ルール。
日本に限らず、世界各国で行われているダンジョンアタックは、迷宮事変から一年経った今でも全然進ん無い。
誰も彼もがダンジョンの第五階層に居る中ボス的なモンスターを倒せずに居る。
その中ボス的なモンスターを倒し、その先に進み、最下層である第十階層に居た銅竜を殺した唯一の存在。それが私らしい。
…………いや、そんな馬鹿な。
「…………えっと、五階層、なんだっけ、確か、ビリビリする大きなライオンみたいな化け物、モンスターでしたっけ?」
「ええ。DM公式でサンダーレオと呼称されるモンスターですね。世界であれを倒して先に進んだのは、優子さんだけなんです」
いやいやいや、そんな馬鹿な。ないないない。
「……あれ、そんなに強くないですよ? 中ボスって聞いても違和感があるくらいで」
「まぁ、それも含めて詳しく説明しましょう」
お父さんもお母さんも知ってる情報なのか、特に口は挟まないでナイトと遊んでいる。ずるい。私もナイトと遊びたい。
「まず、そもそも人類がなんでダンジョンを管理して、可能なら殺さなければならないのか。そこから教えます」
推定神様的な存在が作ったダンジョンとDM。
その出現と同時にダンジョンから這い出てきたゴブリンは人類へと牙を向き、その時点で相当多くの犠牲者が出た。
端的に言えば満足な軍を持たない小さな国は、たったそれだけで滅びた。今現在、世界地図に載る国々は一年前と数が違うのだと言われて、あまりに規模が大きな話しで困惑する。
お医者さんのお話しは続く。
DMを良く見れば載っているダンジョンルール。そこにはダンジョンを放置すると溜まるヒートゲージと、そのヒートゲージの減らし方、そしてヒートゲージが完全に溜まると何が起きるのかが、一番最初に記載されている。
ヒートゲージが溜まり切ったダンジョンは、その溜まり切った回数と同じだけの階層を地上に解放する。
分かりやすく言えばヒートゲージが一回溜まり切るとダンジョンは第一階層のモンスターを地上へと解放し、二回溜まれば二階層までのモンスターを解放する。
つまり、十回溜まればあの銅竜が地上に出て来る。
「ダンジョンから湧きっぱなしになる訳じゃなく、ヒートゲージが溜まり切った時点でダンジョン内に存在するモンスターだけってルールがあるのでまだマシですが、それでもゴブリンだけでもいくつかの国が滅びましたからね。人類はダンジョンのヒートゲージを溜めてはならないのです」
ダンジョンの中でモンスターを殺せば、そのモンスターの強さに応じたヒートゲージ減少が発生する。なので人類は相当積極的にダンジョンへ潜らなければならない。
銅級ダンジョンのヒートゲージ蓄積率は、モンスター討伐ゼロの状態で半年あると溜まり切る設定らしい。
そして、世界に存在する各
「そして、優子さんが
私がクリアした銅級ダンジョンは最低ランクのダンジョンで、つまりは一番弱かった。
その代わりヒートゲージの蓄積が一番早いのだが、今の人類にとってはその速さが致命的なのだ。
「と言っても、世界に発生した数々のダンジョンは基本的に銅級だけ。いま世界に存在する銀級ダンジョンは一つだけで、金級ダンジョンはまだ一つも存在しません」
ダンジョンを制覇すると次のランクのダンジョンが産まれる。銅を超えれば銀が、銀を超えれば金のダンジョンが世界に新しく発生する。金を超えた先はまだ不明。
だから、いま世界に唯一存在するらしい銀級ダンジョンは、私が銅級ダンジョンを制覇したから産まれたのだ。
つまり、犯人は私!
「銀級ダンジョンは一層からもう銅級の中ボスレベルが雑魚として出て来るので、全くヒートゲージが減らせなくて物凄く危険な状態なんですが、今は置いておきましょう」
物凄く大変な状態だと思うけど、お医者さんが置いておくと言うなら置いておこう。
ヒートゲージの他にも、DMにはダンジョン攻略に必要な情報、いや、
まず私の身に起きた自己強化現象、レベルアップ。
これはゲームで良くある物で考えれば良いとお医者さんは言うが、私はそんなにゲームをやってなかったのでよく分からない。
ポケットなモンスターを育てるあのゲームで考えれば良いのかな。ふむ、なら私はその内、進化でもするの?
