第57話 ゴット式武者修行・夜の巻

 勇者の末裔を潰す、というのは、一通り欲しい武器を集めてからでも問題ないだろう、と言うのが俺の結論だった。


 理由としてはシンプルで、急ぐ必要がないからだ。ユリアンに釘を刺してから数日、勇者の末裔に所属する生徒に遭遇するも、睨まれるだけで特に何もなかった。


 あと、勇者の末裔派閥を潰すのには、ちょっと準備が足りないかな、というのもある。


 以前にも考えたが、ボスの末裔筆頭、かなり強いんだよな。今のビルドだと結構不安が残る程度には強い。なので、もう少し準備していった方が安全だろう、と考えたのだ。


 そういうことなので、俺は次なるビルドを着込むために、マラソンを行うことにした。


「うーん、いつ来ても夜」


 俺は一人で遠乗りに出て、『永遠の夜の丘』というエリアを訪れていた。この地域は昼夜の移り変わりということが起こらず、常に夜の中にあるのだ。


 夜。お察しの通り、『影踏み』の独壇場である。


「懐かしいなぁ。ここで全員『影踏み』付けて、わちゃわちゃにバトロワしたっけ」


 夜エリアで全員『影踏み』を発動させるので、もー大変なのだ。常に影の棘突き上げが襲い掛かってきて、それをどう移動系スキルで避けるか、みたいな。


 んで隙あらばとりあえず影を踏む。十数人くらい同時接続で、逃げ切れなくなった奴から死んでいく。


 移動系スキルでも『縮地』付けてる奴から死んで言った覚えがある。やっぱ『影狼』なんですわ。まぁゲームの『影狼』、二発目で切りつけちゃうから不慣れだとそれで死ぬのだが。


 そんな事を考えながら、さらに俺は夜の丘を進み、敵の無限湧きスポットにたどり着いた。高い丘の下に広がる、人影めいたモンスターの蠢く場所。夜の使徒。


 俺は丘を下りて、奴らの真ん中に降り立つ。夜の使徒たちは俺を見付け、低いうめき声を漏らして襲い掛かってくる。


 俺は大ルーンの書で大狼の大曲剣を装備して、ニヤリと笑った。


「さぁ、精神力尽きるまでお前らの事殲滅しちゃうぞ」


【影踏み】


 俺が足踏みすると、影の棘が一斉に夜の使徒たちを貫いた。それを何度も繰り返す。夜の使徒はどんどん死んではリポップし始める。


 そして俺は、脳死で【影踏み】を繰り返すだけの生物になった。


 精神、というか魔力切れ用のポーション的なのはスノウに買ってもらったので(売店うろついてたら捕捉され奢られた)、切れるまで無限【影踏み】だ。


 今回何故火山ではなく夜の丘なのかというと、こっちの方が稼ぎの効率がいいからだ。ただ、ポーションの用意がなかったので、前回は火山で十分と判断した。


 数時間足踏みしていると右足が痛くなってきたので、左足に。両足が痛くなったら普通の体力回復用ポーションを飲む。そして継続。


 夜の使徒が棘に突き刺さって倒れていく映像を永遠に眺めながら、これが永遠の夜かぁと思う。思いつつ【影踏み】を繰り返す。


 時間感覚は十時間を超えた辺りで消えた。どうせ何をやっても夜である。朝は来ない。朝は来ないのだ。


 そして俺は、とうとう魔力用ポーションを使い切った。


「……帰るか」


 俺が無に帰しそうな精神に鞭打って馬の元へ戻る。リポップした夜の使徒は、まるで俺から逃げるように距離を取っている。千匹単位で殺したからね。仕方ない。


 そうして俺は、勝手に餌を確保して休んでいた馬に乗って、学院へと帰還した。


 帰還したとき、ちょうど放課後だった。俺は西日に眩しさを覚えながら教会へと向かい、レベルアップのため学生証にキスと祈りを。


 そして学生証を見下ろす。


―――――――――――――――――――

ゴットハルト・ミハエル・カスナー


Lv.80+73

生命力:40

精神力:30

持久力:11

筋肉量:15

敏捷性:34

知識量:14

信仰心:6

神秘性:9


特筆事項:なし


―――――――――――――――――――


「っっっっっっしゃあ!」


 思いっきりガッツポーズを取ると、周囲がビクッと俺を見た。俺はやっと人間的な心を取り戻して、軽く周囲にペコペコ頭を下げる。


 そして学生証を高く掲げて、うっとりと眺めた。


「ずっとやってたもんなぁ……! 夜の使徒、普通に戦ったら中ボスレベルで強いのに、スキルで圧殺しまくったもんなぁ……!」


 これで一周目的には十分ラスボスに通じるレベルに達したというところだろうか。でも今のところ、俺結構雑食ビルドなので、まだまだレベルを上げる必要はありそうだ。


 器用貧乏ならぬ器用富豪目指して、まずは目指せシュゼット、と言ったところ。ステ振り直しの状況が整うまでは、極振りは出来ないが故に。


ということで、早速ステータスを振ってしまう。


―――――――――――――――――――


Lv.153

持久力:28(+17)

