第36話 大ルーンの書:説明編

 俺は例のごとく、学院内の人気のない森の、開けた空間に来ていた。


「わぁ、静かで素敵な場所……」


 しんみりと、染み入るような声でヤンナは言う。


「いつもここでお作業を?」


「ああ、秘密ごとが多いからな。こう言う場所はちょうどいいんだ」


 俺が言いながら色々と準備していると、ヤンナはちょっとどぎまぎした様子で聞いてくる。


「ち、ちなみになのですが、ここには、その、姫殿下は」


「スノウ? いや、連れてきたことはないな。スノウと会うときはスノウ側で準備があるし」


「そ、そうですか……。じゃあ、ここを知っているのは、私とゴット様だけなのですね」


 もじもじしながらいうヤンナに、俺は首を振る。


「いや? フェリシーは知ってるぞ。基本的にここで作業するときは、フェリシーがぼーっと見てる場合が多い」


「……そうですか。なるほど、幼いからと油断していましたが、そうですか、ふむ……」


 何か不穏だが、俺は不得手なのでノータッチで行く。ヘタレと言われても構うものか。王族貴族相手にハーレムとかできる訳ないし、あんまり危ない橋は渡らないスタンスだ。


「さて、じゃあ軽く説明からいくが」


 俺は、ヤンナ共々用意した椅子に座って話を始める。


「俺がこれから作ろうと考えているのは、『大ルーンの書』だ。大ルーンが記された書物、ということだな」


「っ!? え、と、すみません、ゴット様。その、レイヴンズ先生が言っていたので、大ルーンの碑文の研究だとばかり、思っていたのですが」


「ん? ああ、アレはもう終わってるからな。無効化もできてる。俺がやろうとしているのは、その先の話だ」


「は、はわわ……」


 驚き方面白いなヤンナ。


「そうだな。じゃあ一旦、大ルーンの内容についてサックリ話しておくか」


「え、ど、どういう内容なんですか」


「割と単純なんだけどな」


 俺は軽く説明する。大ルーンの碑文は、ルーン魔法を安全化しながら弱体化させていることを。そしてその影響は、同じく排除ルーンを発動させるだけで可能であるということを。


「そ、それ、発表したら、全世界にものすごい衝撃が走るんじゃないでしょうか?」


「さぁなぁ。多少難しいところはあるけど、俺より頭いい奴なら気づけそうなラインではあるし。もしかしたら発表しようとした瞬間に、誰かに殺されてもみ消される可能性もある」


「ひ……」


「だから、危険な知識なんだよ、これは。ヤンナのためにも言うが、絶対に人には漏らすなよ。守ってやれる分には守ってあげたいが、常にそれができるとは限らない」


「ま、守って……ハッ! は、はい! 秘密は守ります」


「マジで頼むぞ?」


 俺が不安になって再確認すると、「も、もちろんです」とヤンナは念押し。そこまで言うならひとまず信じよう。一応俺も、その辺の奴に比べれば、もうずっと強いのだし。


「で、ここからが本題だ」


「は、はい! こ、こんな重大情報が、前提……。ゴット様、すごい……」


 ヤンナの持ち上げはちょっとむず痒いので、スルー。


「俺たちが作ろうとしている大ルーンの書は、簡単に言うと『大魔法を発動したり、装備セットを一瞬で装備する、自由自在に取り出して奪われない書物』だ」


「はい。……?」


「そうだよな。まぁそれが出来れば完成って話なんだが、やることというか、要件定義と言うか、結構手間がかかる想定ではある」


 俺は人差し指を立てて、くるくると回す。


「まず、俺たちが作りたいのは、『自由自在に取り出して、奪われない書物』だ。それが出来て、初めて大ルーンを記述し始められる」


「は、はい。……自由自在に取り出して、奪われない……?」


「そうだ。まずそこがいきなり難しい。で、だ。ちょっと実験品はすでに作ってあってな。これを見てくれ」


 俺は指を一度鳴らした。すると、俺の手の内にナイフが現れる。


「……えっ。えっ? えぇっ!?」


「とまぁ、『自由に取り出せる』ナイフは、実はもう開発済みだったりする」


 俺はそのナイフで、地面に絵を描いていく。


「要は、トリガーを引くといつでも現れてくれる本で、かつ用が済んだら危険が及ぶ前に消えてくれる本、が欲しいんだよ」


 俺は地面に、指鳴らしすると手元に現れ、閉じると消えて元の場所に戻る本の絵を描く。


「これがあれば、俺は呼び出した本の大ルーンを起動するだけで、かなり大規模なルーン魔法をいつでも発動できることになる。今は装備セットを変更する、くらい軽いものから始める予定だけど、この方式なら拡張性が高いからな」


「す、すいません。その、お話が難しくって。もう少し簡単に言っていただけないでしょうか?」


「あ、ごめんごめん。えっとだな、つまり」


 俺は考えて、地面に文字を書いていく。


「俺の考えた最強の大ルーンの書の使い方!」


「え!? は、はい!」


「一、指を鳴らすと本が手元に現れます」


「はい。指パッチンで、本を召喚、ですね」


「二、本に大ルーンがもう書かれてるので、なぞると大ルーンの魔法が発動します」


「わ、簡単ですね。普通のルーン魔法もなぞるだけで発動しますけど、大ルーンも同じなんですか」


「三、本を閉じると本が勝手に本棚の中に戻ります」


「便利……」


 だろ。


「欲しくね? だから作ろうって話」


「……ゴット様は、それでひとまず、装備切り替えをする大ルーンを作りたいのですよね?」


「ん? ああ、そうだ」


 俺が頷くと、ヤンナは目を輝かせて言う。


「本を呼ぶ指パッチンを二回にして、装備切り替えは一回にしませんか? 戦闘中にまた本を呼び直すのは、難しいと思います。でも指パッチン一回なら、一瞬です」


「――――――っ」


 俺は息をのむ。その間に様々なことを考慮する。本を呼ばざるを得ない場合の想定シチュ。装備切り替えの想定シチュ。本呼びで今後想定される大ルーン魔法。


 俺は叫んだ。




「採用!!!!!!!!」


「ありがとうございます!!!!!!!!!」




 俺とヤンナはワイワイと盛り上がる。今回の開発は楽しいぞこれ。アガってきた。

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