第10話 妖精さんといっしょ!:旅編
俺はフェリシーと共に、とある深い森まで来ていた。
「どうどう……。この辺だったか」
「お馬さんパカパカしてる」
「そうだな、パカラってきたな」
俺は手綱を引いて、馬を停止させる。素直ないい子だな。
それから、俺は息を吐いた。まだ移動が済んだだけだが、色々とあって疲れていた。
というのもこの旅、実は出発段階でつまずいている。
例えば出発に際して馬を借りようとしたら、とうとう授業をさぼりすぎてレイブンズ先生に捕まったり。旅の途中でもフェリシーが温厚なモンスターにちょっかいかけて追いかけられたり。
「ぶえー、疲れた」
フェリシーもお疲れと見えて、馬の上でへたり込んでいた。俺は「この辺で一回休憩するか」と呼びかけると「うん~」と気のない返事が飛んでくる。
俺は馬から降りて、馬から荷物を下ろした。休憩用のシートを引くと、我先にとフェリシーが腰を下ろす。
「ハハ、そんな疲れてたのか?」
「フェリシーちゃんはお疲れなのです」
「はいはいお疲れ。ゆっくり休みな」
俺も腰を下ろし、それから魔法の地図を確認する。ゲームで言うところのマップ機能だ。うん。やっぱりこの辺だよな。
「休憩どのくらーい?」
「ん? んー……フェリシーって戦力として頼ってもいいのかな?」
「ダメ」
「じゃあ俺が回復するまで」
「ゴットが冷たいよう……」
ぐでっと突っ伏してフェリシーは呟く。あんまり遅くなっても良くないのだ。特に夜は良くない。昼の今のうちに済ませてしまう必要がある。
なので俺は、せめて気分だけでも良くしてやろう、と声をかけた。
「話は変わるが、朝はありがとうな。アレ、何やったんだ?」
「んぇ? 朝?」
「ほら、レイブンズ先生がいきなり物分かり良くなっただろう?」
「んー……あー!」
フェリシーは思い出したらしく、「ふふんっ♪」と機嫌を良くした。
そう、アレは早朝のことだった。
学院内の馬屋に訪れて、遠征用の馬を借りようとしたのだ。そこを不運にも、「何をしようとしているのかね? サボリ魔のカスナー君」とレイブンズ先生に見つかってしまった。
「……これは、おはようございます。最近は割りと授業に出ていると思うのですが」
「ああ、おはよう。そうだね。割と出ているとは私も思う。だがね、基本的に授業というものは、毎回出席するものなのだよ」
先生からの皮肉が耳に痛いところだ。俺が渋い顔をしていると、「それで?」と問いかけてくる。
「何故馬を借りようというのかね。しかもこんな朝早く」
これでお咎めは終わりなのだろうか。ゲーム時代は結構怒られた記憶があるのだが、優しいな、と思う。その油断が、良くなかった。
「ちょっと遠出して、伝説のルーン取りに行こうかと思って」
「……何?」
あ、これダメな奴だ。
「カスナー君。君は伝説のルーンというものがどういうものか、分かっているのかね」
「えー、っと。昔のルーン魔法使いが残した、遺物、ですよね」
「ああ、そうだ。昔のルーン魔法使いが残し、数多くの魔法使いが挑んでなお、今も隠されたままでいるルーンのことだ」
危険って言うんだろ? 知ってるよ。知った上で、危険性が今の俺でも回収できるくらい低い奴を選んだんだから。
と説明しようにも、レイブンズ先生は実に険しい顔で俺を見下ろしていた。これは話が通じそうにないな、と思っていたところ、フェリシーが俺に問いかけてきた。
「ゴット。危険なの?」
「いいや、危険じゃない。これは確かだ」
「分かった」
にこっとフェリシーは笑う。それから眉を顰めて「危険でない訳がないだろう」と話す先生に、彼女は指さした。
「パーミッション」
