第56話 拒絶と進展と裏事情
ユリアンの答えはこうだった。
「……そ」
「そ?」
「―――そんな要求ッ! 受けられる訳がないだろうがぁあああああああ!」
「うおおおおおおおおお、あははははははっ!?」
ユリアンはいきなり立ち上がって、木剣を腰から抜き放った。その激昂っぷりに、俺は面白すぎて笑ってしまう。
「カスナーッ、貴様ッ! 勇者を、そしてその末裔たる我らを愚弄しおってッ! そこに直れッ! その性根、叩き直してやるッ!」
「テンションたっか! いいぜその勝負受けて立、あちょっと待って、俺不殺武器持ってないから今度で良いか?」
「良いわけあるかバカモノが!」
「じゃあ逃げるわ。とりまウチの身内追い回すのだけは、確実に止めてくれよ? じゃないとマジで拡散するからな?」
「うるさい! いいから」「じゃあな。また会おう!」
俺は素早く椅子から跳び上がって、そのままサロン室の扉を蹴破って走り去った。「待て! このバカ者が! せめて扉は手で開けぇええ!」とユリアンの怒声が背後に上がる。
いくらか走り、背後を振り返ると、追っ手はいないようだった。
「ふー、撒いた撒いた。しかし、第一の策は失敗か。どうしたもんかな」
ゲーム通り進めるなら、勇者の隠し工房をクリアする度に勇者の末裔にケンカを売られて、勝つと情報が揃って、一通り情報が揃えていざ本丸へ、という流れだったが。
「頭の中に情報は揃ってんだよな」
え? もしかして敵の攻撃封じたし、この機に本丸叩いてもいい感じ? 準備整えて攻める? 潰す? 潰しちゃう?
「ん~~~~……」
俺はしばし考え、結論付けた。
「潰すか!」
「待ちなさい。何を潰すというの」
声をかけられ振り返る。そこに居たのは金髪ポニテのミレイユだ。勇者の末裔の冷静な方である。
「出たな勇者の末裔。俺の悪だくみを阻止しに来たか」
「あなた本当に悪だくみして良そうなのが怖いのよね……」
してたし。
俺は素手で構え風のポーズを取って威嚇する。ミレイユは一瞬それに警戒したが、俺かふざけているだけなのを看破して「あなたはいつもそうなの?」と尋ねてくる。
「いや? 相手による。堅物相手にはふざける」
「厄介ね」
「スノウ相手だと俺はツッコミに回らざるを得ない……」
「スノウ殿下ってそうなの?」
ちょっと目を離すとすぐ囚われのお姫様になるんだもんスノウ。アイツ、ポンコツの癖に行動力あるから目が離せないのだ。
「……アレ、今って実は危険なのでは? スノウが下手に何かやらかしても俺が助けに行けない……?」
「先ほどの話だけれど」
「あ、はい」
ミレイユが強引に自分の話に持っていく。
「ワタクシ、勇者の隠し工房の探索に、付き合ってもいいわ」
おや。
「いいのか。ユリアンは随分な怒りっぷりだったが」
「ええ。……勇者の末裔、という派閥に、何処か違和感を抱いていたのは事実だもの。ユリアンはあの調子で疑おうともしないけれど、ワタクシはそうじゃないわ」
それを聞いて、ほう、と思う。内部に居ても、何かおかしい、ということはあるのか。ならば、意外に他の連中に呼びかけても、引っかかる奴は多いのかもしれない。
「じゃあ、試しに行ってみ―――」
るか、と告げようとした瞬間、ミレイユの背後から顔をにゅっとのぞかせた人物がいた。
フェリシーだった。
「ゴット、平等条約交わした瞬間に新しい女の子とデートの約束してる」
そして完全に俺狙いで釘を刺しに来ていた。
「……ようかと思ったけど、やっぱりだめかもしれないなぁ~」
「あなたから言い出したのに?」
ミレイユが眉を顰めて首を傾げている。全く持って言う通りだ。言う通りなのだが。
「じー」
この紹介前限定透明娘が牽制しているので、俺は素直に頷けない。
「……」
俺は考える。というかこれすらデート扱いになるのか。厄介な。
俺は女の子たちとは全く関係ない意図で勇者の末裔をぶっ潰したいだけなのに、何でこんなところで齟齬が起きるのか。ムムムと唸ってしまう。
「それで、どうなの。一緒に行けるの? それともダメ?」
「ゴット。ゴットのこと、フェリシーちゃん信じてる」
俺は板挟みになって、腕を組んで考えることになる。勇者の末裔、潰したいなぁ~。欲しい武器結構あるんだよなぁ~。いい機会だしなぁ~。
ん、待てよ。そもそもフェリシーのこと伝えれば、俺の葛藤についてもスムーズに伝えられるのでは?
