは口を引き結び、そっぽを向いて、言いにくそうに言う。
「正義面する奴嫌いだから、いっつも無条件で敵対ルート行く癖が付いちゃってて。それで、いつもの流れにゴットを巻き込みかけちゃったかなって。……ごめんね?」
いや、別に、まだ取り返しつくからいいけどさ。
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