第30話 ゴット式武者修行

 ヤンナから逃げた後、俺は溶岩地帯に数日間の旅に出た。


 何をしに行ったか。そう。マラソンである。全集中レベルアップ期間ということだ。あと慰謝料を稼ぐためのお金稼ぎ。


 というのも、確かに低レベルでも問題なく戦える俺ではあったが、それでもレベルはあればあるほどいいに決まっているからだ。


 パイロットライトの時は、レベルではなく装備で対応可能だと分かっていたこと、そしてレベルを上げに行くことそのものがリスクだと知っていたからレベル上げは出来なかった。


 しかし今は、得に何がある訳でもない、浮いた期間である。ここでやるのが一番ちょうどいいだろう。


 ということで、俺はマラソンをしていた。


【吹雪呼び】


「滅びよ~」


 炎属性のモンスターたちが、吹雪の冷たい風や雪にぶつかって、阿鼻叫喚の悲鳴を上げている。


 ここの敵は火の精霊的な存在で、無限湧きするのが特徴だ。


 そしてその炎属性のモンスターは、氷属性でガンガンダメージが入って行く。


 つまり、『吹雪呼び』をやれば半永久的に全自動モンスター殲滅機構が出来上がるのだ。


 そんな訳で俺は、深雪の直剣で吹雪を呼んで、火属性の敵を片っ端から死滅させていた。


「知っちゃいたが楽だな……」


 寒さに勝手にダメージを受けて死んでいく精霊たちを眺めながら、氷の鎧を着込んでぼーっとする。


 氷のひんやりと、外の溶岩の熱気がちょうどいい。強すぎる熱気は吹雪が緩和している。あ、この空調具合最高かもしれん。寝よ……。






 そうして丸々二日をモンスター根絶に費やして、流石に十分だろう、と俺は学院に戻った。そのままの足で大聖堂に向かい、学生証にキスして額に掲げ、祈りをささげる。


 思念が糧になる感覚。俺は学生証を見た。


―――――――――――――――――――

ゴットハルト・ミハエル・カスナー


Lv.28+52

生命力:17

精神力:15

持久力:11

筋肉量:15

敏捷性:20

知識量:14

信仰心:6

神秘性:9


特筆事項:なし


―――――――――――――――――――


 はい来た52レベアップ。と俺はもろ手を掲げる。勝ちました。勝ちです。そりゃ一地域のモンスターを一時的に根絶したらこうもなるわ。やっべ~序盤にしては強くなりすぎちゃったな~俺。


 ちなみにレベル80は、終盤入りたてまでなら通じるレベルとなる。ブレイドルーンはエンディング後の裏ボスの数が異様に多いゲームなので、そういう事を考えるとまぁ、ボチボチだ。


「装備の方が重要なゲームだしな」


 俺はしばらく考えてから、今の装備で一番生きるビルドを考える。ステ振りは下準備ができればいくらでもやり直すことが出来るので、あまり気負うことはないしな。


 ということで、俺はパパっとステータスを振った。


―――――――――――――――――――


Lv.80

生命力:40(+23)

精神力:30(+15)

敏捷性:34(+14)


―――――――――――――――――――


 生命力40は裏ボスまで通じるステータスになる。まぁ裏ボス基準だと少なめだが、現状を鑑みるならかなり高めだ。死んでどうなるかが分からない以上、ここには余裕が欲しい。


 精神力にも大目に振ったのは、シンプルにルーン魔法の発動回数を増やせるからだ。俺の戦闘スタイルを考えると、純魔法使い並に精神力がいる。最終的には最低でも100まで振りたいところ。


 最後に、敏捷性。大狼の大曲剣の威力に影響がある。というか他の攻撃手段、全部ルーン魔法だからな。ルーン魔法は使用者のステータスの影響を受けない。武器の質だけがモノを言うのだ。


