まおの気持ち。



 夜。目が覚める。


「……くぅぅんっ」


「………………なぁ、ちゃ?」


 顔をぺろぺろされて目が覚めると、そこにはナイトが居た。


 真緒は、青く薄く燃える家族を見て、また・・だって思った。


「おねーちゃんが、泣いてるの?」


「わぅ……」


 パジャマのまま、ベッドから降りてお部屋を出る。ナイトの案内でおねーちゃんの部屋に行くと、ナイトが扉の中にスっと消えるように入って行って、中からカチャって音がする。


 幽霊になっちゃったナイトは、扉をすり抜けて中の鍵を開けられるんだ。


 そうやっておねーちゃんのお部屋に入ると、中はピンクばっかりの可愛いお部屋がある。その奥で、やっぱりピンクのベッドで寝てるおねーちゃんが居る。


「ぁ、はぅあッ…………、はっ、はぁ……」


「おねーちゃん。…………おねーちゃんっ」


 また、うなされてる。


 おねーちゃんがダンジョンから帰って来て、ずっとそう。


 夜、おねーちゃんがうなされてると、ナイトが真緒か、おかーさんか、おとーさんを呼んでくる。


 それで、心配そうにずっと、おねーちゃんのお顔をぺろぺろする。


 今日はたしか、おかーさんは病院に行って『かうんせりんぐ』って言うのをやって、お薬貰って来てたから、たぶんお薬飲んで寝てるんだね。だから今日は真緒の番。


 真緒は、おねーちゃんが心配でベッドに潜り込む。中に入ってぎゅっとして、おねーちゃんを暖かくする。


 うなされてる時のおねーちゃんは、真緒の白雪みたいに冷たくなるから。


 真緒は、後悔してる。


 目が覚めたおねーちゃんに、真緒はバカって言った。諦めたおねーちゃんが許せなくて、いっぱい叩いて困らせた。


 でもダンジョンで戦って、どのくらい大変な場所で、どれだけおねーちゃんが頑張ったのかを知ってから、ずっとずっと後悔してる。


 おねーちゃんは、頑張ってた。真緒たちはナイトが見えてたけど、おねーちゃんには見えてなくて、一人でずっと、ずっと、ずっと頑張ってた。


 真緒なんか、おねーちゃんとナイトに手伝ってもらっても沢山怪我して、泣いて、死にそうになってたのに………………。


「おねーちゃん。まおが居るよ。大丈夫だよっ」


 おねーちゃんはあの時、一人だった。


 凄く、寂しかったと思う。


 凄く、悲しかったと思う。


 そんな場所で頑張ってたおねーちゃんを、真緒は叩いて泣かせた。


「…………ごめっ、……ぃ」


「んーん、ちがうよおねーちゃん。ごめんなさいは、まおだよっ」


 優しかったおねーちゃん。明るかったおねーちゃん。


 ダンジョンで全部捨てちゃったけど、でもやっぱり優しかった、大好きなおねーちゃん。


「……………………ぁぁっ、うぅうぃぃあッッ」


「大丈夫、だいじょーぶだよおねーちゃんっ」


 真緒が、温めてあげるから。


 ナイトもベッドに潜り込んで、反対からおねーちゃんをぎゅってする。ナイトはいつでもおねーちゃんを守ってくれた、頼れるおにーちゃんだ。


 ああ、なんでナイトは暖かいのに、なんで真緒は冷たいんだろう。


 真緒も、おねーちゃんみたいに燃えるスキルなら良かったのに、なんで凍らせるスキルなんだろう。


 スキルは、こころが形になるって教わった。


 真緒はあの時、ゴブリンを見た時になんて思ったかな。


 ………………とまれって、おもったな。


 動くなって。おねーちゃんの前でもう二度と酷いことをするなって。もうおねーちゃんを泣かせないように、酷いことしないように、ずっとずっと止まって、二度と動くなってお祈りした。


 …………………………真緒のチカラは、止めるチカラ。


「…………とまって」


 おねーちゃんが見てる怖い夢も、おねーちゃんの震えも、涙も、全部全部止まってよ。もうおねーちゃんを苦しめないで。


「くぅぅっ?」


「ナーちゃんが、あたためて。まおは、止めるから」


 スキルはこころ。


 おねーちゃんを守って、最後の時も「死にたくない」じゃなくて「守りたい」って願ったナイトが、おねーちゃんを暖めるんだ。何も出来なかった真緒じゃなくて、おねーちゃんを温めて良いのはナイトだけなんだ。


 だから、代わりに…………、


「まおが、おねーちゃんをイジめるぜんぶ…………」


 凍らせころしてやる。


「大好きだよ、おねーちゃんっ」


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