事態の解決そのものではないが、ひとまず妙なこじれは取れるな、と考え、「ミレイユ」と俺は声をかける。するとフェリシーは言った。
「ゴット、ダメ。フェリシーちゃん、この人には知られたくない」
え。
「何?」
ミレイユは首を傾げている。だが俺は言おうとしていたことを寸前でフェリシーにブロックされてしまったので、何も言えない。
俺は答えに窮した結果、こう言った。
「……呼んだだけ☆」
「何なの?」
「ホントゴメン」
つらい。ふーむ、どうしたもんか。
あ、そうだ。ミレイユと二人きりでダンジョンに挑むのが、新しい女をひっかけてきた、みたいな扱いになるのであれば、二人きりではなければいいのだ。
となれば、ユリアン―――はダメなので、手ごろな誰かを誘えばいいことになる。
であれば。
「ミレイユ、もう一人誰か連れてきていいか? 適当なの」
「それは良くないわ。適当な人選はやめて。せめて勇者の末裔の誰かか、あなたと一緒に隠し工房に忍び込んだ誰かにして欲しいわ」
「じゃあシュゼット」
「なーんーでー! そこはフェリシーちゃんでしょ~!」
フェリシーはミレイユの後ろから出てきて、俺に掴みかかってくる。フェリシーは非力なので何ともいえず癒される。可愛いなぁフェリシー。
「……何をぐらぐら揺れているの?」
「今地震が起こってるから」
「起こってないわ」
ミレイユもユリアン同様堅物で、何とも実直なツッコミを入れてくれる。いいなぁ勇者の末裔。自由に会話できる前提なら、一番絡んでて楽しいかもしれない。敵としてはウザイ。
「まぁ、問題ないでしょう。問題児二人と一緒に行動していた、と言うのは少し問題だけれど、ワタクシが顔を隠せばいいわ」
「あ、やっぱ二人で行こうか」
「意見をころころ変えるのやめてくれる?」
「二人っきり、ダーメー!」
抗議してくるフェリシーの頭を撫でつつ、フェリシーを指さししてから、小さく指で丸を作った。二人、というのはミレイユの中だけだ。付き添いはフェリシーがいいだろう。
意図が伝わったのか、フェリシーはパァッと表情を華やがせた。それから「も~、ゴットってば、フェリシーちゃん大好きなんだから~」と抱き着いてくる。可愛い。
ミレイユはため息を吐いて、俺を見た。
「まぁ、いいわ。あなたが変人なのも分かったし、用心して向かわせてもらう。場所はこちら指定で良いかしら? 少なくとも、複数の勇者の隠し工房の場所は把握しているし」
「いや、俺指定でやらせてくれ。欲しい武、そっち指定の場所だと準備されて罠に、みたいな可能性もあるからな」
「そう、信用ないのね。……今欲しい武器って言いかけた?」
「いや?」
「そう……」
ということで、ミレイユが一時的に仲間に、フェリシーが俺の背後霊になった。
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