第91話 創造主、邂逅

 まずゲームにおいての創造主が、どんな存在であったかを整理したいと思う。


 ブレイドルーンにおける創造主は、あくまでも『創造主を名乗るキャラクター』に過ぎなかった。


 ゲームの開発者というのではなく、この世界を生み出した設定を持ったキャラ。謎めいていて、歴史の真相を知り、主人公に思わせぶりな助言する。


 神秘的な美しさも相まって人気のキャラではあった。だが攻略や結婚、そもそも戦闘すらできないキャラで、プレイヤーからはそう取り沙汰されることもなかった。


 では、今は?


「ゴット君、君は面白いね」


 虹色の髪は揺れながら色を変え、変幻するオッドアイは藍色から淡い黄色に変化する。まるで、興味が瞳に宿るように。


「……何が、ですか」


 どんな言葉遣いを使うべきなのか、ということすら判然としないまま、俺は創造主に言い返す。創造主はクスと微笑み、超然としたまま言った。


「君は、特別な人」


 その言い様に、俺は魔性を感じ取る。


「シュゼットちゃんを通して無限に繰り返す今のこの世界で、シュゼットちゃんを介さずに変化したのは君だけ。むしろ、君を介して色々な人物が変化していってる」


 シュゼットのことは、もちろん知っている、という口ぶりだ。創造主は続ける。


「君は特別なんだってことは、ここ最近で気づいたよ。勇者の末裔での戦闘は、爽快でとっても良かった! 気付いたきっかけはやっぱりそこだね」


「それは、どうも」


 俺は今がどう言う状況なのか理解に苦しんでいて、気の利いた返答を用意できない。ただ、目を剥いて正面から見据えるだけだ。


「だから、驚いたんだよ。それに、分からないことが起こったって気付いた。私が作ったこの世界で、私が分からないことなんて本来あり得ないのに」


 創造主は言いながらも、クスと微笑んで机に膝をつけて手を合わせる。瞳の色が赤に変わる。


「ねぇ、ゴット君」


 創造主は、鋭い視線で俺を見た。




「私、君のことこの世界に招いてないんだよね」




「……」


 俺は、答えない。ただ、知らなかった事柄を強く咎められたような緊張ばかりが、俺の体の芯を冷たくしている。


「この世界は、確かに外からの人間を入れることがある。かつては勇者召喚で、今は転生という形で。でも変わらないのは、彼らは全員、私を通してこの世界に現れるということ」


 だから、と創造主は続けた。


「本来、私を通さずにこの世界に転生するなんて、ありえない話なんだよ。でも、君はそうしてこの世界に現れた。ありえないことをやってのけて、この世界に誕生した」


 ねぇ、と創造主は俺を見る。真っ赤な瞳が、爛々と輝いている。


「君は誰? 何者? どうやってこの世界に来たの?」


「……」


 俺は深呼吸をする。そうやって、肚を据える。それから、答えた。


「知らない。俺は、この世界にどうやってきたのか全く知らない。それこそ、俺はアンタに呼ばれたと思っていたんだ、創造主。いきなりそんなことを言われても困る」


 沈黙。静寂。俺と創造主しかいないこの空間で、俺と彼女の二人が黙れば痛いほどの静けさが満ちる。


 だが、それは、そう恐ろしい静けさではないようだった。


「―――ぷっ、あはははははっ! だよね~! そうだと思った! だってゴット君の行動、私が選定した転生者そのものなんだもん! つまり、無垢で、楽しんでて」


 ニコニコと創造主は笑って、俺に語り掛ける。


「君は私の想定する方法で入ってきた人間じゃない。けれどそれはそれ。私は君を面白くて興味深いとも思っている。だから、歓迎するよ。ようこそ、シルヴァシェオールへ」


「……これはどうも」


「ふふふっ」


 俺が冷や汗をかきながら創造主を見ると、創造主は面白そうにクスクスと笑う。ひとまず、もっとも底知れない相手を敵に回すことだけは避けられたらしい。


「えーっと、とりあえず緊張もほぐれたみたいなので、普通に話せればと思うんですけど」


「うんうん! 是非そうして欲しいなっ! あ、威嚇が終わったからって敬語もつけなくていいよ? タメ口で話そうよ!」


「すっごいフレンドリー」


 ゲームではもうちょっと謎めいてたよ。こんなに人懐こいのか創造主。


 とはいえ、はいそうですか、と俺も同じテンションで話し始めるのは無理がある。俺は眉間のシワを揉みながら、創造主に口を開いた。


「とはいうけどさ、色々と謎が多くって、ちょっと混乱してて。その、何か? 俺って不法入国者ならぬ不法入界者なのか?」


「うん、そうなんだよね~。しかも動きが明らかに最適化されてて、ちょっと驚いてて。この世界のこと、もしかして以前から知ってた?」


「あ、えーと、うん。ゲームでこの世界が舞台になってたから」


「ゲームになってるのこの世界!?」


 創造主が驚くのかよ。じゃああのゲームなんだよ。ブレイドルーンが一気に謎に包まれたぞ今。


「えー……? 創造主の私に無許可にゲーム化だなんて……。ま、そういうこともあるよね!」


「ないだろ」


 あってたまるか。


 いかん。この創造主、適当が過ぎる。世界の核に近い立場に居ながらスルースキルが高すぎる。ニコニコしながら鼻歌歌ってるし。


「でも、そっかそっか~。この世界ゲームになってるんだ。それで沢山遊んで、気付いたら~、って感じかぁ。どうだった? そのゲーム、楽しかった?」


「いやもう神ゲー。マジで。超楽しい」


「おぉ~! 私関与してないけど、自分事みたいに嬉しいな! ってことは、今のこの世界も気に入ってくれてるんだ」


「ずーっと楽しいよこの世界……。転生に気付いた時メチャクチャ嬉しかったし」


「嬉しいなぁ~。じゃあさじゃあさ」


 ニコニコ笑いながら、創造主は俺に問う。


「この世界が危機だって言ったら、ゴット君、助けてくれる?」


 ……えっ?

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