第101話 ドキッ♡ 全裸縛りのダンジョン攻略

 全裸とは何か。


 それは極まった使い手の証。防御を捨て回避に振る者の証明。最低限の恥部以外のすべてを晒して戦う真の戦士が取る選択肢。もしくは変態。


 俺がブレイドルーンで侵入を受け、戦って明確に「こいつ強いぞ!」となったとき、そいつは大抵全裸なのだ。いやマジで。本当にそうなの。信じて。


 なので、俺は今のこの状況は、そういやらしいものではないと認識している。


「ねね、ゴット♡ アタシのおっぱいどう? 気持ちいい?」


「……ノーコメントで」


「あーまだ暑いなぁ下着も脱いじゃおうかなぁ」


「気持ちいいですッ!」


「あははっ♡ ゴットのエッチー」


 俺の腕に抱き着いてくる下着姿のシュゼットが、「えいー」と俺の頬を指で突いてくる。その瞳はぼんやりとしていて、明らかに正気ではない。


 ……それで言えば媚薬を自分で一気飲みする時点で正気じゃないんだけどな。媚薬をキメて猛アタックをすれば男は落ちる、っていう発想はパワーが過ぎる。


 実際俺は今、理性と下心の激しい戦争下にある。いやらしくない、エッチじゃない、というのは必死な自己暗示だ。


「これは効率重視の結果これは効率重視の結果これは効率重視の結果」


「ゴットぉ♡ ブツブツ言ってないで、構ってよ~」


「れ、冷静になるとおかしいだろ、構ってって。ここダンジョンの中だぞ? 即死頻発エリアだぞ?」


 俺は理性を奮い立たせてシュゼットに訴える。人差し指を立てて猛抗議だ。


 するとシュゼットは俺の指を咥えた。


「んん~? んふふ♡」


 ちゅぱちゅぱとシュゼットは俺の指をひとしきりしゃぶる。それから「ぷは」と口を外し、上目遣いに俺に言う。


「ごちそう様♡ ゴットの指、おいしかったよ♡」


「ア――――――――――――――――――――! ア――――――――――――――!」


「あははははっ! ゴット叫んでるぅ~! 可愛いんだ~♡」


 俺はシュゼットから離れて、しゃがみ込み頭を抱えて叫んだ。それから、ムラムラと湧き上がる己の生殖本能に必死で抵抗する。


 理性がっ! 理性がヤバイ! こんなに媚薬バフ強いの!? なめてた! シュゼットの恋愛力なめてた!


 とか考えてたら、背後からシュゼットが抱き着いてきた。


 背中に二つ柔らかな感覚がある。俺は目を強く瞑って、深呼吸でどうにかいなそうとする。


「ねぇー、そろそろ進も♡ それとも~、ここでゆっくりしちゃう?」


 はむ、とシュゼットが俺の耳を唇で挟む。俺は絶叫した。


「進む! 進むから離れてくれッ!」


「ん~……いいよ♡ じゃあゴールまで進んじゃお~」


 半分酩酊したような態度で、シュゼットは受け答える。


 俺は荒い息と共に立ち上がった。頑張れ俺。負けるな俺。色々と理性に頑張ってもらわなきゃならない理由はあるが、何よりもダンジョンで初体験はやんちゃすぎる。


 シュゼットはモジモジと足をこすり合わせているが、俺は知らない。シュゼットの太もも白くてムチムチしてるなぁとか思ってない。ヤバイ思考が下半身に支配されつつある。


 心頭滅却……。心頭滅却……。


 そこで、俺は顔を上げる。前方から気配。敵だ。


「シュゼット」「分かってる」


 敵を前にすれば、俺たちはスイッチが入る。


 現れるのは、人型をした結晶ゴーレムだ。大きなサイズではない。俺たちとそう背の差がないくらいだ。


 俺は杖を構え、鋭く息を吸う。詠唱。


「鋭く狙うは杖の先。放つは重き岩石弾」


 杖の先でボコボコと音を立てて拳ほどの岩石が発生し、鋭く放たれる。バコォンッ、と音を立てて激突、砕け、結晶ゴーレムはのけぞってしゃがみ込む。


 結晶ゴーレム相手はこの魔法が定石だ。結晶ゴーレムは先手を取らないと固くて仕方ないからな。一度砕けるまでまともにダメージが入らないのだ。


 逆に言えば、一度砕けてしまえば普通の時も同じ。


【七転八裂】


 シュゼットが身軽になった全身で飛び出して、四方八方から巨大な機構剣で切りかかる。瞬時に結晶ゴーレムは全身にヒビが入り、直後砕けた。


「流石強いな」


「ううん~。ゴットの先制のお蔭でやりやすかったよ♡」


「クソッ、戦闘を挟んでも発情が解除されない!」


 おっぱいで腕を挟むな! 俺の理性が負けたらどうする!


 瞳にハートをたくさん浮かべて密着してくるシュゼットに、俺は歯を食いしばって耐えるばかり。


 体を半分くらい絡ませてくるシュゼットを抱えて、俺は鬼の理性で突き進む。


 鉄球が何個も追ってくるから、走っては避難を繰り返し(避難場所でタイミングを見計らうたびにシュゼットが首筋に噛みついてチューチュー吸ってくる)。


 トゲの落とし穴に挟まれた細道で向かってくる結晶ゴーレムに立ち向かい(先行するシュゼットがこちらをチラチラ振り返りながら尻を振って歩く)。


 ようやくボス部屋前にたどり着くころ、俺は限界に達していた。


「フーッ! フーッ! 行くぞ! ボスを倒したら解放だッ!」


「そうだねぇ~♡ ダンジョンから解放されちゃうね~♡」


 俺の目は血走り、俺を最も苦しめるシュゼットはもう完全に俺に密着している。歩きにくいがそんなこと言ってる場合じゃない。爆発する前にボスを倒して逃げねば。


 ダンジョンボスの扉を開く。その向こうから、結晶ゴーレムが現れる。全長5メートルは軽くありそうな巨人サイズのゴーレム。その中心には、人間の物らしき耳が。


 『大英雄の耳』。ドルイドの魔法の威力に8%の上昇をもたらすアクセサリー装備品だ。


 とはいえ、今はそれも小さなこと。俺は早々に結晶ゴーレムを倒して逃げなければ色々終わる。据え膳食わぬは、というが、ここではないのだ。


「悪いが、お前には頓死してもらう」


 俺は両手の指の間に杖を挟み、計八本の短杖を構える。ゲームでは決してできない装備方法。俺は戦闘に意識を集中させることで、己の煩悩を吹き飛ばす。


 残るは、この敵をいかに素早く殺すかという事のみ。


「さぁ、悪いことしちゃうぞ」


 俺は獰猛に笑―――


「そうだね、一緒に悪いことしよーね♡」


 顔を真っ赤にしたシュゼットが俺の胴体に腕を、右足に足を絡ませ、もぞもぞと蠢いている。


「あああああああぁぁぁぁぁああああああああ!」


 俺は破れかぶれで結晶ゴーレムに挑みかかった。

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