 シンプルだが、必要な項目に必要なだけ振る、いいステ振りが出来た、と俺はご満悦だ。後は武器の方も、マラソンで集めた強化素材で強化しなければ。


 俺はルンルン気分で人気のない場所に向かう。学院の隅っこの森。その少し開けたところ。


 俺が焚き木を起こして、バケツに水を汲んで、腕まくりをして、とやっていると、フェリシーが現れた。


「やは。お帰りゴット~!」


 ふにゃっと笑顔のフェリシーである。可愛い奴め。


「今日もルーン刻み?」


「いいや、それもやるにはやるが、今日のメインは武器の鍛錬だ。俺が使う武器は最初っからかなり強いのばっかりだけど、出来る限りのことはしたいしな」


 大狼の大曲剣や、スノウから横流しされた氷ビルド一式は、最初から強化値が10とか20とかあるが、仮入れした『影踏み』ナイフとかまだ強化値0のままだったはず。


 そこで俺は、腕を組んで考える。


 ……んー、ナイフを強化するのもな。それなら大狼の大曲剣を魔改造して、『影踏み』も『影狼』も大曲剣一つで発動できる方がいいだろう。


 俺は考えながら、焚き木に爆ぜ種を入れて温度を上げ、ルーンの印章を入れていく。フェリシーは鍛冶姿が好きなのか「んふふ」とニコニコで見守っている。


「ゴット、楽しそう」


「そりゃあ楽しいさ。強い武器がこの手から生まれるのは快感だし、それが俺の手で振るわれると思うとワクワクする」


「ゴット、強い武器も、強いルーンも好きだもんね! ……そういえば、ゴットって転生者だよね?」


「ん? ああ」


「ゴットが知ってる一番強い武器って何?」


「一番強い武器ぃ?」


 俺が『あぁん?』というノリで聞き返すと、フェリシーは「ひぅっ」とすくみあがる。あ、ゴメン。素人ならそんな質問が出ても不思議じゃなかったわ。


「ご、ごめ、ゴット。フェリシーちゃん、変なこと、言った……?」


「ああいや、こっちこそごめん。普通そう言う考えはあるよな。ええっとだな、難しい話をするんだが、極論一番強い武器ってのはんだよ」


「……ないの?」


「ああ。状況や流行りによって変わる。だから、その時その状況や流行りで一番強いと考えられている武器、っていう意味で『環境武器』なんて言葉があったりもする」


「『環境武器』……」


 フェリシーは感心したように俺の言葉を繰り返している。


「それで、そうだな。俺が一番『この環境武器はしばらく人気が高かったな』みたいな印象深い武器、っていう質問になら、答えられる」


「うん! どんな武器なの?」


 俺は、ニヤリ笑って答えた。


「『帝国四聖剣』」


「……おぉ~!」


「何のことか分かってないだろ」


 空白が怪しかったので言うと、フェリシーはぷりぷり怒りながら言い返してくる。


「わ、分かってるもん! ……聖剣、でしょ?」


「間違っちゃない。この帝国の歴代勇者が使用したとされる剣の中で、最も優れた四振り。それが帝国四聖剣だ」


 全部強いんだよな。形が変わったり、他の剣を従属させたり、見えなかったり、ルーンを自動生成したり。帝国四聖剣は全部一度環境武器になってるはず。


「他にも『呪われた勝利の十三振り』シリーズとかピーキーなのもあるが、順当に強くて使い勝手が良くて格好いいのは帝国四聖剣だなぁ」


「怖い名前の武器もあるの……?」


「呪い武器ってのも悪くないんだぞ? 要するに、ちょっとデメリットがあるだけの強い武器だ。呪われた勝利の十三振りはデメリットともメリットも大きいけど」


 と、そんなことを話しているとキリがない。俺は鍛冶に戻る。


 一通りルーンを入れたし、そのまま強化に移ることするかな。


 大狼の大曲剣は伝説武器なので、普通の武器の強化素材・武鉄ではなく、透き通る武鉄となる。


 俺は鍛冶種を焚き木に投げ入れた。これで、爆ぜ種よりも焚き木が高い温度に帯びる。鍛冶場用の魔法素材という訳だ。


 俺は焚き木で剣をあぶり、それから学院の鍛冶場からパチってきた金床の上で、透き通る武鉄を使用してトンテンカンテンとやる。


 透き通る武鉄は、打ち付けられるたびに虹色の輝きを放ち、剣に馴染んでいった。しばらくすると、剣に馴染みきる。


 俺は焼き直しまでをすませて、水の中から剣を引き上げた。


「出来た?」


「ああ、いい感じだ。刀身が煌めいてる。刃の波紋も、鋭くて恐ろしいほどだ」


「おぉ~! いいねっ!」


 ぐー! とやるフェリシーにサムズアップを返しつつ、俺は「さ、強化できるところまではガンガン進めちまうか」とよれてきた腕まくりをやり直す。

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