第33話 カスナー祭り・後(婚約を認めない者をボコる祭り)
この序盤の時期のシュテファンの強さは、大体掴んでいるつもりだ。
初見プレイなら、だいたい30レベ前後。二つ目のダンジョンに挑み始めている時期だから、メイン武器もそこまでの範囲内だろう。
と考えつつ、シュテファンが使う武器が初期武器のロンソとカイトシールドであると知って、それも固い選択だよなぁなどと思ったりする。ロンソもカイトシールドもラスボスまで使えるいい武器だ。
俺は大曲剣を肩に担ぎ直し、息を吐く。スノウが俺とシュテファンの間に立ち、手を掲げた。
「では、両者見合ってください――――いざ尋常に、勝負開始ッ!」
先に仕掛けてきたのは、シュテファンだった。
駆け足で肉薄、からの構え、踏み込み。
俺はその動きを知っている。ロングソードに最初からついている、汎用ルーン。強すぎはしないが、中々に強い。渋ささえあるスキル。
【かち上げ】
【影狼】
俺は、シュテファンの食らったら必ず打ち上げられスタンするスキルを『影狼』で回避し、そのまま瞬時にシュテファンの背後に回る。そして、追加の一撃を振るった。
それに、シュテファンは対応してきた。
【影狼】
【パリィ】
シュテファンの盾が振るわれる。俺はそれにマズイと直感し、僅かにタイミングをずらした。結果、パリィは不発に終わる。ただし盾のダメージカットもうまく機能したのだろう、シュテファンにも痛がる様子はない。
そうして、俺とシュテファンは同時に背後に飛び退いた。一合目のやり取りは、ほぼ互角だ。俺は、これが主人公か、と何だか戦慄するような気持ちになる。
だが、シュテファンはじっと自分の盾を見つめ、それから俺に言った。
「いいや、降参だ。カスナー、お前割と強いな」
「は?」
まだ続くものと思っていた戦闘がいきなり終わってしまって、俺はキョトンとしてしまう。一方シュテファンはもう興味が失せたと見え、そのまま立ち去って行ってしまった。
「……何だったんだ、あいつ?」
俺は首を傾げる。だが、本人がもういいというからには良いのだろう。俺は大曲剣を肩に置きながら、その背中を見送った。
他には、挑戦者はいないか。周囲に視線をめぐらせるも、我こそは、と手を挙げるものは居ない。言うてゴリマッチョもイケメンも強い部類に入るからな。こんなものだろう。
とはいえ俺から一方的に切り上げるのもどうかと思うので、待ってみる。その間に何となくここまでの連戦に思いを馳せて、思った。
……装備を瞬時に変えられないのは、やっぱり面倒だな。ブレイドルーンでは、流石にゲーム的というか、装備選択をものすごい速度で行えば戦闘中に切り替えも出来たのだが。
何か大ルーンでウマイ仕掛けを作れないものか、と考える。こう、今までにない、大規模な大ルーンを。
そこで、「次、お願いします」と声が上がった。何者か、と思ってみると、そこには少女が立っていた。
ヤンナだった。
「……ん?」
俺の元婚約者。戦闘にも連れていけるが、基本的にヒーラーとして役に立ってくれるような、穏やかなポジションのヒロインその一。
そんな穏やかなはずのヤンナは、亜麻色の髪を乱れさせ、手にはトゲトゲの真っ黒な鈍器―――モーニングスターを握っていた。
……え、何? こわい。
野次馬たちも、今までとは毛色の違う挑戦者の登場に、興味津々の様子だ。俺だって男子生徒に挑まれるとは思っていたが、まさか女の子、しかも元婚約者に挑まれるとは思っていない。
「え、えっと、ヤンナ? 挑むのか? その、危ないぞ? しかもそんな武器、どこで手に入れたんだ?」
「我が家の家宝です」マジ?「そんなことより、次の相手を、お願いします」
俺は困惑してしまって、スノウの方にどうする? という目を向ける。スノウは少し迷ってから、拳をぐっと固めてパンチの仕草をした。わぁとってもいい笑顔☆