それから、私が手に入れた蒼炎の力。
これは覚醒と呼ばれるもので、ダンジョンに行けば誰でも手に入るが、誰もが手に入れられない神秘。
私がナイトの死を悲しみ、それを成した敵を怨み、そうして自分の心が吹き飛ぶくらいに魂を揺さぶると起きる現象らしく、条件さえ整えば誰でも手に入る力らしい。
だけど、なのに、その条件が達成出来なくて、殆どの人がまだ手に入れられてないのだそうだ。
この力は生半可な感情の暴走では手に入らない。DMにハッキリそう書いてあるのだと言われた。
具体的に言うと「想いだけで命を落とす程の感情が暴走すると覚醒出来る」と。なんだそれは。
覚醒で発現する力は、その時魂を揺さぶった感情の種類と、揺さぶられた理由などが大きく関係して産まれる。だから全員が蒼炎を手に入れる訳じゃなく、その人に合った能力になる。……らしい。
世界でもまだ覚醒出来た人間は、判明してる人数は現在できっちり十人だとお医者さんは言う。隠してる人も居るかも知れないけど、流石にそれは分からない。
「…………そっか。覚醒してるかどうかで、ボスの難易度とかが違うんだ」
「そういう事ですね。それと、発現した能力とボスの相性も重要になりますし、そもそも発現した能力の強さも人それぞれなんですよね」
だから人類は未だ、五層を越えられない。
既に覚醒してる他の人でも、中ボスと相性が悪かったり能力がそもそも弱かったり、戦闘向けじゃなかったり、様々理由があって五層超えが出来ないんだ。
「あと説明するのはやはり、DMアカウントの管理ですかね。配信や動画は基本的に自動で行われるんですが、それ以外にも色々と機能がありまして」
DMのサイトでログインページに
パスが無いなんて他人がログインし放題じゃないかと思ったけど、信じられないことに本人以外が名前を入力しても弾かれるのだそうだ。
まるで誰かがリアルタイムでその場を確認してるような、超常的でふざけたログインシステムだけど、成りすましやアカウント乗っ取りが不可能だと考えれば別に悪いことも無い。ただ気味が悪いだけで。
「アカウントにログインしてマイページを起動しますと、アカウントの持ち主のレベルやインベントリの確認が出来ます」
ダンジョンでモンスターを殺し続けると発生するレベルアップ現象。
その回数を自分で覚えてレベルを把握する必要は無く、DMにログインすれば何時でも確認できるシステム。
そしてダンジョンでモンスターを倒すと手に入る様々なアイテムは、すべて自動でインベントリと呼称される空間に保存され、DMを操作するとインベントリに保存されたアイテムを取り出す事が出来る、らしい…………。
良く考えなくても意味不明だし、仕組みが全く分からないけど、とにかく私とナイトで貯めた三ヶ月分の成果はインベントリに残ってるそうだ。
と言うか、私がダンジョンに落ちた時にネットへ接続出来る何かしらの端末さえ持っていれば、そしてナイトが死ぬ前に目を覚ませれば、それだけで助かった可能性すらあった。
「…………恐ろしいことに、例え端末が電波を拾えなくても、圏外でも契約切れでも、DMのサイトにはアクセス出来てしまうんですよね。つまりダンジョンの中でもDMは使用可能」
ネット環境が途絶した端末であっても、DMの利用に限りどんな状況でも接続出来る謎仕様。ここまで徹底されると「あ、ほんとに神の仕業なんだな」と考えるしか無い。
そしてDMのアカウント機能の一つに、『帰還』がある。
ダンジョン内部で端末を使ってマイページのこの機能を使うと、即座にダンジョンの外へと出られるんだそうだ。
端末さえ持ってれば、ナイトが死ぬ前に目覚めてれば、一緒に逃げられさえすれば、一緒に帰れた。ナイトも一緒に生きて帰れたのだ。
その事を知って、私は悔しさで気が狂いそうだった。この怒りで私は、誰を燃やせば良いのだろうか。
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