2章 氷鳥姫はトラブルメイカー

第14話 いいカモ、みーっけ!

 俺はその日、フェリシーを誘って大聖堂に訪れていた。


「ゴット、神様信じてる?」


「信じてるも何も、レベル上げって大聖堂以外だと出来ないだろう」


「あ! そうだった~」


 そんな会話を交わしながら、俺たちはシスターに会釈しつつ大聖堂へと足を踏み入れる。


 ここも大図書館よろしく、とあるやばい派閥の拠点だ。とはいえ、大図書学派に比べれば随分とマシだったりもする。『秘密を知ったな、死ね!』とかないし。


 その名も、『聖餐教会』。『神と同じ食事をすることで神に信仰を捧げる』という派閥だ。一件綺麗そうながら、にじみ出るヤバさがキモ。


 先ほど会釈したシスターさんも中々ので、ヤバい人ではあるが、それはそれとして善人なので距離を置いておけばいい。なので俺たちは、堂々と大聖堂でレベルアップするのだ。


 そう。大聖堂などを始めとした宗教施設以外で、ブレイドルーンはレベルアップができないのが特徴として一つある。


 何でも、『神に信仰と思念を捧げるためには、少しでも神に近い場所でなければならない』のだとか。ブレイドルーンの世界は実に信仰豊かなようだ。


 そんなよく分からない理屈はさておき、俺はゲームの時のように大聖堂の適当な椅子に腰かけた。フェリシーも、俺の隣にちょこっと座る。


 そして俺は目を瞑り、学生証に口づけをした。そして額へ。そうすることで、自らを祝福する神への祈りを掲げたことになる。


 すると、俺の周りにまとわりついていた思念のようなものがあることに気付く。そしてそれが浄化されていくこと。俺の中に入り込んでくること。そう言う感覚を得る。


 目を開くと、俺の学生証が示すステータスが変化していた。


―――――――――――――――――――


ゴットハルト・ミハエル・カスナー


Lv.12 + 11

生命力:11

精神力:15

持久力:11

筋肉量:11

敏捷性:14

知識量:14

信仰心:6

神秘性:9


特筆事項:なし


―――――――――――――――――――


 といっても、現段階ではレベルの横に+何レベか、ということしか追加されていない。なのでここから手動で振り直す。


 お、ギリ届いたな。1余ったし生命にでも振っておくか。


―――――――――――――――――――


生命力:11→12

筋肉量:11→15

敏捷性:14→20


―――――――――――――――――――


 思念が俺の中に取り込まれて、力を為した。レベルアップ。ゲームでは当たり前のように受け入れていたが、これは何と言うか、恐ろしいシステムだなと思う。殺しただけ、強くなるという事。


 そう。ブレイドルーンのレベルアップは、経験値で勝手に上昇するものではない。敵を殺し、恨み辛みを背負い、その思念を神に捧げることで浄化。後に力にするのだという。


 神は基本的に信仰でもって生きているというが、こう言う思念も生きる糧である、と授業では教わった。そしてその礼として、人に力をお与えになるのだと。


 にしても、流石はレベル差の大きい敵。レベルアップ量がおいしい。


 ちなみにこの敵からの思念、致命打を与えなくとも、一緒に戦っているだけで勝手にまとわりつく。その分量も減ったり、という事もないので、パワーレベリングという概念が平然と世界観に取り込まれている。皇族パワーレベリング小話とかかなり面白かった。


 ということなので、俺はフェリシーも結構レベルアップしているのでは、と思って横を見る。さてさて、妖精さんは一体何レベになったのかな?


―――――――――――――――――――


フェリシー・アリングハム


Lv.9

生命力:5

精神力:20

持久力:3

筋肉量:3

敏捷性:4

知識量:9

信仰心:14

神秘性:50


特筆事項:神秘の祝福(神秘性+20)


―――――――――――――――――――


 一レベも上がってなかった。つーか体よっわ。……いや待て精神力とか神秘とかえぐい数値のステある! なにこれ! すっげぇピーキーなステータスしてる! しかも特筆事項でさらに底上げされてる!