やれと。スノウお前、俺にやれというのか。
「では、行きます。―――おりゃあああああッ!」
勢い勇んでモーニングスターを振りかぶってくるヤンナに、俺は戦々恐々だ。その立ち振る舞いは、戦い慣れた人間のそれではない。武器に振られている。
俺は【影狼】で大きく離れ、モーニングスターを振るった勢いで倒れ込んでしまうヤンナを眺めるばかり。
ドシャア、とヤンナは訓練場の砂を被って倒れ伏す。
……痛々しい。痛々しいよ。
「や、ヤンナ。どういう意図があっての挑戦なのかは分からないんだけど、その辺りでやめておいた方が……」
「う、うぅ、うぅぅうううう……!」
俺がそろりそろりと寄っていくと、ヤンナは大泣きしながら立ち上がり、そのまま泣きながら俺にモーニングスターを振るってくる。
「う、うおお、危ない。危ないってヤンナ」
「うぁぁあああああああ!」
ヤンナはとっくに言葉が通じる状態ではない。野次馬たちは「どんな挑戦者だろうと、ちゃんと戦ってやれー!」「挑戦者に敬意を払え~! あはははっ!」とすっかり面白がっている。
いやいや、出来る訳ないだろ。他の連中はちゃんと出来る奴らだったから、こかしても受け身が取れるんだ。ヤンナをこかしたら結構大きめの怪我になるぞ。無責任なこと言いやがって。
俺は流石に叩き潰すことも出来ず、しかし強制的に拘束するにはブンブン振り回されるモーニングスターが邪魔で、というデッドロック状態に陥ってしまう。
そうして、このまま体力切れになるまで待つか? と覚悟を決め始めたタイミングで、間に割って入るものが居た。
「も~! 困った時は、フェリシーちゃんを頼ってねって、言ったのに!」
プリプリ怒った様子で、フェリシーが俺の横に立つ。それに「え、いや、お前」と言った瞬間だった。
フェリシーが、ヤンナを指さす。
「スウーン」
モーニングスターを振るっていたヤンナが、急速に全身から力を抜いた。そのまま倒れ込んでしまいそうだったから、慌てて駆け寄り抱き留める。
腕の中を確認すると、ヤンナはどうやら気絶していたようだった。え、相手を問答無用で気絶させる魔法ってヤバくね?
「……フェリシー、お前、意外に強い……?」
「言ったでしょ! フェリシーちゃんは、無敵なの!」
ぷんすこしながら主張するフェリシーに、「今何が起こった?」「あの女生徒が興奮しすぎて気絶したのかね」と噂する野次馬。そして駆け寄ってくるスノウ。
スノウが、高らかに宣言する。
「これをもって、カスナー祭りを終了とします! 全員、解散してください!」
こういうときの鶴の一声が出来るのが、なんとも皇族らしいところだった。
それから俺たちは、ヤンナを抱えて移動し、スノウが現時点で所有する談話室に腰を落ち着けていた。
ヤンナを長ソファに寝かせ、軽く回復魔法を入れるなど介抱する。
「じゃあ、起こすね?」
「ああ、頼む」
俺が一通り処置を終えたのを確認して、フェリシーは言う。状況としては、フェリシーがヤンナの頭側を陣取り、俺が顔のすぐそば。スノウが俺の肩につかまって覗き込む形になる。スノウが妙に近い。
そして、フェリシーがヤンナの額を指で叩くと、ヤンナは僅かに体を跳ねさせ、それから目を覚ました。
「う……ここは……?」
「起きたか」
俺が言うと、ヤンナは目を見開いて俺を見た。それから「あ……、あ……!」と怯えるような声を上げる。
―――俺から聞くのは多少酷だが、何でこんな事をしたのかは知っておくべきだろう。
そう思いながら、「なぁ、ヤンナ」と声をかけようとする。だが、それよりも早く、ヤンナは俺に、泣きながらこう言った。
「こんな、あん、あんまり、です……! もう、お許しください、ゴット様。ヤンナは、嫉妬で狂ってしまいそうです……!」
……え? 何て?
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