筋肉量:60(+45)

神秘性:20(+11)


―――――――――――――――――――


 うっわ、忌み獣の大槌の必要ステータスに合わせたら、レベル全然残んなかったわ。


 内訳としてはシンプルで、まず筋肉量である。忌み獣の大槌がそもそもかなり重量のある武器という事で、片手で振るうにはこの程度の筋肉量が必要だったのだ。


 神秘性も同じ。忌み獣の大槌は呪い属性の武器ということで、使用には神秘性のステータスが関わってくる。ここが今回のビルドの肝でもあるので、必要経費と言う感じ。


 そしておっもい武器を持っていても軽快に動けるだけの持久力。これで大槌を両手に持っても、全裸なら俊敏に動ける、という持久力になったはずだ。


 ……まさか生命力にも精神力にもステ振りできないとは。ステータスの振り直しの仕組みを構築するの、結構急務かもしれない。まぁレベル上げればいいだけの話なんだけどな。


 ひとまず、これで新しい装備セット用の下準備は、一旦完了と言うところだろうか。まだまだ最適化は出来ていないが、レベル上げという一番重いタスクは完了した。


 そういえば、装備セット名、どうしようかな。安直に「狂人」とかで良いだろうか。仮決めは「狂人」にしておくか。


 そんな事を考えながら、俺はそのままの足でお茶会エリアに訪れた。


「あ! ゴット! 最近何処にもいないと思ったら、どこに居たのです―――……目、隈がすごいけど大丈夫ですか?」


 スノウに声をかけられ、俺は「ヘーキヘーキ。でも用事済ませたら速攻で寝る」と答える。


 面子を確認する。お茶会の主ことスノウに、フェリシー、ヤンナ、シュゼットと揃い踏みだ。真ん中にはボードゲームらしきものがある。


「それ何?」


「こちらはスノウ殿下にご用意いただきました、魔法の遊戯盤、だそうです」


「何でも、一番にクリアすると望む願いが叶うといいます! 継続的に私の評判を上げていくには、コツコツやらねばなりませんからね」


 まーたろくでもない事になるんだろうなこれ。


「……ま、他の面々にスノウのフォローを頼むとして」


「どういう意味ですかそれは」


「シュゼット、お前が持ってる忌み獣の大槌貰っていいか? 受け取るの忘れてた」


「あ、はーい。いいよ、ほら」


「うぉおおおやったぁ~~~! 二本目だぁ~~~~! ありがとなシュゼット~」


「そこまで喜んでもらえるなら嬉しいよ」


 シュゼットは虚空から大槌を両手で取り出して、俺に渡した。「どこから取り出しました今?」とヤンナが目を丸くしている。


「あ、前のキモチワルイ魔獣の武器だ」


「ああ、そうだぞフェリシー。俺はこれからこれを二本持ちでぶん回すんだ。楽しーぞー」


「ワクワク!」


「ワクワク! じゃないですよフェリシー。ゴット、それ流石に絵面ヤバくないですか?」


 眉を顰めるスノウに、俺はニッコリ答えた。


「この程度序の口だぞ」


「そうですか。―――シュゼット、責任を取ってゴットを止めなさい」


「ゴットを止めるのは、アタシには無理かなぁ」


「じゃあ帰って寝るよ。ふぁああ。結局何徹したんだろ」


 俺が片手で大槌を持ち上げると、「ゴット様、見ない内に筋肉質になりましたね……」とヤンナが口元を押さえる。シュゼットも、「すっご。片手ではアタシも持てないよ。相当レベル上げたね」と。


 俺は肩を竦めて「ま、ボチボチな」と手を振ってお茶会エリアを離れ、まっすぐに自室のベッドに向かい、倒れ込んだ。


 そんな訳で、次なるビルドの準備、もとい次なる隠し工房攻めの準備が整った。まずは大いに寝て、挑むとしようか。


 だから、まずは寝……。

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