 すごいな。ここまでツッコミどころのあるステータスだとは。しかしフェリシーは普段通りの顔で、そのまま学生証をしまう。


「……フェリシー、レベルアップできなかったな」


「? 仕方ないよ~。フェリシーちゃんは秘密の妖精さんだから!」


 言われて俺は理解する。そうか、誰もフェリシーを認識できないから、思念もまとわりつかないのか。となると、フェリシーはこれ以降ずっとレベルアップしないことになる。


 マジか……。ヘイトが向かないから危険は少ないが、メチャクチャに攻撃を撒き散らす敵相手に挑むときは連れていけないかもしれない。―――まぁ、仕方ないか。命の方が大事だ。


 俺はそれ以上突っ込むことなく、フェリシーと共に立ち上がった。そして大聖堂を出る。


「汝に幸あらんことを。また来てくださいね」


 朗らかな悪食シスターさん(グロイとだけ言っておく)にそっと会釈して、俺たちは大聖堂から離れていく。それから、くくっと伸びをした。


「さぁて、これで一通り冒険とその後処理は終わったわけだが、次はどうしようかね」


「フェリシーちゃんまたゴットと一緒に冒険行きたい!」


「そうだなぁ。実際まだまだ色々とやりたいことはあるから、それでも良いっちゃいいんだが」


 思い出されるのは先日のレイブンズ先生の鋭い視線だ。あんまり授業をさぼりすぎるのは心苦しい。割と目をかけられている立場でもあるから、さらに。


 となると。


「冒険は冒険でも、学院内の冒険ってのはどうだ?」


「? 学院内でも冒険できる?」


「ああ、冒険できるぞ。フェリシーじゃないが、学院内には秘密がたくさんだ」


「秘密! たくさん! フェリシーちゃん学院内で冒険したい!」


「じゃあそれで行こう」


「いぇいいぇーい!」


 フェリシーはにっこにこだ。俺も同意が得られて嬉しい限り。


 ということで、学院内での冒険である。実際学院内でも秘密の空間、ダンジョンというものは存在しており、そこで冒険できるのは確かなこと。


 とはいえ、懸念点はある。というのも、学内ダンジョンは大抵誰かの管理下にあって、その誰かからクエストを受ける必要があって、平たく言うとコミュ力が要るのだ。


 そして俺はゴミカス伯爵である。何という事だろうか。すでにデバフがかかったところから、信用してもらいダンジョンへの入り口へといざなわれる必要がある訳だ。


 ……結構ハードル高いよな。どうしたもんか。


 ふーむ、と俺は考える。フェリシーは俺を真似して「ふーむ」と考える素振りをしている。何だこいつ可愛いな。くすぐりの刑にしてやろうか。


 とはいえそこでずっと考えているのも周囲から不審な目を向けられて気分が悪いので、俺はフェリシーと共にその場を離れることにする。


 そこで、不意に目につくものがあった。


 それは、真っ白な少女だった。髪も、肌も真っ白で、ひどく美しい容姿をしている。まるで処女雪のような、そんな少女。


 彼女はメイドを傍らに、大聖堂脇の庭園の中で、ロココ調の椅子について、ティーカップを傾けていた。その姿は実に優美で、美しく―――


 


「? ゴットどこ見てるの? あ、二番目のお姫様」


 フェリシーの言葉に、俺はハッとする。それから真っ白な少女が誰かを思い出し、静かに「マジか」と呟く。


 第二皇女、スノウ。ブレイドルーンで最も美しい少女。プレイヤー人気投票でも圧巻の一位。俺は彼女の派閥やイベントのことを思い出し、そしてニヤリ笑った。


 ターゲット、決まりだ。

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