俺はキョトンとする。何かしらの魔法か? そう思っていたら、先生は言った。
「……とはいえ、これも貴重な経験か」
嘘だろ。効果抜群すぎる。
「そうだね。勉強熱心なカスナー君のことだ。何か策があって向かうのだろう。ならば好きにしたまえ。課外実習扱いにしておこう」
そう言って、その場を乗り切ったのだ。フェリシーを見ると、俺に向かってにへっと笑って「フェリシーちゃんは無敵なの」と言うのだった。
そんな一幕を経ての旅なので、実際戦力にならなくとも、フェリシーを連れてきたのは間違いではないと考えている。
迷いかけた時も、道行く人に道聞いてくれたしな。アレ、でもフェリシーって普通認識されないんじゃ。……よく分からん。
ともかく、俺相手にするりと懐に入り込んできたのもあって、きっと対人交渉において効果を発揮する何かを持っているのだろう。ゴミカス伯爵の俺にとっては、力強い仲間ということだ。
という事を踏まえての『何をしたんだ?』という問いだったのだが、フェリシーはというと。
「秘密! だってフェリシーちゃんは秘密の妖精さんだから!」
ろくに話すつもりはない様子だった。うん。何となくわかってたわ。まぁ機嫌が取れればいいので、これはこれでよし。
そんな訳で、俺たちは雑談をしながら休憩していた。「さっきのモンスターヤバかったな」「死ぬかと思った……」などなど冗談めかしてぽつぽつと話しつつ、学食で調達した昼食を摂る。
そうしていると、不意に影がかかった。
「ん、空に何か飛んでる? 鳥さん?」
フェリシーが空を仰ぎ、ぎょっとした。俺は「ああ、そういや居たな」と見上げつつ言う。
それは鳥だった。だが、尋常の鳥ではなかった。
人の顔。
不気味な鳥だった。人の顔で、俺たちを見下ろしながら真上を飛んでいた。
だからフェリシーは怯えて「ふぇええ……」と顔を青くしている。一方俺は懐かしささえ覚えながら、鳥が歌うのを待った。
旋回していた不気味な鳥が、俺たちの真上で歌いだす。
「―――夜を恐れよ旅人よ、森の夜には恐ろしき狼が闊歩する。矮小なる犬の精霊はもはや居らず、そこに潜むはげに狡猾な大狼なり……―――」
一種の歌のようなリズムで、声が続く。ひとしきり歌ってから、鳥は飛び去っていった。
「謳い鳥だな」
「あの鳥、顔こわい」
「動物の身体に人の顔は大体怖いだろ」
「そうかも……」
……で? という顔でフェリシーは俺を見てくる。こいつアレか? 俺のことガイドさんだと思ってないか?
まぁいい。説明してやろうじゃないか。
「謳い鳥ってのは、その地の謂れみたいなのを謳うんだよ。だから謳い鳥。その地に残った思念がモンスター化したと言われる奴だ」
「ふーん?」
「要するに、だ。謳い鳥が歌う場所には、伝説のルーンとか、伝説の武器とか、珍しいアイテムとかが眠ってるんだよ。だから謳い鳥が目印になるんだ」
「おぉ~。楽しみ!」
「ああ、楽しみだろ?」
初見時は随分とワクワクさせられたものだ。ともすれば、俺が面倒がらずにフェリシーに教えているのは、フェリシーのワクワクを通じて自分のワクワクを思い出そうとしているからか。
「ってことは、夜に危険なモンスターが出る……? 犬の精霊はコボルトだから、んん……?」
そして早速謳い鳥の歌を考えだすフェリシーだ。俺は微笑ましく思いながら立ち上がった。
「よし、休憩終わり。行こうぜ」
「うんっ」
俺が立ち上がると、ワクワクした様子でフェリシーも立ち上がる。
さぁ、早速伝説のルーンを取りに行こうじゃないか。
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